小川浩、小川和也両氏のクリエイティブユニット「オガワカズヒロ」主催のシリーズイベント『Web Business Shuffle2.0(WBS2.0)』が2日、Apple Store, Ginzaで開催された。電子書籍リーダーの「Qlippy」を提供するスピニングワークス代表の白形洋一氏がゲストとして登場。「電子書籍にマッチするコンテンツは何か?」などの質問に対して見解を示した。
ホスト役を務めたグランドデザイン&カンパニー代表の小川和也氏(左)とモディファイ代表の小川浩氏(右) |
スピニングワークス代表の白形洋一氏 |
電子書籍にマッチしたジャンルやコンテンツとは?
出版社をはじめ、印刷会社、大手書店など出版関連企業が熱い視線を向ける電子書籍市場。現状は、どこも手探り状態で電子書籍ビジネスに取り組んでいるといっても過言ではない。特に日本国内で普及するiPad/iPhone向けの電子書籍にどう取り組むのかが大きな関心事のように思われるが、白形洋一氏はどう見ているのか。
まず、電子書籍にマッチするコンテンツについて、白形氏は旅行ガイドや時刻表、地図などの実用書を挙げた。旅行ガイドや時刻表など、定期的に情報のブラッシュアップが必要になるコンテンツは、電子化されることによって、常に最新の情報に更新できる。それによって、読者ニーズに応えられるというのは想像に難くない。
興味深いのは実用書系のほかに、「誰かと意見交換のできるもの」(白形氏)を挙げたことだ。このことについては少し補足が必要だろう。白形氏は、iPad向けに「Qlippy」という電子書籍リーダーアプリをリリースしており、今後の開発次第で読み手がアプリ上にコメントを残し、それを他の読者と共有することで、コミュニケーションの創出が可能になるとみている。一言で言えば、電子書籍リーダーにソーシャル機能が加えられないかと模索しているのだ。
そうした考えをもとに白形氏は「ビジネスの自己啓発系など、読み手が誰かと意見を交換したくなるものがマッチする。なかでも教科書が向いているのではないか」と話す。教科書にソーシャル機能が加わることで、たとえば「読み手は自分の理解できない箇所を誰かに聞いて解決することが可能になる」。
教科書にこうしたソーシャル機能を付け加えることで、出版社にも多くのメリットがあるともいう。教科書のどの部分で多くの人がつまずくのかがわかれば、読み手に合った難易度の教材作りが可能になり、次のステップに活かすことも可能だと指摘した。
普及に向けて改良の余地がある電子書籍
では、電子書籍の普及についてはどうみているのだろうか。まず「iPadは電子書籍に革命をもたらしたのか」というテーマに対し、白形氏は「電子書籍という言葉を広めた点では影響力があった」と話す。その一方で今後の普及と言う面では「端末だけでは力不足。コンテンツ作りやコンテンツを流通させる仕組みづくりが進まないと革命というほどにはならないのではないか」。
さらには、白形氏は「電子端末に歩みよる形でコンテンツが変化していく必要がある」とも指摘した。紙媒体と電子端末上ではコンテンツの最適な表現形態が異なり、紙媒体向けてではなく、電子媒体に向けてコンテンツを作りこんでいく必要があるというのだ。
電子書籍を読んだ人からは「目が疲れる」といった感想をよく耳にするが、そうした声が上がるのも電子端末でのコンテンツの見せ方が最適化されていないからにほかならない。「電子端末で書籍を使って読んだときに、疲れない長さの文章にするなど、紙媒体を電子化したときに違和感の生じないコンテンツ作りが必要になる」(白形氏)。
"ケータイ小説"に紙媒体の小説とは違った独特な表現や見せ方が誕生したように、電子書籍も個別の進化を遂げる可能性がある。電子書籍には文字をベースにした文芸作品は向かないといった意見もあるが、電子端末上で文字を読ませる技術の発展で、そうした意見に変化が訪れるのかもしれない。