携帯機器メーカーはこれまで、顧客の購入意欲に大きく影響を及ぼす重要な要因であるユーザー体験を、顧客行動に合わせて対応してきました。アダプティブなコンフィギュレーションの柔軟性や低消費電力などの要求が登場したのはつい最近のことですが、このような要求はユーザー体験全体の向上に対する重要な要因となります。本レポートでは、従来のタッチセンサ技術と先端的なタッチセンサ技術の概要を述べ詳細を検討していきます。特に、スマートフォンやタブレットなどの携帯機器における静電容量方式タッチ・ソリューションの設計上の考察とトレードオフに焦点をあてて詳細に述べていきます。
携帯機器のUIの進化
ユーザー・インタフェース(UI)は、人間が機械/コンピュータとの間で情報をやりとりするためのツールおよびメカニズムです。iPadや電子ブック(eBook)といったコンシューマ機器の最終製品の品質は、ユーザー・インタフェースの構築精度と直接関係します。
ユーザー・インタフェースが広く普及するまでの歴史は、タイプライタ用のQWERTY配列キーボードの発明にまで遡ります。QWERTY配列のキーボードは、機械にデータ(単語)を迅速に入力し、ハードコピーとして紙に記録する必要性から誕生しました。これは非常に機械的な性質のものでした。非常に強く各キーを押すことにより、実際にキーが十分な力でインク・リボンを叩き、紙の上に文字が表示されます。やがて、打ち込んだ単語を後で保存、編集、印刷できるように紙が不揮発性のメモリに置き換えられ、ワード・プロセッサが誕生しました。
携帯機器のコンシューマ製品、具体的に言うと、初期の頃の携帯機器は基本的にQWERTY配列のキーパッドの模倣でした。機械式プッシュ・ボタンを使用し、ユーザーの意図をCPUが反応し理解できる電圧レベルに変換するというものです。こうして人間は機械の操作方法に順応するよう求められました。比較的シンプルな機器の場合、たとえば基本的な電話(固定または携帯電話)などでは、非常に上手く機能しました。このインタフェースを使用可能にするために必要な電力は比較的低く、多くは静電流がゼロでした(リーク電流は無視しています)。
しかし、より複雑な機器や機械になるほど人間の行動や反応を管理する精巧な技術を使用しなければ、往々にして最終製品の使い勝手が悪くなり「難しすぎて使えない」と思われてしまう可能性があります。
スマートフォンのユーザー・インタフェースは、このようなスマートフォンのジレンマを解決するために、すみやかに改善する必要がありました。プッシュ式のボタンは、間もなく抵抗膜方式タッチパネルをベースにしたインタフェースに変更されました。しかしながら、基本的なユーザー・インタフェースに変更はありませんでした。
ここで、抵抗膜方式タッチパネル・インタフェースは利用可能な唯一のインタフェースではない、ということに注目する必要があります。実際、他にも多くのインタフェース(静電容量方式、表面弾性方式など)が存在していましたが、携帯機器では抵抗膜方式タッチパネルほど広く普及しているインタフェースはありませんでした。携帯機器の分野において、抵抗膜方式タッチパネル・インタフェースは携帯電話市場セグメントにおける電力、性能、価格の各基準を満たしていました。ここで念頭におくべきことは、使用するユーザー機器が何であれ、基本となる根本的なユーザー・インタフェースは変わらなかったため、機械式ボタンと競合しなければならなかったということです。
そのような状況下でiPhone、iPad、および iPodなどのタッチ製品が登場し、静電容量方式タッチパネル・インタフェースが採用され広く導入されました。導入に際してAppleが取った行動は非常に急進的とみなされました。当時の市場動向では、携帯電話の大多数は機械式ボタンまたは抵抗膜方式タッチパネルをベースにしたインタフェース(またはその両方)を搭載していました。静電容量方式タッチパネル・インタフェースは、多くの携帯機器メーカーではまだ視野に入れていませんでした。しかしながら、静電容量方式タッチパネル・インタフェースの採用によって、基本となるユーザー・インタフェースを、ジェスチャ認識などの差別化機能で劇的に改善することができるようになったのです。