ステートマシン・パス
ステートマシンをベースにした静電容量方式ボタン製品もあり、これは最適なカスタム・ブロックを使用することにより、基本的に電力効率が向上されています。例えばIDTが提供している「LDS6100」シリーズは、継続的にフル・パワーモードで稼動させて、高い応答性のタッチ特性と最善なユーザー体験の実現が可能です。LDS6100の低電力アーキテクチャでは、フル・パワー、ゼロ・レイテンシの性能を、65μA(1.8V供給で125μW未満)で実現できます。LDS6100は低電力モードが設定可能であり、リモート・コントローラ、時計、ドア・ロックなど、バッテリ駆動のアプリケーションで有効的です。このモードは「スリープ・モード」と呼ばれ、検出/スキャンのサイクル間で検出を行わない短期間(通常0.25μs未満)に実行されます。このモードを使用すると、消費電力は従来の半分以下まで低減できる可能性があります。
低電力モードでは、タッチが検出されない1~15μAを消費するスリープ・モードと、最大で65μAを消費するフル・パワーモードが自動的に切り替えられます。挿入される非検出周期(スリープ・モード)は、レジスタで設定可能です。低電力モードにすると、その結果として、平均消費電流はアクティブな検出回数とスリープ時間との関係で決まります。マイクロコントローラの場合は、最低平均電流は、マイクロアンプの100s単位になります。ステートマシンの場合と比較すると「大きい」電流は65μAになります。さらなる省電力のためには、どちら(マイクロコントローラまたはステートマシン)を導入する場合でもスリープ-復帰-スリープという方法を使用します。ステートマシンをベースにした手法に関しては、消費電流が20μAまで減少し50msの遅延が生じます。マイクロコントローラの場合、「復帰」からスリープ・モードに移行するのに必要な時間は、通常、およそ数百ミリ秒です。
先端的なタッチ・スクリーン技術
より低コストのソリューションへの傾向は、静電容量方式タッチパネル業界に多大な衝撃を与えています。現在提供されているもので多数を占めている製品は、マルチレイヤ・タッチパネルによるものです。静電容量方式タッチパネル・ソリューションのほとんどは3層で構成されています。
層は、X電極、Y電極、保護層からなり、2つの特徴的な静電容量タッチ・パターンが使用されています(1層につき1つ)。保護層は周辺環境および電気回路のノイズから保護するために使用されています。基本的に、追加のコストをかければS/N比が大きくなります。3層を使用するということは、感度、生産能力、システム応答に関して設計上のトレードオフを伴います。消費電力も要因の1つでしたが、最も重要なことは、精巧で進歩的なユーザー体験を実現するインタフェースを可能にすることでした。使用する層を増やすと、その副作用として、画像がユーザーに届くまでにより多くの材料を通過しなければなりません。また、各層で歪みが発生する可能性が高くなり、バックライトの輝度を非常に高く設定する必要があります。3層静電容量方式タッチパネルは「相互静電容量技術」として知られているアーキテクチャと同義です。
市場では、今後さらに層の枚数が少ない静電容量タッチパネル・コントローラが求められると想定されます。こうした状況を受けて、静電容量方式タッチパネル・ソリューションの究極の目標は、単独層ですべてを行うことといえます
ITO単独層を使用するメリットとして、各層のコストをそれぞれ1.5ドルまでに抑えることでパネルが低コストになること、そして、明るさが増すため消費電力が抑えられることがあげられます。一方で課題としては、スクリーン上に作成するパターンがあげられます。2層が取り除かれ、単独層のパターンは固有のものとるため、企業秘密となります。ITO単独層の静電容量タッチパネルは、通常、「自己容量」方式として知られているアーキテクチャと同じ意味合いで使用されます。
相互静電容量方式と自己容量方式との間にはシステム上のトレードオフがあります。ただし、半導体やパネル・メーカーがその違いを最小限度に抑えたり、無効にしたりできるように努めています。実際に、3層パネルからの静電容量値のタッチ読み取りが、単独層パネルからの静電容量値の読み取りに変わっても、基本的な電子技術は変わりません。回路の多くは再利用されます。層の数が減るだけでなく、必要とされるバックライトの輝度が下がるため、省電力化を実現することができます。
まとめ
携帯機器メーカーはこれまで、顧客の購入意欲に影響を及ぼす重要な要因であるユーザー体験を、顧客行動に合わせ対応してきました。アダプティブなコンフィギュレーションの柔軟性や低消費電力などの要求が登場したのはつい最近のことですが、このような要求はユーザー体験全体の向上に対する重要な要因となっています。市場には、複数の異なるインタフェース・メカニズムが提供されています。最近では、電力効率を高めるため、静電容量方式タッチボタンはステートマシンをベースにしたアプローチを取る傾向があります。静電容量タッチパネルに関しては、ITO単独層技術を使用することで、コストを最も低く抑えつつ優れた電力効率を求めるソリューションが可能になっています。
著者
Wallace Ly(ワラス・リイ)
米Integrated Device Technology(IDT)
アナログパワー・フィールドアプリケーション・エンジニア
2008年より同社において電力およびビデオ・マネジメント製品、および携帯電話やマルチメディア機器を含む携帯電子機器の新たなニーズに対する技術の設計における顧客支援を行っているほか、顧客と主要な戦略上のエンジニアリングにおけるリレーションシップを構築、アプリケーション支援のマテリアルの作成やアナログおよびパワーエンジニアリング技術の教育に従事している。