シマンテックは新しいノートンインターネットセキュリティ2011(以下ノートン2011と略記)を発表した。その際に、シマンテックでは「ノートンネット犯罪レポート:人々への影響」と題する調査結果を発表した。その調査に関わった1人が、アン・コーリア(Anne Collier)氏である。アン氏はインターネット上のコミュニティ紙、NetFamilyNews.orgの編集者を務める。さらにSafekids.comのラリー・マギッド氏と共同でConnectSafely.orgを運営する。
同サイトでは、10代の子供、親、教育者、および、ソーシャルネットワークが若者に与える影響、また若者がソーシャルネットワークに与える影響について関心を持つすべての人々に向けて、Webベースのインタラクティブなフォーラムや情報を提供している。その他にも、非営利組織のNet Family News, Inc.、Staysafe.org、NetSmartz.orgなどに寄稿している。ノートン2011の発表会では、レポートの内容を報告した。そのアン氏にインタビューを行った。
最近、インターネットで子供が狙われることが多くなっています。その対策にはどのようなものがあるでしょうか?
アン・コーリア氏:まずは親に対して情報を伝えることが重要です。そして、情報を武器として持つことです。よくあることですが、子供の方が、親よりもPCやインターネットの知識を持っていることがあります。そこで、我々は親に対しネット犯罪やマルウェアについての情報を提供し、親が子供に対しどう警戒すればいいかを教えることができるようにしています。もう1つは家庭内でディスカッションをしてもらうことです。
どうやってPCを使っていくのか?家庭内で話合ってもらうことです。子供がどういうサイトを閲覧しているのかを聞き、リスクがあるサイトについては、先ほどの情報から適切に子供にアドバイスできるようにしてほしいです。今は、危険なサイトがごく普通を装っており、大人ですら防ぐことが難しくなっています。子供にとっては、なおさらです。
アン・コーリア氏:現在の危険なサイトは、子供だけでなくすべての人々にとって難しいものとなっています。まずは、子供たちに人気のあるゲーム、クイズといったサイトに対し、特に注意が必要であることを理解させることが重要かと思います。そのためには、親子の会話を持つことが大切になります。特に子供の年齢が低い場合には、親と一緒にオンラインの経験をすることが必要と思います。子供と一緒にインターネットを見ているときに、子供たちの頭の中にフィルタソフトを経験としてインストールすること、これが最も防御力の強い方法だと思います。一生存在し続け、どこに行っても使えます。使えば使うほど、防御力を発揮するのです。
また、ソフトウェアでは無償で提供されるノートンオンラインファミリーがあります。シマンテックのコンサルティングをする1年ほど前に、その存在を知ったのですが、家族の中で話をすることが製品の一部として組み込まれています。このソフトは、意思の疎通と技術の2つが融合することにより、使い勝手がよくなっています。親は、まず子供たちが何を見ているのかをお互いに知る必要があると思います。
そこから会話が生まれて、子供たちが批判的に思考をするといった方法を学ぶことができるでしょう。その批判的思考は親がみつけなければなりません。そして、親子が一緒に協力するのがよいと思います。親が子供を完全にコントロールすることはできません。子供たちは技術的なことなどを親よりも知っている。しかし、親は人生のことを子供よりも知っているのです。技術と人生の経験の両方が対策として必要になります。
日本や東アジアでは、子供が危険なサイトを見ると叱責する傾向があります。欧米では、そのようなことは少ないと聞きますが。
アン・コーリア氏:非常に興味深い調査結果が出ています。親は子供たちのオンライン活動について、コントロールすべきであると考えている割合は、世界全体では44%になります。これをアメリカ、カナダで調べると61%になります。日本では25%しかありません。私も驚いた結果となったのですが、権威主義的なコントロールについて、このような差となりました。これをどう説明解釈すべきか?日本の数字の低さについて説明することはできませんが、アメリカの数字が高かった理由は、脅威でパニック状態になったことが1つの理由でしょう。
ウイルス被害や報道などで不安を煽られ、マイナスに働いてしまったと思います。このような不安や心配を持つことは無意味ですし、さらに技術の使用を禁止することは意味がないと思います。それによって会話が途絶えてしまう。子供たちも遠くへ行ってしまいます。親は子供たちがどんなサイトを見ているのかますますわからなくなってしまう、悪循環に入ってしまいます。ですので、心配ばかりする、あるいは無理に禁止をするというのは意味がないと思います。かならずそこでコミュニケーションをとることが必要です。
