完全に納得する作品を作らないと駄目
――この作品は、『SF サムライ・フィクション』、『Stereo Future』と同様に、中野監督にとって非常に重要な作品だと感じました。監督自身にも、強いこだわりや意識があるように感じるのですが。
中野「数年に1本ぐらい、自分でも完全に納得いく作品というものがあるんです。この作品には、そういう作品にしないと駄目だという強い想いが確かにありました」
――とにかく「映像の美しさ」へのこだわりが凄いですね。
中野「映画でたまに『目で観る天国みたいな映像』があるのですが、全編そういう映像という作品はないんです。そんな映像を撮るために、毎日、雲海の上を飛んでいました。衛星地図を見て、雲の位置を確認しながらヘリを飛ばしたんです。雲海を飛んでいるときに、光景が美し過ぎて自然と涙が出るという事もありました。『至福』という言葉がありますが、それを撮影中はひたすら感じていましたね」
――今回の作品では、中野監督が観た「至福の光景」をそのままに近い形でパッケージにしたわけですね。
中野「そうですね。この作品にはふたつのバージョンを収録したのですが、pacific mixというバージョンでは、かなり癒されると思いますよ。人生でいう、至福、ひとつの峠を越した画があると思います。もうひとつのバージョンであるpeacedelic mixはその後の静かで穏やかな平和という感じです。ただ、そこにいるという感じを味わえると思います。定点で4時間ぐらい撮影していると、地球の移動感というか、地球が丸いという感じが実感できるんです。それを、観た方にも感じていただけると思います」
――今回のような映像作品ですと、中野監督のテーマのひとつである「peace」というものを、自然の風景を通じてストレートに届けやすいと思います。一方で、中野監督の『SF』シリーズのように、物語の形でそういったテーマを折込み届けるという方法論もあります。また、単純にお仕事としての映像制作もあると思うのですが、中野監督のなかで、これらは明確にカテゴライズされているのでしょうか?
中野「一番やりたいのは何か自問自答すると、今回のような作品だけ作って生きていければ、それは最高ですね。でも、人間も大好きだから、物語も描いていきたい。ただ、映画に関しては何年も時間を掛けないと、隅々まで目の行き届いた作品は、なかなか出来ないものです。仕事とやりたいことを割り切って両方やるようになったのは、本当にここ最近のことですね」
――「志を描きたい」とも発言されていましたね。
中野「志を描きたいのですが、それは現代では難しいから、僕は時代劇で描くのです。今回のように、『素晴らしい映像を届けたい』というのも、同じような志なのだと思います」
――次回はどのような映像作品を考えているのですか?
中野「時代劇もそうなんですが、昔から和モノが好きなので、和の良さを伝えたいですね。次の作品のテーマは『和』です。立体映像でひたすら日本の美しい景色や姿を撮る予定です。有名な滝や寺だけじゃなくて、その裏や近くにある、素晴らしい景色、本当の日本だなと思う姿を撮影したいですね。美しい小花が咲いている光景とか……。自分が撮影した映像だけでなく、EOS 7DやEOS 5Dを持っているハイアマチュアの方々の撮影した映像を集めて、『和』や『Japan』をテーマに作品にしたいんです。ハイアマチュアの方に2台カメラを渡して、それぞれ近隣の美しい景色を3D用に撮ってもらう。景色に限らず、お茶の家元の美しい手捌きだとか、そういう映像も撮りたいですね」
――景色だけでなく、伝統や文化も映像で残すというのは興味深いですね。
中野「昔からある美しいものを、伝えていきたいんです。美しいものや光景は、美しい映像、美しいアングルで撮れば、その美しさを人に伝えることができると僕は思うんです」
美しい惑星 The Beautiful Planet
なお、『美しい惑星 The Beautiful Planet』は7月24日から7月30日まで、東京 渋谷シアター・イメージフォーラムにて、21時よりレイトショー上映される。上映中は、写真家 平間至氏や俳優 村上淳らを招いたトークイベントが連日開催される予定。また、中野監督の短編やPVなども上映される予定。詳細はこちら。
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インタビュー撮影:石井健