「Ustream」や「ニコニコユーザー生放送」の登場によって爆発的に広まった"個人ライブ配信"という文化。

ゲームプレイ実況や顔出ししての雑談などライブ配信の内容はさまざまだが、そんな中で[NKH]ニコ生企画放送局という放送チームを率いる伊予柑氏は、生放送しながらリスナーの家に泊めてもらうという『おい、ゆとり!明日泊めてください。)』や、TV番組の企画でもお馴染みの「一ヶ月一万円生活」を社会人がやるとどうなるかという『おい、ゆとり!一般人一ヶ月一万円生活するぞ。』など、バラエティに富んだ企画を精力的に配信している

誰よりも個人ライブ配信の世界を知る彼に、ニコニコユーザー生放送とUstreamの違いや、配信することの意義などについてお話を伺った。

ニコニコユーザー生放送で人気を集める「[NKH]ニコ生企画放送局」の伊予柑氏。やや年代物だが威圧感たっぷりのカメラを携え、さまざまな番組企画を送り続ける。ただ、このカメラ、あまり出番はないらしい

──Ustream、ニコニコユーザー生放送(以下、ニコ生)を使い分けて配信をされていますが、どちらがメインフィールドなのでしょう

伊予柑 メインはニコ生ですね。どちらも最初から企画物でやっているのですが、使い分けとしてはニコ生では"コミュニケーションする放送"、Ustreamでは"コミュニケーションしない放送"をしています。

──そういった使い分けは機能的な違いから自然とそうなったのでしょうか

伊予柑 機能的な部分から意図的に使い分けてます。ニコ生は即時性の高い匿名のコメント機能があり、UstreamはIRCという記名のチャットがあります。Twitterはどちらも対応してますね。企画性の高い放送をするときは不特定多数に向けてやりたいので、ニコ生を使ってます。一方で仲間内のミーティングは記名できるUstreamのIRCを使ったり、24時間自宅を放送するときは全部のコメントに対応できないのでUstreamでTwitter機能だけを使ったりしています。

──そもそも配信をされるきっかけは何だったのでしょう

伊予柑 ニコ生を始めたきっかけは、ドワンゴが2008年8月くらいに開催した『ニコニコ大会議』というユーザー向けの製品発表イベントですね。会場の様子をニコ生で放送し、その放送画面を会場に投影していました。すると、会場の様子にコメントが投稿されて、そのコメントをみてまた会場がざわめく、というループが起きたんです。「手を上げろよ」というコメントがくると会場の人が手をあげて、「ほんとに上げたぞww」と笑われるというような。「えっ。インターネットの反応がそのまま現実を動かしてる!」と思って感動しました。ユーザー生放送という一般向けサービスが始まってすぐ飛びつきました。

──Ustreamに関してはいかがでしょうか

伊予柑 Ustreamは開始直後から見ていたんですが、どうも面白さがわかりませんでした。2007年代のUstreamというのはIT系の勉強会の配信なんかが主流で、プログラム言語の勉強会の様子を垂れ流しておく、いわゆるダダ漏れスタイルだったんです。秋葉原通り魔事件を中継していた例なども知っていたのですが、個人的にはダダ漏れには興味が持てませんでした。面白いと思ったのは、女性が本を朗読しながら画面に話しかける放送で、「リクエストはある?」とコメントと対話していたんですね。あ、こういう使い方は面白い! と強く印象に残っています。

──Ustreamとニコ生で、機能面以外での違いは感じますか?

伊予柑 メディアとしてはあまり違いはないです。ふつうの人は細かいシステムの差なんてどうでもよくて、見たいコンテンツが見られるかどうかだと思います。だから今だと、"芸能人が見たかったらニコ生"とか"IT系有名人やカンファレンスが見たかったらUstream"という感じじゃないでしょうか。

──結局はコンテンツが大事になってくる?

伊予柑 すごく俯瞰して見るとそういうことだと思いますね。

──そのコンテンツ部分を今は一般ユーザーが自ら生み出して配信するようになったわけですが、そうした個人で放送することの意義についてはどうとらえていますか?

