教科書を電子化する「電子教科書」の分野は、iPadなどのタブレット普及におけるキラーコンテンツの1つと目されているが、一方でまだ実験段階に止まっている面も大きく、画期的なブレイクスルーや普及におけるロードマップはいまだ不明瞭だ。同分野での活躍を狙う潜在的なプレイヤーは数多く存在するとみられるが、そのうちの1つが元Apple社員によって立ち上がったばかりのスタートアップ企業Inklingだ。

Inklingとその製品については米Wall Street Journalの8月19日(現地時間)の記事に詳しい。元Apple従業員のMatt Mac Innis氏によってスタートしたInklingは、教科書の電子化を単なる"デジタイズ"に止めず、いかにiPadのフル機能を使ってリッチなコンテンツに仕上げるかを目標にしている。単なるテキスト文章だけではなく、3Dモデルやビデオ、インタラクティブなメニューを導入し、さらに学生が疑問に思ったキーワードをGoogleやWikipediaですぐに検索できるような仕組みを用意するなど、よりそのネットワーク機能とリッチなマルチメディア機能を活かす方向に向いている。当初はMcGraw-Hillの持つ4つの分野の教科書コンテンツ(生物学、経済、マーケティング、心理学)を電子教科書化し、App Storeでの配信を8月20日より行う予定だという。価格は章単位で3.99ドル、本全体で84.99ドルとなるが、当初は特別価格として章単位が2.99ドル、本全体が69.99ドルになる予定だ。興味あるユーザーは、App Storeで実際に探してみるといいだろう。

また既存のiPad向け電子教科書でいえば、教育出版社7社が集まって作ったベンチャー企業のCourseSmartが提供するアプリも地道に改良を続けている。同社はつい1週間前に「CourseSmart v2.0」の配信を開始したが、この最新バージョンでは電子テキストのページを"めくる"ハンドジェスチャーに対応したほか、教科書への書き込み機能など、操作性や利便性の向上を進めている。ユーザーインターフェイスはiPadのiBooksに近く、利用環境が整備されつつある印象だ。

だが電子教科書の市場はまだ小さい。Xplanaの調査によれば2009年の同市場規模は4,000万ドルであり、これが2010年には約2倍の8,000万ドル規模になるという。だがこれでも市場全体からみればまだ1%程度だ。こうした形で電子教科書の改良と利用が少しずつ進むことで、2015年にはおよそ教科書市場シェアの20%以上にあたる20億ドルの売上規模にまで成長するのではないかというのが同社の予想だ。


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