雇用統計を受けてドル売りになるも、ECB当局者からのけん制発言、そして3連休を控えた利益確定の動きから、ほぼ雇用統計前の水準で為替は終了し、株式市場はQE2(第2弾の量的緩和)期待によって若干のプラス圏で取引を終了。

市場の関心は、11月のFOMCにおいてどの程度の量的緩和がなされるのかに注目が集まっています。海外メディアにおいては、様々な意見が出てきていますが、FOMCのメンバーの間では意見が分かれています。そして、もう一つのポイントとしては、ブラジル中央銀行総裁が伝えた『通貨戦争』という言葉に代表されるように、G7、さらにG20などを受けての通貨安競争に対する圧力という話題に関して、圧力を受ける側の国々がどう反応するでしょうか。

まずは、先週の米雇用統計の内容を受けて、米経済の労働環境は改善方向にはなかなか乗りにくい状態と市場ではみています。もちろん、民間部門雇用者数は前月と変わらずの数値とはなっていますが、賃金上昇率が前月比0%と落ち込んでいることから、消費マインドも上昇しにくいどころか、守りの姿勢になる可能性すらあります。

今週は、FRB当局者からの講演予定も毎日あり、バーナンキFRB議長も金曜日にスピーチすることになっています。そしてFRBとしても気になる物価動向・小売売上高の発表も週後半に控えていることから、QE2に絡んだ思惑もかなり増幅されることになるのではないでしょうか? 量的緩和は為替市場にとってはドル売り要因と市場で見ており、マネーの動きとしては、ドル離れを起こして新興国・資源通貨へと流れやすくなっています。

もちろん、新興国側としても黙って見ていることにはならず、スムージングオペレーション(介入)や国債への過剰資本流入を抑える意味で規制をかけ、国内経済のバブル化を抑制するスタンス。しかし、日米欧の低金利・量的緩和スタンスが長期化すれば、これらの地域に対する資本流入はそう簡単には収まらないかもしれません。

ただ、気になるのはそのシナリオに乗った新興国・資源関連への投資に関して、現状の先進国に低金利状態が前提であることは認識しておきましょう。将来的な時期はもちろん未定ですが、先進国においても持ち直してくる時期となれば、欧米市場への資本回帰という可能性は考慮したほうが良く、又、11月から12月にかけてはドル需要という時期になりやすいということもあり、駆け込んでまでこれらの地域への投資を膨らませることは警戒しておくべきという慎重意見も出ています。どの程度の量的緩和観測になるかはわかりませんが、その期待どの一喜一憂を促す経済指標とFRB当局者コメントで日々変化しやすい地合いになるかもしれません。

そして、もう一つの話題である通貨戦争。最大のターゲット国は中国であることは、市場は認識しています。過去日本もかなりの圧力を受けて、円安是正を余儀なくされた過去がありますが、今回もそれになぞらえて第2のプラザ合意となるかどうかと思われていました。しかし、話し合いは平行線となり、中国の頑なな姿勢を崩すことはできませんでした。一部メディアでは中国輸出企業の利益率というのが4-5%程度といわれています。

基本となる基礎産業はほぼ海外企業からの進出分に加え、それに倣った中国国営企業を中心とした企業群。海外当局からの人民元切り上げ圧力の%がどの程度かわかりませんが、前述の数値が示されたことはそれ以上の早期切り上げを求めた可能性があるのではないでしょうか? IMF側からは、言葉でいろいろを取りつくろう場面ではなく、実際に行動・アクションを見せるべきで、現状のままであれば、さらに懸念が増幅される可能性を言及しています。

また、今週金曜日には、米財務省の為替報告書の発表期限が迫っています。もちろん、金曜日に発表されるとは限りませんが、今まで中国に対して為替操作国として米財務省は載せることは控えていましたが、はたして今回の発表においてどのようなスタンスを取るのでしょうか。

こういった中で、日本の介入に関して野田財務大臣はコメントを控えめにしていますが、立場としては単独で行動したことに関しては、気まずかったでしょう。

市場においては次回の介入の可能性はあるのかどうかと皆様同様に気をもんでいるかと思いますが、対中国の海外当局の姿勢を考慮すれば、断固たる措置のシナリオは低いかもしれません。むしろ、ユーロ圏・オーストラリアなどのようにスムージングオペレーションのような市場の過熱感を緩衝する介入の可能性がまだ現実的かもしれません。

