同社はクラウドベンダーのパイオニアと名乗りを上げていることもあり、ベニオフ氏はこれまで何度もクラウドコンピューティングについて講演を行ってきたが、「今日は前回しなかった話をしたい」と言った。

同氏は、トランザクション当たりのCO2排出量を自社運用型ソフトとクラウドサービスで比べると、前者が1.35グラムであるのに対し、Googleのサービスを利用する場合は0.3グラム、Salesforceを利用する場合は0.03グラムであり、クラウドは環境効率がよいと説明した。「ソフトウェアを販売しているオラクルやヒューレット・パッカードはCO2排出量削減について何も対策を打っていない」

また、先月米国サンフランシスコで開催されたオラクルの年次カンファレンス「Oracle OpenWorld 2010」に参加したという同氏は、「オラクルはカンファレンスでソフトウェアとハードウェアで構成したシステムを"クラウドコンピューティング"と言っていたが、それは違う」と話した。

「ソフトウェアもハードウェアも購入する必要がないのがクラウドコンピューティング。だから、プライベートクラウドをクラウドコンピューティングと呼ぶことは許せない。"効率性が低い"、"経済性が低い"、"ソフトウェアの民主化を実現しない"、こうした要素を持つ"クラウド"は偽者だ。日本には偽者クラウドが蔓延している」

同氏は今年5月から6月にかけて日本に滞在してイベントや企業でクラウドについて講演を行ったそうだが、日本の企業がクラウドについて誤った認識を持っていることに驚いたという。「日本企業の人たちが"私たちの会社にもクラウドはあります"と言うので、詳しく聞いたところ、ベンダーがクラウドと称するシステムはハードウェアもソフトウェアも古いアーキテクチャに基づくものだった。クラウドはハードウェアのボックスではないし、バージョンアップも必要ない」

同氏がクラウドの特徴という「民主主義」という定義からもプライベートクラウドは外れている。Salesforceは中小企業から大規模企業まで同じサービスを利用することができる。これに対し、ハードウェアとソフトウェアから構成されるクラウドはコストも高く、中小企業では手が出せないというわけだ。

基調講演の後に行われたプレス・ブリーフィングで、同氏はさらに「偽者クラウド」について説明した。

「仮想化はクラウドを構成する技術だがクラウドではない。仮想化はサーバの効率化を実現するが、省エネには効かない」と同氏。そのほかマルチテナントなど、クラウドを実現する技術とクラウド自体を混同してはいけないという。

そして、「ハードウェアとソフトウェアからユーザーを解放するのがクラウドであり、この意見についてGoogleとAmazonは同意している」と、同氏は説明した。さらに、こうした状況を払拭するために、国内にデータセンターを構築し、「真のクラウドコンピューティングとは何か」を日本で示したいという。

そのほか、今年末に発表が予定されている「Winter'11」のChatterの新機能についても発表が行われた。次期バージョンでは、「フィールドの絞り込み」、「ユーザー/グループのおすすめ機能」、「Chatter検索」、「ダッシュボードのフォロー」、「Chatterダイジェストメール」などがある。加えて、BlackBerry/iPad/iPhone/iPod touchの新版に対応した「Chatter Mobile」も提供される。

競合企業に対するライバル心を隠すことなく、いつも情熱的な講演を行うベニオフ氏だが、今回もプライベートクラウドを提供するベンダーに対し厳しい反論を行っていた。クラウドの導入期を迎えつつある日本だが、ベンダーの主張の真偽を見極めつつ、自社の戦略に適したITを選択することが最重要課題かもしれない。

左から、セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長 宇陀栄次氏、NTTコミュニケーションズ 代表取締役副社長 海野忍氏、米Salesforce.com会長兼CEO マーク・ベニオフ氏、米Salesforce.com Executive Vice President, Technology パーカー・ハリス氏