権威主義的な親から子供へのコントロールはもはや機能しないのです。安全を実現するためには、協力関係だけでなく、さらに親と子の話合いがどうしても必要になってきます。親と子が敵対していては意味がないと思います。子供たちの方が、オンラインの知識は詳しいのです。
親から怒られれば、当然、子供は隠れてやろうとしますよね。
アン・コーリア氏:子供に「ダメ」といって障害物を置けば、迂回します。こういうのはワークアラウンドと呼ぶのですが、必ずやってくるでしょう(笑)。やはり、重要なのは親子のコミュニケーションです。そして、それ以外には方法がないというところまできているのです。現在は、非常に不安定で難しい時代にきていると思います。我々のようにマスコミの時代に育った世代、まったくインターネットを知らずに育った世代がいます。
そして、メディアそのものの深遠な変革、シフトに遭遇しています。グーテンブルグの印刷機が発明されて400年ですが、これほど大きなメディアの変革を経験したことはなかったと思います。今、まさに現実そのものがユーザの手によって表現され、リアルタイムでアップデートされていきます。私たちの時代、アメリカでもこの40年くらいは、メディアのプロフェッショナルとしてニューヨークが中心であり、それを規制するワシントンが存在しました。子供たちはまったく関係なく、子供がメディアそのものを変えることなどはできもしませんでした。しかし、怖いことに今の時代では、メディアそのものを牛耳っているのは子供たちであり、利用者であり、同時に生産者でもあるのです。このような環境が生まれてきているのです。親が心配になるのも当然なのです。
欧米などで、インターネットで子供を狙った事例などがあれば、お願いします。
アン・コーリア氏:SNSに関連した事件が多く発生しています。たとえば、Facebookの中のlikeボタンとそうでないボタンがあります。これは、友人リストを作成します。何かのきっかけで、悪意を持ったプログラムをダウンロードしてしまうと、プログラムから質問がでます。その質問に答えると、悪意を持ったプログラムは友人リストに勧誘を行います。そして、みんながそれをダウンロードしてしまいます。大きな問題ではないのですが、自己繁殖的なプログラムの蔓延が見られます。SNSやメール、メッセージを悪用したソーシャルエンジニアリングの手法を使ったものが多いようです。
ノートン2011の発表会でも、レポートの報告をされていましたが、日本の親子に伝えたいことがあればお願いします。
アン・コーリア氏:大事なことは、注意を怠らないことです。怖がらないで警戒する、警戒を解くことはできないと思います。インターネットには多くのリソースがあり、研究、教育、コミュニケーションを含め、人々のアデンティティの糧となるものですし、自分自身の自己表現にもなります。私たちの人生でかなりの部分を網羅しています。しかし、人間が関わる以上、良い点も悪い点もすべてつながっています。ですから警戒を解くことはできないのです。受身であってはならない、つねに先んじて対応がとれるようにしないといけません。少なくとも我々ができる防御方法というのは、子供と一緒になって防衛することだと思います。ばらばらになってやるのではなく、協力して対応していくことです。
ノートン2011では、ノートンオンラインファミリーとの連携などが導入されました。これは私見ですが、今後のセキュリティ対策ソフトは、単にウイルスを防ぐだけでなく、親子の関係強化やコミュニケーションをとるための機能もますます求められるのではないでしょうか?
アン・コーリア氏:その通りですね。人間は必ず間違いを起こします。技術には限界があります。両方ともお互いに補い合う関係にあって、一方だけではだめです。両方が必要と思います。ノートン2011がコンセプトを打ち出したときには、強い感銘を覚えました。製品の設計としては、非常にすばらしいと思いました。私の立場は、NGOのConnectSafely.orgの共同ディレクタで、ノートンオンラインファミリーは、製品アドバイザの1人として関わっています。製品そのものを代表する人間ではないのですが、ノートンに対し助言を提供する立場にあります。
1年ほど前ですが、オバマ政権で発足しました第1回Online Safety and Technology Working Group(OSTWG)のほうでも議長を務めさせていただきました。ここで取りまとめた内容が、6月4日に議会に報告書として提出されています。その報告書の名前が、Youth Safety on a Living internetです。まさにインターネットとは、生活のあらゆる面を写し出すような生きているメディアであることを、この報告書のタイトルに示しています。興味がれば、ぜひご覧になってください。
今日はありがとうございました。