図1 ウイルスバスター2011 クラウド

トレンドマイクロは31日、ウイルスバスターシリーズの新製品となるウイルスバスター2011 クラウドを発表した。今回のバージョンアップでは、基本設計の部分から大幅な見直しが行われ、製品名にも「クラウド」の名称が付加された。その名前の通り、クラウドコンピューティング技術を利用し、大幅な機能改善が達成されている。本稿では、ウイルスバスター2011 クラウドの新機能や発表会での模様などを紹介したい。

ウイルスバスター2011 クラウドの新機能

まずは、ウイルスバスター2011 クラウドの新機能であるが以下の通りである。

  • スマートスキャン
  • ローカル相関分析
  • ブラウザガード
  • データ消去ツール

スマートスキャンはウイルスを検出するシグネチャの80%をクラウド上のデータベースを使う。これにより、PCの負荷を下げ、最新、かつリアルタイムにPCを保護することができる(詳細は後述)。ローカル相関分析では、ウイルスを検出するとそのダウンロード元のURL、ダウンローダーの情報などをトレンドマイクロに報告する。トレンドマイクロでは感染経路などを分析し、さらに脅威に対抗する手段を講じる。ブラウザガードでは、HTML内に埋め込まれた悪意のあるシェルコードの振る舞いを検出し、不正なWebサイトをブロックする。データ消去ツールは、ファイルの削除において復元できないようにする。米国のセキュリティ基準に準拠した方法で行われる。

「ウイルスバスター2011 クラウド」のシステム要件や価格

まずはウイルスバスター2011 クラウド(Windows版)が対応するOS(日本語版)は以下の通り。

  • Windows 7 Ultimate、Professional、Home Premium、Starter Kit
  • Windows Vista Ultimate、Business、Home Premium、Home Basic(SP1以上)
  • Windows XP Home Edition、Professional、Media Center Edition 2005、Tablet PC Edition 2005(SP3以上)

Windows 7、Windows Vistaは、32ビット版と64ビット版にネイティブに対応する。CPUは以下の通り。

  • Windows 7、Windows Vista:Intel Pentium 1GHz以上
  • Windows XP:Intel Pentium 450MHz(800MHz以上を推奨)

メモリは以下の通り。

  • Windows 7、Windows Vista:512MB以上(1GB以上を推奨)
  • Windows XP:256MB以上(1GB以上を推奨)

また、ハードディスクの空き容量として、500MB以上が必要。

図2 ウイルスバスター2011 クラウドの起動画面

今回もMac版が同梱される。ウイルスバスター for Mac(Mac版)の対応OS(日本語版)は、以下の通り。

  • Mac OS Xバージョン10.4「Tiger」(リリース10.4.11以上)
  • Mac OS Xバージョン10.5「Leopard」(リリース10.5.5以上)
  • Mac OS Xバージョン10.6「Snow Leopard」(リリース10.6.0以上)

CPUはPowerPC(G4、G5)またはIntelプロセッサ、メモリは256MB以上、ハードディスクの空き容量として400MBとなる。ウイルスバスター for Macに関しては、機能的にも特に大きな変更はない。Windows版の機能の一部を搭載していないものもあるで、詳細はトレンドマイクロのWebサイト(http://virusbuster.jp/)で確認してほしい。製品と価格(実際はオープン価格であり、表示はトレンドマイクロのオンラインショップでの価格)は表1の通り。

表1 ウイルスバスター2011 クラウドの製品と価格

パッケージ版 価格
ウイルスバスター2011 クラウド1年版 5,980円
ウイルスバスター2011 クラウド 3年版 12,800円
ウイルスバスター2011 クラウド 6ユーザパック 9,800円
ウイルスバスター2011 クラウド+保険&PCサポート 1年版 7,980円
ウイルスバスター2011 クラウド+保険&PCサポート 3年版 16,980円
ウイルスバスター更新パック 6,705円
ダウンロード版 価格
ウイルスバスター2011 クラウドダウンロード 1年版 4,980円
ウイルスバスター2011 クラウドダウンロード 2年版 8,980円
ウイルスバスター2011 クラウドダウンロード 3年版 11,800円
ウイルスバスター2011 クラウド 6ユーザパック ダウンロード版 8,980円
ウイルスバスター2011 クラウド+保険&PCサポート ダウンロード 1年版 6,980円
ウイルスバスター2011 クラウド+保険&PCサポート ダウンロード 2年版 11,900円
ウイルスバスター2011 クラウド+保険&PCサポート ダウンロード 3年版 15,980円

ダウンロード版は8月31日から、パッケージ版は9月3日から販売される。

クラウド時代の新たなセキュリティとは

発表会では、まず、同社取締役日本地域担当の大三川彰彦氏が登壇し、クラウド時代のセキュリティ、トレンドマイクロの今後の取り組みなどを発表した。

図3 同社取締役日本地域担当、大三川彰彦氏

大三川氏はトレンドマイクロの製品が個人向け、企業向けでもNo.1の販売実績を達成したことをまず報告した。そして、ウイルスバスター2011 クラウドがまったく新しい製品として生まれ変わったことを強調する。製品名に「クラウド」という言葉を使った理由として、トレンドマイクロの最新技術を集中し、新たなセキュリティ環境を構築することがこめられているからとのことだ。従来のウイルス検索の方法を抜本的に変更し、スマートスキャンという新たな機能が導入された。その背景となったのは脅威の増大である。

