本年度アカデミー賞4部門にノミネートされた話題のSF映画『第9地区』のブルーレイ&DVDが8月11日に発売される。ちなみに、この作品の監督を務めるニール・ブロンカンプ監督は大の日本アニメファンで、『第9地区』の随所には、日本アニメからの大きな影響が感じられる。中でも監督は『超時空要塞マクロス』の熱烈なファンで、『第9地区』の作品内でも、『マクロス』に対して様々な形でリスペクトを表明している。

そんなブロンカンプ監督が憧れる『マクロス』において、メカニック作画監督を担当したのが、板野一郎監督。板野監督独特の作画や斬新な演出は、「板野サーカス」と呼ばれ、アニメ界で多くのフォロワーを生んだ。そんな板野監督は、『第9地区』をどのように観ているのだろうか? 海を越えて『第9地区』の中にも宿る「板野サーカス」の遺伝子とは?

板野一郎

『機動戦士ガンダム』(TV版、劇場版)、『伝説巨神イデオン』などに作画で参加。『超時空要塞マクロス』で、メカニック作画監督を務める。『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』で作画監督を担当。『メガゾーン23』でアクション監督、演出、絵コンテを担当し、『メガゾーン23 PART II 秘密く・だ・さ・い』で監督とメカニック作画監督を務める。他の監督作品に『エンゼルコップ』、『GANTZ』、『ブラスレイター』など多数。また、CGI監督として、『ウルトラマンネクサス』、『ウルトラマンマックス』、『ウルトラマンメビウス』などの実写特撮作品にも参加。

『第9地区』と板野サーカスの関係とは?

『第9地区』では難民と化したエイリアンと、それを支配する地球人のドラマが描かれる

――『第9地区』には板野監督の影響を受けたシーンがあるという話を聞いたときはいかがでしたか。

板野一郎(以下、板野)「正直、驚きましたが、嬉しかったですね。ブロンカンプ監督が『マクロス』好きで、板野サーカス的なミサイルの飛ばし方のシーンがあると聞いたんです。『板野サーカスが好き』というだけで、僕としては嬉しいです」

このパワードスーツの放つミサイルの表現が、「板野サーカス」テイスト満載

――作品をご覧になっていかがでしたか?

板野「板野サーカスどうこうではなくて、本当にエンタテインメントとして素晴らしい映画でした」

――板野さんは『イデオン』の頃から、独自の映像表現というかメカ描写を確立していました。確かに『第9地区』のパワードスーツのミサイル発射シーンなどは、完全に「板野サーカス」でした。作品を観られて、ほかにご自身の影響などを感じた部分はありますか?

板野「ミサイルもそうですが、超巨大移民船が地球に来て、異星人と地球人が共存するという部分ですね。ここは『マクロス』だなあと思いました。ただ、似ている部分は関係なく、宇宙人とか移民船というSFの設定を使いつつ、アクションだけでなく人間の醜さや愛情を描くという部分は、本当に良い映画ですね。宇宙人を扱っているのに、絵空事ではなく、リアリティがあるというのが素晴らしいと思います。仕掛けとして、板野サーカスは出てきますが、それ以上にエンタテインメントとしても社会派ドラマとしても素晴らしい映画です。また『第9地区』はある意味、日本の特撮モノに対する良い見本だといえると思います。プロとかプロを目指す人には絶対に観て欲しいですね。技術的にも、教科書のように参考になる部分が沢山ありますから」

板野監督は『第9地区』の物語だけでなく、CG映像合成技術も高く評価していた

次のページでは、「板野サーカス」について板野監督自身が語り尽くす。