『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』の著者に聞く!

7年間、60億キロにもおよぶ宇宙の旅。地球の技術者たちとの強い絆に引かれるかのように、小惑星探査機「はやぶさ」は孤独な宇宙空間から地球圏へ帰還し、その任務を全うした。2010年6月13日の大気圏再突入は記憶に新しい出来事だろう。『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』(マガジンハウス)は、そんな「はやぶさ」の旅立ちから終着までを追った一冊だ。2003年5月9日の打ち上げから「はやぶさ」の動向を取材し続けた、ノンフィクション作家・山根一眞氏による渾身の記録書である。「はやぶさ」が意味するものとは何だったのだろうか。そこに思いを馳せた日本人の姿、宇宙へ進出することの意味について山根氏に話を伺った。

ノンフィクション作家・山根一眞氏。獨協大学経済学部特任教授。7年間にわたり「はやぶさ」の動向を取材し続けた。作家や"元祖モバイラー"として新聞、雑誌で活躍する一方、NHK総合テレビの外部キャスターも務めるなど活動の幅は広い。JAXA(宇宙航空研究開発機構)嘱託でもあり、『メタルカラーの時代』『環業革命』『賢者のデジタル』など著書多数

──「はやぶさ」は日本の宇宙開発史上、もっとも注目された探査機ミッションだったと言えるかもしれません。それを裏付けるかのごとく『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』の売れ行きも好調とか。なぜ、人々はこれほどまで「はやぶさ」に惹かれたのでしょうか?

山根氏 さまざまな要因が考えられますが、もっとも大きな理由は「ちゃんと地球に帰ってきた」ことでしょうね。7年の歳月をかけて、およそ60億キロの距離を飛行して戻ってきたわけです。目的は、長径がわずか500メートル程度の小惑星・イトカワまで辿り着き、地表のサンプルを採取……つまりは星のかけらを拾って、地球に持ち帰ること。「そんなことができるのか!?」と、誰だって思いますよ。

小惑星探査機 はやぶさの大冒険』(山根一眞 著/ マガジンハウス刊/ 1,365円)

人類が足跡を残したもっとも遠い場所は月ですが、イトカワまでの距離はその比ではない(地球~月の距離はおよそ38万km。イトカワ到着時は地球から約3億km)。スペースシャトルや国際宇宙ステーションが活動しているのは、宇宙空間といっても高度380キロ程度ですから、どれほど遠い場所まで行って、帰ってきたか、その壮大さがわかります。

また、これまでの探査機はいわば"片道切符"で、宇宙に出たら基本的には帰ってきません。たとえばアメリカの「ボイジャー」は太陽系から離れて外宇宙へと旅立ってしまったし(現在、ボイジャー1号は太陽から約171億km離れたところを飛行中)、日本の「かぐや」は、月の表面に計画どおり制御落下させて運用終了になったことなどから見ても、「はやぶさ」が従来のミッションとは違う印象を人々に与えたといえるでしょう。

──本書にもふんだんに描かれていますが、「はやぶさ」の持つ物語性というか、エピソードの豊富さも印象的でした

山根氏 ええ、数々のトラブルに見舞われ、何度も「もうダメだ」という危機的状況に遭遇しながら、それを克服してきたことも、人々を惹きつけた要素のひとつだと思います。まさに満身創痍、ボロボロになりながら、大切なカプセルを抱いて飛び続け、無事にカプセルを地球に送り届けた。

私は打ち上げ前から「はやぶさ」計画を追い続けて、2003年5月9日、内之浦宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられる姿を見送りました。そして7年後、今年6月13日にオーストラリアのウーメラ砂漠上空で「はやぶさ」の本体が燃え尽きる光景を見届けることができた。無事にカプセルを切り離した「はやぶさ」は、まるでこの世のすべてを照らすような輝きを放ちながら消えていった。とても切ないけど、一方で「やり遂げたぞ!」という「はやぶさ」の声が聞こえてくるような、美しい散り際。本書を読んでくれた読者の方々の感想を見ると、そんな「はやぶさ」の最期に何かを感じ取ってくれた声は多いし、報道された映像などを見て胸に迫るものがあった人も多いのでは。……つづきを読む