週明けから81円台前半に下落しているドル円ですが、雇用統計前後の高値を上抜けない限り、下値模索の可能性はまだ高いと市場ではみています。また、他の通貨におけるドル軟調の地合いを考慮すれば、ポジション調整的なドルの買い戻しの可能性はあるかもしれませんが(前週のユーロ圏当局者コメントのように)、どの程度まで回復できるかどうか。前述の為替報告書とも絡んで、よほどの円売り材料(地政学上リスクも含めて)か、ドルの買い戻し材料が出てこない限り、ドル円の反発は厳しい地合いにあると思います。

ただ、最近ドルの下落地合いに対して、ユーロ圏・カナダから懸念のコメントも出てきています。(逆に週明けにはオーストラリア側は、パリティーでも問題ないのではないかというコメントも出ていますが)

市場のFRBのQE2に対する過剰反応という一面もあるかもしれませんが、市場が織り込まれる段階になればドル売りのシナリオに乗ることはやや慎重にすべきでしょう。今週の米経済指標等次第でしょうか。

そして、今週から米企業の業績発表もありますし、日本側においては消費に関連する企業の中間決算発表もあります。米株式市場はFRBの量的緩和を織り込んで(米金利の低下傾向を受けて)、堅調に推移してきましたが、はたして今週の各イベントに加えて業績発表次第でどのような展開になるのか。低格付け社債に対して人気が集まっているようですが(金利面の魅力でしょうね)、信用リスクは高止まりのままという矛盾をどう考えていったほうが良いのでしょうか? 低金利状態だから問題ないと簡単に片づけてしまってよいのでしょうか?

そして、堅調な株式市場とユーロという展開になっている欧州市場においても、アイルランド・ポルトガルとCDS市場を中心としたリスク警戒感も高止まりのままです。目先の国債入札が好調という点では良いかもしれませんが、低金利状態において余剰のマネーが支えているという地合いではないでしょうか? 信用収縮という罠に再度陥った場合にはリスク許容度低下という展開になる可能性は否定できません。

現状ではそれぞれの話題で指摘される点が多くありながらも、先進国の量的緩和政策によって余剰マネーが新興国等に流れ込んでいるというゆがんだ環境ともいえるかもしれません。デフレ傾向の先進国と、インフレ傾向の新興・資源国。その上でお互いに経済はつながっているというこの糸を解きほぐす状態はそう簡単ではないでしょうが、ゆがみ解消の際の急変動には気をつけておきたいものです。

今週の主要経済指標

10月11日(月)
(仏)8月鉱工業生産
(米)ダドリー・ニューヨーク連銀総裁 講演
(米)イエレン・サンフランシスコ地区連銀総裁 講演
(米)トリシェECB総裁 講演(ワシントン)
(米)ラッカー・リッチモンド地区連銀総裁 講演
《休日》米国(株式市場は通常取引)、日本(為替市場は通常通り)
10月12日(火)
(独)9月消費者物価指数 改定値
(仏)8月経常収支
(英)9月消費者物価指数
(英)8月貿易収支
(米)ホーニグ・カンザスシティ地区連銀総裁 講演
(ユーロ圏)トリシェECB総裁 講演
(米)米財務省3年債入札
(米)FOMC議事録 発表
10月13日(水)
(日)8月機械受注
(中)9月貿易収支
(仏)9月消費者物価指数
(英)9月失業率
(ユーロ圏)8月鉱工業生産
(米)MBA住宅ローン・借換え申請指数
(米)9月輸出入物価
(米)米財務省10年債入札
(米)ラッカー・リッチモンド地区連銀総裁 講演
10月14日(木)
(日)9月企業物価指数
(中)9月外貨準備高
(ユーロ圏)ECB月報
(ユーロ圏)ビニスマギECB理事 講演
(米)新規失業保険申請件数
(米)9月卸売物価指数
(米)8月貿易収支
(米)財務省30年債入札
(米)コチャラコタ・ミネアポリス地区連銀総裁 講演
(加)8月国際商品貿易
(韓)BOK 金融政策会合
10月15日(金)
(日)日銀支店長会議
(日)白川日銀総裁 全国信用組合大会で挨拶
(日)8月鉱工業生産確報
(ユーロ圏)8月貿易収支
(ユーロ圏)9月消費者物価指数 改定値
(米)9月消費者物価指数
(米)10月NY州製造業業況指数
(米)9月実質所得
(米)9月小売売上高
(米)バーナンキFRB議長 講演
(米)10月ミシガン大消費者信頼感指数 速報値
(米)8月企業在庫
(米)財務省為替報告書発表期限
(米)ロックハート・アトランタ連銀総裁 講演
(その他)メキシコ中銀金融政策会合

企業業績予定

・12日 ローソン、J・フロンテイリング、高島屋、Intel Corp.

・13日 JPMorgan Chase & Co., Bank of Greece, China steel

・14日 AMD, Google

・15日 General Electric