NTTドコモは9月15日、東京大学と共同で「モバイル空間統計」を利用した街づくりに関する研究を行うと発表した。研究期間は2010年11月1日から2011年3月31日までで、東京大学柏キャンパスがある千葉県柏市で実施する。共同研究者は東京大学大学院 新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻の清家剛准教授(建築・都市計画研究家)。

同日、都内で説明会が行われ、NTTドコモ 先端技術研究所 ネットワークシステム 研究グループ 主幹研究員の岡島一郎氏がモバイル空間統計、今回の共同研究の概要について説明した。

モバイル空間統計は、携帯電話サービスを提供する過程で必要となる位置データや属性データなどの運用データを統計処理して作成された人口分布の推計値。ドコモでは、携帯電話事業を通じた社会貢献の一環としてモバイル空間統計の研究に取り組んでいる。

岡島氏ははじめに、「ドコモでは、携帯電話のネットワークは携帯電話がいつでもどこでも電話やメールなどを着信できるように、各基地局のエリア内にいる携帯電話を把握しており、このデータで通話相手がどの基地局のエリア内にいるのかを判断している。ユーザーが移動すると、どの基地局のエリア内にいるのかのデータが更新される。このデータを運用データと呼んでいる」と説明。この運用データを使って、基地局のエリアごとにどんなユーザーがいるのかを性別や年代の属性ごとにその数を把握することができ、モバイル空間統計は、「この数にNTTドコモの携帯電話の普及率を基に修正を行い、人口分布を推計した結果」(岡島氏)だという。

研究の概要を説明するNTTドコモ 先端技術研究所 ネットワークシステム 研究グループ 主幹研究員 岡島一郎氏

モバイル空間統計は、携帯電話システムを運用するためのデータを利用している

モバイル空間統計では、人口分布、人口構成、移動人口などが把握でき、人口分布からは人口の地理的な分布、人口構成からは性別・年齢別の人口、移動人口からはエリア間を移動する人口が分かる。「実際に23区内の人の動きなどに関するデモを行ったが、24時間を通して、通勤時間帯にどのように人々が移動しているのかを見ることができた」と岡島氏は説明する。

人口分布のデモ。朝5時だと、まだ都心に人が集中していない

9時をすぎて、通勤時間帯になると都心部に人口が集中してきているのが分かる

新宿と巣鴨の人口構成のデモ。20時ぐらいだと、新宿はピラミッド型、巣鴨は高い年齢の方までまんべんなくいる

新宿と巣鴨の5時ぐらいの人口構成。新宿は人がいなくなっている

携帯電話サービスの運用データを元データに利用しているため、カバレッジはFOMAのサービスエリアに、屋外の空間解像度はFOMA基地局の設置間隔に依存する。東京23区では500mほど、郊外では数km程度となる。時間解像度は、FOMA基地局がエリア内にある携帯電話を把握する頻度に依存するため約1時間ごとという特性を持っているという。

なお、元データは、携帯電話の番号、契約者情報が記録されており、プライバシーが含まれている。そこで、プライバシー保護のため、個人識別性の除去を行う非識別化処理を行い、個人を特定できない情報に変換し、その上で、ドコモの普及率を加味して人口を推計している。このような自主ルールの基準は今後、「モバイル空間統計ガイドライン」として公開し、寄せられた次第で、統計の実施基準を変更するとしている。

FOMAの運用データを使っているため、モバイル空間統計の特性はFOMAネットワークの特性に依存している

モバイル空間統計の作成方法。個人を特定できないように集計している

モバイル空間統計で得た統計データは、公共分野、学術研究分野、産業分野への応用が期待されている。公共分野では、街づくりや防災計画などで客観性のある基礎データとしての活用が期待されているという。今回の東京大学との共同研究は、この公共分野の研究が行われる。

共同研究は3つのフェーズに分けて実施される。フェーズ1では、モバイル空間統計を活用して人口変動を推計し、柏市の季節・曜日・時間による属性別人口の変動を把握する。フェーズ2では、人口変動と都市空間(公共施設、公共交通機関、公園、住宅地といった実際の街の構成要素)の関係性を分析する。フェーズ3では、都市空間の有効利用計画の立案を行い、高齢者向け公共施設の設置、公園の改良、コミュニティバスの整備などを提案する。

統計は、公共分野、学術研究分野、産業分野に対して有用な情報基盤となることが期待されている

共同研究は、モバイル空間統計を活用した人口変動の推計、人口変動と都市空間の関係性の分析、都市空間の有効利用計画の立案の3つのフェーズを想定して実施される

主に、NTTドコモが「モバイル空間統計」のデータを提供、東京大学で検証、応用の研究を進める。研究段階のモバイル空間統計が、「実際に使えるかどうか」「どのように応用できるか」を検討していくとしている。