「マイノリティと家族」を娯楽映画で描く

――井口監督の全作品で見られるギャグ描写に関してですが、あれは確信犯的にやっているのでしょうか?

井口「確信犯というか、日本映画とはいえ自分の作品は、日本人も外国人も観るという事を意識しながら作っている部分はありますね」

――そのギャグに関しても、ただ笑えるというだけでなく、マイノリティに対する容赦ない仕打ちや陰惨な行為を、あえて過激なギャグにしているという印象があります。

『戦闘少女』では化け物として差別される少女たちが人類に宣戦布告する

井口「マイノリティ、というか孤独な人の話が僕は好きなんですよね。孤独な人を重く描くという方法論もあるとは思うのですが、僕としては、笑いというかユーモアに包んで描きたい。そのほうが伝わると思うんです」

――陰惨なスプラッターとギャグを周囲に期待されてる井口監督なんですが、次作は制作費3億円の『電人ザボーガー』ですね。どんな作品になるのか、まったく想像つかないんですけど。

井口「僕は、職人監督への憧れがあるので、どんな作品でも作りたい。自分自身がプログラムピクチャーで育ってきた部分があるので。『電人ザボーガー』は期待していてください!」

ありえないジャンルの作品を同時に監督していた

――職人という意味では、マニア向けのAVを監督しながら、『東京少女』や『ケータイ刑事』という王道のアイドルドラマも同時に監督していたという凄い時期が井口監督にはあります。そういうタームは、ご自身の中でどのように取り組まれていたのでしょう?

井口「最近はAVはやってないんですけど、僕自身は映画とAVの境界線はないんです。僕が描きたいテーマはAVでもテレビドラマでも、映画でも基本は同じですから。ただ、女性を勉強するという意味では、そのAVとアイドルというギャップは良かったですね。振り幅が広くなるというか、柔軟になったと思います。アイドルとAV女優を同じ日に演出してる自分を冷静に考えると、脳がはち切れそうな時もありましたけど(笑)」

――井口監督の作品は個性剥き出しという感じなのですが、取り組み方や、目指すラインは職人監督というのが、非常に興味深いです。

井口「よく好き勝手に映画を作っているといわれるのですが、暴走しているわけじゃないんですよ(笑)」

ブリーフ姿で観客の前に登場するのも監督としての務め

――でも、舞台挨拶(※井口監督は褌姿やブリーフ姿など、限りなく全裸に近い状態で観客の前に登場し、舞台挨拶を行うことが多い)では、かなり暴走されていますよね。

井口「あれはサービスですね(笑)。やっぱり僕は監督自身が観に来てくれたお客さんにサービスしないといけないと思ってますから。僕にとって舞台挨拶では、裸がユニフォームなんです。今は、舞台挨拶の控え室に行くと、褌が用意してあります。僕は、映画監督って職業はサービス業だと思ってますから」

――井口監督の作品は、良い意味でグラインドハウス的といいますか、見世物小屋的な印象があります。

井口「僕は縁日とかお化け屋敷が大好きなんです。そういうことにカタルシスを感じるんで、自分の映画もそういうものなのだと思ってます。そういう意識は強いですね。僕の映画の中では、人が沢山死んだり、首や手足が飛んで、内臓がこぼれたりしますけど、あくまでも作り物で人を驚かす、楽しますという事がしたいんですよね。だから特殊メイクは残酷でもリアルな物はやりません。あくまでも、作り物に見えるほうが好きなんですよね」

――そんな井口監督の最新作『戦闘少女』をDVDで初めて観る方に、どのように楽しんで欲しいですか?

井口「友達何人かでポテトチップスでも食べながらワイワイ観て欲しいですね。スプラッタ嫌いな彼女とかと一緒に、あくまでも、パーティ映画として楽しんで欲しいです」

――『電人ザボーガー』以降ですが、どのような作品を作っていきたいのでしょうか?

井口「ホラー映画に企画も色々あるのですが、時代劇が撮りたいですね。時代劇版『エル・トポ』みたいな作品を作りたいです」

――日本版『エル・トポ』といった作品を撮りそうな映画監督は、確かに井口監督しかいませんね」

井口「是非、やりたいですね」

(C)2010 東映ビデオ

撮影:糠野伸