――これまで、「これはやられた!」と思ったデザインはありますか?

例えば、小学校の教室。窓際にあるヒーターの消し忘れに気づくために設置された操作ノブ部分の電球。電球が光っていればオン、消えていればオフ。教室を出るときに、遠くから確認するだけで"安心"していられる工夫だ。「キレイなデザインのスイッチを求めるのではなく、スイッチのあり方を考えるようなデザインをしていきたいです」

「もののデザインではなく、コンセプトのデザインに惹かれることが多いですね。

記憶力がないんで、全部忘れてしまうんですが(笑)。これいいな!って感じる機会はすごく多いです。

少し昔の例になってしまいますが、IDEOのKeep the changeはアメリカ人の特性を理解してできたサービスだと思います。これを知って、形だけではなくサービスもデザインできるんだな、と影響を受けました」

――今後の夢は?

「プロダクトに軸足を置きたいという気持ちは強いのですが、外見だけデザインできても面白くない。形だけではなく、企業内の問題をデザインでどう解決していくか、ということを提案するデザインコンサルタントとして働くのが理想的です」

トレンドを作るのではなく、「長く残るデザインを生み出したい」と語る岩原さんも来春、学生生活に別れを告げる。彼がデザインしたサービスやモノたちが私たちのライフスタイルになくてはならないものとして登場してくるのを待つばかりだ。



「Keep the change」
「いい!」と思っても3秒後には忘れてしまうと話す岩原さんの"記憶に残るデザイン"は、デザインシンキングの火付け役となったデザインコンサルティング会社「IDEO(アイデオ)」による、Bank of America「Keep the change」キャンペーンだ。
デビットカードの新規加入者を増やしたいというクライアントの要望に対し、IDEOは アメリカ人のカードやお金の使い方について徹底的に調査。アメリカ人の主婦がお釣りのやりとりを面倒くさがるという点に着目し、1ドル以下のお釣りを、自動的に貯金してくれるというサービスを展開した。例えば、$4.52の買い物時には、Checking Account(当座預金)から$5が引き落とされ、Saving Account(普通預金口座)に$0.48を振替えることで、"お釣り"を面倒くさがる主婦の買い物を楽にする。また、入会サービスとしてBank of AmericaがKeep the changeで貯金した金額と同額を貯金してくれる特典も用意されていたという