H-IIAロケットは12機連続の成功

H-IIAロケットの打ち上げも今号機でついに18機目。ロケットとしてはかなり成熟してきており、今回の打ち上げでも遠地点高度が36,150km(計画値は36,140km)、近地点高度が250km(同250km)、軌道傾斜角31.9度(同31.9度)と、極めて誤差の小さい軌道に衛星を投入することができた。前号機でも打ち上げの精度が高く、金星探査機「あかつき」は最初のエンジン噴射を省略できたほどであったが、それと同等の精度で投入できたという。

機体の整備作業について、三菱重工業(MHI)の前村孝志技監・技師長は「非常に順調だった。私が担当してから(H-IIAがMHIに移管されてから)6機目になるが、その中でも落ち着いていたロケットだった」とコメント。「打ち上げを積み重ねて現場の作業員の技術力が上がってきた。また設計も"枯れて"きたんじゃないかなと思う」と、ロケットの運用が安定してきた理由を説明した。これに関しては、立川敬二JAXA理事長も「MHIは良くやっている。ロケット技術を移転して良かった」と喜びのコメントを残した。

6号機の失敗以来、これで12機連続の成功となり、成功率は94.4%にまで向上。15号機以降はロケット側の原因による延期もなく、信頼性の面では世界の主要ロケットに遜色ないレベルになってきたと言えるだろう。ちなみに、15号機以降は4機連続で最小コンフィギュレーションの202型であるが、機体は前号機との違いがほとんどなく、一部枯渇部品のため電子機器を交換した程度だったという。

商業衛星の打ち上げを世界から受注するためには、信頼性のほかコストも重要なファクタである。いまは極端な円高であり、価格競争力の面では不利な状況が続いているが、ロケットのコストそのものについては、「すでにかなりのところまでコストダウンしてきた。世界のロケットと比べても遜色ない」とMHI前村技監は自信を見せる。ただし、「これ以上はロケットの信頼性にかかわる」として、さらなるコストダウンには難色を示した。

しかし、それは現行の設計が前提での話。「設計から見直せばまだまだコストダウンの余地はある」(同)として、「来年度からプロジェクトを立ち上げる予定」だという。どの程度の改修規模を想定しているのか、具体的な言及はなかったが、H-IIからH-IIAになったくらい大きな変更であれば、"H-IIC"と新しい名前になるようなこともあるかもしれない。現行のH-IIAは必ずしも商業衛星に最適化された設計ではないため、そういった部分を見直す可能性もあるだろう。

そのほか、ロケット関連では7月29日に、「来年度より通年打ち上げが可能になる」という大きな発表があった。従来は夏期・冬期をあわせて年間190日間のみ打ち上げを許されていたのだが、これは世界的に見てもかなり特異な制限であり、商業衛星の打ち上げを受注するための障害の1つになっていた。

通年打ち上げは、関係各県(鹿児島、宮崎、大分、高知、愛媛)の漁業者との間で合意に至ったもの。打ち上げられる機数は年間17機以内とされており、今後イプシロンロケットが運用を開始しても十分確保されている。これについては、衛星にあわせた打ち上げ時期が設定できるようになるほか、「我々はいつも天候に苦労してきた。特に冬期はそれで延期になることが多かったが、今後は天候の良い時期を選ぶことができる」(MHI前村技監)というメリットもある。

「商業衛星の打ち上げ受注には、信頼性の高さ、顧客のタイミングで打ち上げられること、そしてコストが重要」と述べるのはMHIの川井昭陽航空宇宙事業本部長。「打ち上げ期間の制限が撤廃されたのは非常に大きな進歩だ。いまの円高では商売がかなり難しくなっているのは事実だが、大きな3つのファクタのうち2つはかなりいい所まで来たと思っている」として、政府の努力や関係機関の協力に謝意を表した。