NTTドコモと大日本印刷は4日、携帯端末向けの電子出版ビジネスで業務提携することに合意したと発表した。今後、ドコモが発売するスマートフォンなどで利用できる電子書店を秋にも開設し、両社で「新しいマーケットの創出」(ドコモ辻村清行副社長)を目指していく。

NTTドコモ 代表取締役副社長の辻村清行氏(写真左)と大日本印刷 代表取締役副社長の高波光一氏

両社は今回の合意に基づき、ドコモの5,600万ユーザーをターゲットにした電子出版プラットフォームの構築を目指して、共同で事業会社を設立。事業会社では、大日本印刷が有する書籍や雑誌など10万点以上のコンテンツの電子化や、販売などを行う電子書店の開設に取り組む。

両社の強みを組み合わせた電子書店とリアル店舗のハイブリッド型書店を開設する

キーワードとなるのはリアル・電子、オープン・マルチの2つの方向性

電子書店は10月末から11月をめどにサービスを開始する予定で、この電子書店は、当初はドコモのスマートフォンをターゲットにコンテンツを販売する。ドコモは、この秋冬モデルでスマートフォンを7機種発売することを明らかにしているが、辻村副社長は、このうちの1機種が「電子書籍専用端末になる」と話し、これらの端末で利用できるようになる予定だ。

ドコモの辻村清行代表取締役副社長

さらに来年3月末から4月ごろに、通常の携帯電話でも電子書店にアクセスできるようにする考えで、まずはドコモの多くの端末で電子書店が利用できるようにするとしている。このほか、しおり機能も追加する計画だ。しおり機能では、iモード携帯、スマートフォン、PCといったような異なるデバイス間で読み進んだ位置を同期し、同じ場所からどの端末でも読み進められるようになる。

課金・決済システムはドコモが提供する。そのため、当初はドコモ回線の端末での利用となるが、今後iPhoneやiPad、KDDIの携帯電話など他社端末でも利用可能な状況を目指していき、「キャリアをまたがるオープン性を狙っていきたい」(辻村副社長)としている。

大日本印刷は、丸善やジュンク堂、文教堂といったリアル店舗に加えて、オンライン書店のbk1も運営しており、豊富なデジタルコンテンツ、多くのノウハウを持っている。

両社は、互いの強みを持ち寄って、電子書店とリアル店舗を組み合わせた「ハイブリッド型書店」を実現したい考えだ。

ハイブリッド型書店の具体的な姿に関しては明らかにされなかったが、リアル書店と電子書店で購入したものを一括で管理できる書棚機能、リアルと電子の購入ポイントの共通化、電子での先行発売、プリントオンデマンドなどのセット販売、第1章だけを電子で、残りをリアルで販売、といったさまざまなサービスを検討していく。

「(携帯と出版の)業界トップの両社が提携することで、大きなシナジーを生み出せる」と大日本印刷の高波光一副社長はいう。いつでもどこでも書籍が手に入り、電子書籍が身近なものになることでユーザーの生活が豊かになって、出版文化の発展に貢献したいと意気込む。

大日本印刷の高波光一代表取締役副社長

両社は、端末やコンテンツをオープンにしていく考え。そのため、すでに出版社として講談社と小学館、端末メーカーとしてNEC、LG Electronics Japan、サムスン電子が今回の発表に賛同している。両社は、今後さらに多くのコンテンツホルダーや端末メーカーに声をかけていく予定だ。

電子書店で採用するフォーマットに関しても、ePubなど限定しない方向で、約130社が集まる電子出版制作・流通協議会での協議を踏まえたフォーマットの標準化にも対応していく。協議会は「各委員会が委員の選出をしているところ」(高波副社長)だという。会長も務める高波副社長は、「秋には重要なポイントだけでも間に合わせたい」と話す。

フォーマットや再販制度などの課題は、経済産業省、文部科学省、総務省による「デジタルネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」(三省デジ懇)でも話し合われているが、今後は業界での議論も深めていきたい考えだ。辻村副社長は、「目指すのは、単なる紙の置き換えではなく、電子だからできる新しいマーケットの創出」と話し、「コンテンツへの出会いの機会を電子化で増やせる。自由に好きな本と触れられるように取り組んでいきたい」としている。