上松松司氏が代表取締役を務めるユナイテッド システムズ パートナーズは、日経225先物を対象とした自動売買システム「Bアップ50」「騎士(ナイト)シリーズ」「一気通貫シリーズ」などを販売しているトレードシステムプロバイダーだ。
前回は、上松氏のトレードシステムについての考え方をお聞きした。今回は、上松氏が考えているサービスの事業モデルについてお話を聞く。トレードシステムを会費制だけではなく、完全成功報酬制で提供するモデルを試みているのだ。
利益を出しているシステムを使っても、利益が出ない会員がいるという"盲点"
ユナイテッド システムズ パートナーズは、2005年10月に最初の日経先物トレードシステム「粛々トレードシステム(SSTS)」の販売を開始して、約5年になる。この「粛々」はデイトレード型であり、A、B、Cの3種類のシグナルがある。いずれも過去の運用実績はプラスであり、特にシグナルCは年単位で見ると毎年プラス、先物ラージ1枚で年平均300万円の利益を生み出しているという優秀なシステムだ。
「ところが、このシステムをお使いの会員が全員一様に利益を出しているわけではないということがわかってがく然としたのです」(上松)。
利益を生み出すシステムを使っておきながら、なぜ利益が出ていない会員がいるのか。さまざまな理由の一つは、例えば3日連続で損失がでると、そこでシステムの使用を中止してしまう。あるいは、たまたまその日に大きな損失が出ると、やめてしまうなど、損失がでた時点で心理的な面から続けられなくなってしまうケース。
もう一つは、勝てそうな時だけシステムを使い、そうでない時は休むという使い分けをしようとするケース。あるいは、トレードシステムが出すシグナル通りではなく、裁量も入れてしまう。いわゆる手動決済をして、損切りを早めに行ったり、利益確定をしてしまうケースだ。「裁量の要素を加えると本来の裁量取引と実質的に変わらない結果となり、システムトレードの成果をうまく自分のものとするのは難しい」(上松)。
システムトレードの世界では、いいシステムと出会って、それを使えば、確実に利益が出るとだれもが考える。では、それを使う会員が本当にそれで利益が出せているのかというと、現実は違う。必ずしも、全員が利益を出しているわけではないのだ。「いくら実績を上げているシステムであっても、それを現実に使わない人、何らかの理由で使えない人がいらっしゃるんです」(上松)。
「これは私どもにとって、大きな発見でした。最初は、安定的に利益を出せるシステムさえ開発すれば、お客様は利益が出て、喜んでいただけるものだと思っていましたが、現実はそうではなかったのです」(上松)。
利益が出た時のみ対価をもらう『完全成功報酬制』を着想
上松氏は、このような顧客が出てしまう理由のひとつは、自分でシステムを作っていないことにあるという。人の作ったシステムだから、"確信"が持てない。連敗した時には、疑心暗鬼になる。それでシステムを使わない、裁量を入れるということになってしまうのだ。
「利益が出ても出なくても、毎月定額の会費をいただくというのは、元々しっくりこない感覚でいました。本来なら、弊社のシステムを使って、利益が出たときに、その利益の一部を対価としていただくというのが本筋ではないかと。いわゆる『成功報酬』です」(上松)。
顧客から見れば、トレードシステムは「他人が作ったシステム」だ。使ってみれば、おおよそどのようなロジックで作られたものかは分かるとしても、細部やバック・データに基づく信頼度まで分かるわけではない。どうしても、心の奥底には不信感が残ってしまう。これが、勝っているときであれば、そのような不信感には"フタ"をしておくことができるが、負けが続くと、その不信感が顔をのぞかせてくる。その上、決して安くない会費までとられているとなると、極端な場合は、「利益を出さないシステムを使わされて、さらに会費をとられている」と感じてしまうことすらあるのだ。
上松氏は、システムの性能に自信があるからこそ、『完全成功報酬制(利益が出たときだけ、一定割合の使用料を徴収する)』にすれば、顧客のメンタルケア問題の一部も同時に解決でき、会員からの納得が得やすいモデルになれるのではないかと考えたのだ。