図4 増大を続ける脅威

大三川氏は、AV-Test.orgのデータを引用し、1.5秒に1つの割合で新ウイルスが発生している。さらに未知の脅威を含めれば、この3倍以上になると推測されるとのことだ。そして、ウイルスの92%がWeb経由で感染する。このような脅威に対抗するには、事前に、そしてリアルタイムに防御を行う必要がある。その防御力こそ、現在求められるものであると力説する。それに応えるのがスマートスキャンである(図5)。

図5 スマートプロテクションネットワーク

クラウド上に多くのリソースがさかれ、大量のデータが処理される。結果、多くの脅威がブロックされている。トレンドマイクロでは、さらにデータセンターを増強し、ユーザのPCのメモリやディスク容量、企業ではサーバのディスク容量を軽減していくだろうとのことだ。そして、トレンドマイクロでは、デジタルインフォメーションを安全に使える環境を目指すとのことだ(図6)

図6 トレンドマイクロのビジョン

大三川氏は、すでにレピュテーション技術のiPhone/iPadへの無償ダウンロードの提供、SONYのPSPやPS3にも有償ベースで提供をし、日本のユーザから要望のあった、USBメモリの感染などに対応し、日本で開発を行い、世界に提供をしている。今後も利用環境を意識し、その環境を安全に使えるソリューションを提供していく、と締めくくった。

ウイルスバスター2011 クラウドのスマートスキャン

コンシューママーケティンググループプロダクトマネージャー、長島理恵氏は、新機能の概要を紹介した。ここでは、今回の新機能のスマートスキャンに注目した。

図7 コンシューママーケティンググループプロダクトマネージャー 長島理恵氏

まず、長島氏は製品に求められているものは「安全」と「軽快」であり、今後も変わることのないニーズと考えているとのことだ。そして、この両立への課題が浮かび上がる。その1つがパターンファイルの肥大化である。現状、基本技術としてパターンファイルマッチングが使われている。利点として、より正確にウイルス対策が可能である。しかし、2つの問題点がある。それは、

  • 脅威の発見から対策までに物理的時間がかかってしまう(1.5秒ことに発生する脅威にリアルタイムに対応できない)
  • パターンファイルのデータの肥大化(ユーザのPCに負担を与え、軽快を損なう)

がある。

図8 パターンファイルの課題

「安全」と「軽快」はまさに両天秤であり、どちらかを優先しようとすれば、一方が犠牲になることが一般的であった(図9)。

図9 安全と軽快のジレンマ

トレンドマイクロでは、この両立について、様々な工夫をしてきた(図10)。

図10 安全と軽快の両立に向けて

長島氏によれば、Webレピュテーションを使ったTrendプロテクトにより安全性の向上、システムチューナーの搭載で軽快性の提供をしてきた。しかし、パターンファイルの肥大化については、PCに負荷をかけてしまうことがさけられなかった。そこで、数年をかけ、アーキテクチャの抜本的な改革を進めてきた。それが、今回の新機能スマートスキャンである(図11)。

図11 スマートスキャン

PCにあったパターンファイルの80%をクラウドへ移行する。クライアント側でファイルの判定を行う際、判定のつかないファイルについてクラウドのデータベースへ問い合わせを行う。PCのパターンファイルの肥大化の悪影響を受ける心配がない。データベースでは、これまでのE-mail、Web、ファイルの各レピュテーションなどとデータを連携することで、常にデータベースが最新の状態に維持される。これにより、リアルタイムでの保護が可能となる。ここで、興味深いデモが紹介された。ユーザの一部には、スペックの低いPCを今後も使い続けることがある。低スペックのPCで、新バージョンと旧バージョンの起動の速さを比較したものだ(図12)。

図12 PCユーザの利用環境

実際に使われたのはCelerom M 1.5MHzというノートPCである。このPCにウイルスバスター2011 クラウドとウイルスバスター 2010をインストールし、CPU使用率が10%未満となる時間が10秒になるまでの時間を測定した。結果は、図13である。

図13 起動時間の比較

長島氏によれば、この実験で平均42秒の短縮が見られたとのことである。実際に、いかに軽快さが実現できたかを示すものであろう。

プロモーションも一新

ウイルスバスター2011 クラウドでは、新たなイメージキャラクターに山本美月さんが選ばれ、プロモーションも新しいものとなった。2010年度版の"サクサク軽快~"では、仲間リサさんの軽快なダンスが印象に残るプロモーションだったが、今回プロモーションを務める山本美月さんもテレビCMで活躍する。同社のWebサイトでは、新しい"クラウド"を前面に押し出したCMを見ることも可能だ。また、スペシャルサイト「ウイルスバスター 2011 クラウド」では、美月さんがパソコン初心者代表として、セキュリティ対策について講義を受ける「美月のパソコンライフ向上委員会」、開発者が製品完成までの道のりを語る「開発ストーリー」などのコンテンツが掲載されている。同サイトでは、体験版もダウンロードできる。

図14 新イメージキャラクター:山本美月さん

製品名に「クラウド」を付加したことは、これまでのクラウドコンピューティング技術を集中したことの証拠でもあり、さらにトレンドマイクロとして、この方向を推し進めることの表明とも受け取れる。増大する脅威に従来型の防御のみでは安全とはいえなくなっている。さらに守るべき対象・デバイスも多様化している。このような状況で、「クラウド」は安全を守り、軽快を維持するための大きな基盤技術となっている。必然の命名であったと思われる。