チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー ・リミテッド(チューリッヒ保険)の社是である、「ケア」と「イノベーション」。この社是は、日本支店においては、前回前々回にご紹介したネット・モバイル活用による顧客サービスのほか、同社が『カスタマー・ケア・センター』(CCC)と呼ぶ、コールセンター業務でも実現されている。

今回は2回にわたり、この「カスタマー・ケア・センター」について、どういった点で「ケア」と「イノベーション」を実現しているのか、実現のためにどのような工夫をしているのかについて、同センター 統括部長の福永敏郎氏に、東京都調布市にある同センター内でインタビューした内容をお伝えする。

「カスタマー・ケア・センター」統括部長の福永敏郎氏

――「コールセンター」と呼ばず、「カスタマー・ケア・センター」と呼んでいる 名称の由来について、あらためてお伺いしてもよろしいでしょうか?

1997年に我々がダイレクトビジネスを立ち上げるに当たって、そのころはまずインターネットも普及していないような状態でしたから、唯一の接点というのが、スタッフとお客様との間の電話でした。

我々の商品である保険という商品、特に当社の場合は自動車保険を中心に取り扱っていますけれども、なかなか他社の商品と違いが分かりにくいものです。じゃあ、何が違うかと言ったら、もちろん保険料や付帯サービスであったりするのですが、やはり電話ごしに対応した時のコミュニケーションではないでしょうか。ここで我々が特に一番ポイントを置いているのは、お客様のニーズを聞くという「傾聴」の部分です。

どうしても、コンタクトセンターというと、説明する事とかお伝えする事に注力してしまいがちなのですが、お客様のニーズを聞くことのできる「傾聴力」が重要という認識があります。1997年にスタートするに当たっては、こういった点を重視して、単にお客様からのお電話を受けるだけでなく、お客様を常に「ケアする」という姿勢を反映する名称として、「カスタマー・ケア・センター」とすることにしました。

――「傾聴力」という言葉は初めて聞きましたが、印象的な言葉ですね。その「傾聴力」をスタッフが身につけるために、どのような工夫をしているのでしょうか?

カスタマー・ケア・センターのスタッフである「ケア・スタッフ」は、我々が全て直接採用している点に特徴があります。我々のサポートメンバーが募集広告を出すところから始めて、採用の受付、面接、採用、研修をしていく中で、「傾聴力」という我々の文化・理念を、お互いに共有していくこととしています。

東京都調布市の『カスタマー・ケア・センター』

採用に当たっては、最終的には私が履歴書をチェックして、承認するというプロセスを経るようにしています。もちろん、入社して最初から傾聴力があるというのはなかなか難しいことですので、研修を通じて、我々が何を求めるのかを伝えていくことを意識しています。

――保険業界において、いわゆるコールセンターのスタッフを直接採用している会社はあるのでしょうか?

私の知る限りでは、直接採用はあまりないと思います。あっても、派遣社員との併用という形ではないでしょうか。

――なるほど、人材採用の点から、他社とは異なる点があるというわけですね。その他の点で、違いはあるのでしょうか

電話でお客様に電話をかけていただき、商品の説明や契約の手続きをするという、いわゆるコールセンターの機能は当然あるのですが、他社の場合と機能的に異なる点として、保険証券の作成や契約の保全など、そういったバックオフィス業務も、このカスタマー・ケア・センターでやっているのが特徴です。

「カスタマー・ケア・センター」の会議室には、チューリッヒ保険の社是である「Care(ケア)」をイメージした、大きなパネルが掲げられている

簡単に言いますと、コールセンターに当たる部門としてだけでなく、サービスの実務部隊として、一人のスタッフがいろんなことができるようになっています。例えば、見積もりをして、見積もった内容を、書面にて申込書と共に送付します。それをお客様がご覧になって当センターに電話をいただき、納得して契約いただけるという場合には、申込書を返送していただきます。そして返送いただいた書類が当社に到着後、保険証券を作成するという、この一連の契約に係る手続きを、当センターのスタッフが全て一人で行えるのです。

さらに、「ケア」ともう1つの理念である、「イノベーション」の部分があります。お客様からの返送書類には全てバーコードが付いていて、到着した書類は全てセンター内の「メールルーム」でスキャナーで読み取って、サーバーの中に個人データが保管されるようになっており、ペーパーレスにもつながっています。

そのデータは、スタッフの画面で見ることができるので、どのタイミングで何の書類が届いているか把握できる状態になります。そうすると、電話を受けたときも、電話応対だけではなくて、その画面を見ながら、保険証券作成というバックオフィス業務までできるようになっています。

つまり、一人のスタッフが「フロントオフィス業務」と「バックオフィス業務」の両方をできるようになっており、私の知っている範囲内では、この二つの業務を、一人のスタッフができるセンターというのは非常に珍しい体制ではないでしょうか。

――「ケア」だけでなく、「イノベーション」の部分でも、カスタマー・ケア・センターは、社是の理念を実現しているというわけですね。

電話受付だけの対応では、お客様の要望を一旦聞いたとしても、その場で判断できないとか、回答ができないとかいうケースも少なからず発生します。我々の場合ですと、電話を受けたスタッフがワンストップでオペレーションができるため、たらい回しを防ぐことにより、お客様のストレスを減らすことができるのです。


「ケア」と「イノベーション」という、チューリッヒ保険の二つの理念を、『カスタマー・ケア・センター』が、どのように実現しているかが、分かっていただけたのではないだろうか。

次回の「後編」では、スタッフがどのような研修を受け、どのような環境で働いているかなどについて、詳しくお伝えしたい。