伊予柑 なぜ配信するのかというところに関しては、基本的には「面白いから」という理由がほとんどです。なぜブログを書くのかという問いに対する答えと大差はないです。僕が思うに、自分の考えをブログなり何なりで文章にまとめて表現するというのは、けっこう高い能力が求められる世界なんです。それよりは「しゃべるだけ」のほうが多くの人にとって表現手段としてはラクなんですよね。ラクで、かつ反応がもらえるなら放送すればいいじゃんっていうところはあると思います。

──配信というと、これまでにもインターネットラジオなどもありましたが

伊予柑 インターネットラジオがいまいちブレイクしなかったのは、視聴の難易度が問題なんです。多くの人は反応がもらいたいから放送するわけですが、そのためには視聴者が必要ですよね。ということは、番組を探しやすい仕組みが必要になってくるんです。ところがポッドキャストとかネトラジなんかはすごく番組が探しにくかった。それはなぜかというと、音声だけの番組というのは少なくとも1分くらいは聞かないと内容が理解できないからなんですよ。でも映像だと、1秒で配信者が可愛いかそうでないかがわかるわけです(笑)

──それが映像の強みですね

伊予柑 そうなると配信者としても工夫のしようがあるんですよね。サムネイルで釣ればいいんだなとか、何か絵を映しておけばいいんだなとか(笑)。そういった人を集めるための創意工夫ができるわけです。でもポッドキャストやネットラジオではそれができない。視聴しにくいからブレイクできなかったんです。たとえば世界一おもしろいポッドキャストがあっても、そこにたどり着けないんです。

──探しづらさという点ではUstreamも多少あるような気がします。何かイベントがあって、それをUstreamで中継します、というような使い方が主流なのかなと

伊予柑 その通りだと思います。ライブコンテンツの検索というのは、今後重要なテーマだと思っています。今のイベント中継がメインコンテンツのまま、つまり「話題を外部に頼り続ける」状態のままだと、「配信料が無料のCS放送」とほとんど変わらなくて、つまらないなと思いますね。

──ニコ生には独自の文化があると感じますが、そのあたりはどう考えていますか

伊予柑 配信スタイルでいえば、ねとらじ、ピアキャスト、スティッカムといった時代と大きくは違いません。世界中変わらないと言ってよくて、日本人も外人も顔を出して雑談するかゲームをプレイしながら雑談するかのどちらかです。ニコ生らしい点があるとしたら、すでに人が集まる仕組みと話題が用意されていることだと思います。インターネット放送がコミュニケーションの場だと考えるなら、お客さんがいることと、話せるネタがあることって一番大事だと思うんですよ。

──ユーザーは同好の士を探しているということですか?

伊予柑 そうです。俺の友人に34歳のプリキュアファンがいるんですけど、大変だそうで……。会社の同僚に話題を振るとするじゃないですか、プリキュアの可愛さについて語りたいんだけど「ああ、娘が見ててねえ」とか返されちゃう(笑) そういう時にニコ生でプリキュアについて放送すると語りたい人が集まってくる。コミュニケーションしたい、というときにちゃんと集まってくれる人たちと、それをつなげるシステムが設計されているのがいいですね。

──以前お話を伺ったニコ生配信者の百花繚乱さんが「ニコ生はサークルみたいなもの」と言われていました

伊予柑 ですね。サークルっておしゃべりの場であり、趣味場なんですよね。Ustreamは何もない自由な部屋で音楽も会議もできるけど、誰かが自然に集まってくるようには出来てない。そこでイベントをする人には自由度が高くて便利で最高です。ただ、番組制作のプロでもないかぎり、日頃使うには持て余してしまうかもしれない。

──どちらかがどちらかの代替品にはならないと?

伊予柑 何かを語りたいという人はニコ生の方が向いていると思います。Ustreamは良くも悪くもプレーンなんですよね。

──個人が配信する分化は今後どのようになっていくと思いますか?

伊予柑 そうですね、まず「ブログは滅びた」という前提を共有できるかどうか、ですね。

──ブログは滅びた?

伊予柑 「芸能人でもないのにブログを書いてるんですか?」という言葉があるんですが、そのとおりだと思っていて。ブログはみんなが知ってるエンターテインメントコンテンツにはなれなかった。Twitterも同様にTwitter発の有名人って出てこなくて、元々テレビなどで有名な人が読者を確保するための場になった。Ustreamも100%同じことになると思います。最初の一人としてそらのさんが居ますが、それ以外はUstream放送を継続することで有名になっていく……というストーリーは難しい。でも、ニコ生はまだその可能性があるのではないでしょうか。

──そこもUstreamとニコ生の大きな違いでしょうか

伊予柑 そうですね。それは「YouTube」と「ニコニコ動画」についても同じことで、日本ではYouTube発のアーティストっていないじゃないですか。アメリカではYouTubeからデビューした有名人が出たわけですが、日本では2006年くらいにYouTubeが登場してから未だにいない。たぶんもう出てこないですよ。それがすごく残念なんですけど、一方でニコニコ動画では初音ミクなどでデビューした人がたくさんいます。運営がCGMからメジャーへという階段作りをしてるので、しばらくその流れは続くんじゃないかと思いますね。

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伊予柑氏の話からはっきりと見えてきた、ニコニコユーザー生放送とUstreamの違い。これから個人ライブ配信の世界がどのように発展していくのか、最先端を行く伊予柑氏の動向とともに注目していきたい。