「私の考えは、社内でもずいぶんと議論を呼びました。一つは経営的な問題で、それで収支が合うのかという問題。もうひとつは、成功報酬というのは後払いですから、本当にお客様が会費を支払ってくれるのかという問題です」(上松)。
システムとして損失のある月は支払わなくていい、利益の上がったときだけ請求がいくという形なので、利益が出ても、支払いを渋る顧客が出てくるのではないかという心配だ。
「そこでトライアルということで、オプションのシステムトレードという新しい企画の「オプションM組(低証拠金型)」について、応募期間限定で、完全成功報酬制を行ってみました。すると、もれなく100%のお客様がきちんと成果報酬額を支払ってくださいました。それも1回だけでなく、その後もずっと続いています。なぜなら、現実に自分の取引で利益が出ているわけですから、その一部を報酬として払っても、その後も続けたいとなるわけです。社内での心配は杞憂だったのです」(上松)。
しかも、大きな副次効果もあることがわかった。ある顧客が、なんらかの理由で、1カ月間システムを稼動しなかったとしよう。しかし、その月は、システムを動かしていれば一定の利益が出たはずだったとする。この場合、その顧客は、システムを動かしていなかったのだから、利益はゼロだ。しかし、成功報酬額の請求は「システムを完全に動かしていた場合の利益」に基づいて発生する。その顧客は、「システムを動かしていなかった」利益機会損失があったうえに、成果報酬額まで支払わなければならなくなる。となれば、システムを動かすというのは簡単な作業なのだから、だれだってシステムを動かしておいた方が得策だと考えるだろう。「成功報酬制は、システム運用を継続させていく強力な後押しにもなることが分かったのです」(上松)。
上松氏は、この完全成功報酬制の対象は、現在「オプションM組」だけだが、ユナイテッド システムズ パートナーズが扱っている他のトレードシステムにも広げていきたい考えだ。これは、かなり新しいビジネスモデルで、発想の発端は、話題になったベストセラー本『フリー』にあるという。今後はさらに具現化すべく、現在有料配信しているシステムの一部をフリー(無料化)配信することも検討中だという。
利益を上げていない顧客から、会費をもらうのはしっくりこない、なんとか納得して払ってもらう仕組みができないか。そこから考えを膨らませていって、以前から問題だと感じていた顧客のメンタルケアの問題を同時に解決できる方法を練り上げていった。「何よりも、利益を出した人からだけ、お金をいただくのですから、こちらも気分がいいのです(笑)」(上松)。
人間の心の弱さを補う「ビジネスモデル」の必要性
システムトレードの世界は、だれもが「利益の出るシステムはどれなんだ?」ということだけを考えてきて進んできたような気もする。優秀なシステムさえ見つけることができれば、「だれでも利益があげられる」と思われてきた。ところが、現実はそうではなかった。「トレードというのは"孤独な戦い"です。システムを使うのも独りぼっち。利益が出ても独りぼっち。損失を出しても独りぼっち。そこで生き残っていくためには、人間の弱さを補完してサポートする『仕組み』がないと、人並みの精神力では負けてしまう」(上松)。
しかし、人並みの精神力の人だって、利益は出したいのだ。
そもそも、システムトレードとは、「ルールにそったトレード」で、PCを使うかどうかというのは本質ではない。人間の心は弱いから、厳格なルールを決めておかないと、心が折れてしまう。システムトレードとは、人間の弱さを補うための手法ともいえるのだ。そのルールが、コンピュータープログラム化されていくのは、技術の進歩にともなう当然の進化。しかし、その進化の過程で、私たちが本来のシステムトレードの意味を忘れてしまったところがあるのかもしれない。
これからの、トレードシステムプロバイダーは、優秀なシステムさえ作ればいいというのではなく、ビジネスモデル面でも、人間の弱さを補う仕組みが要求されていくのかもしれない。投資家が求めているのは、"結果の利益"なのだから。