30年前の撮影素材も活用
――再びドキュメンタリーを撮るということに、矢沢さんはどんな反応でしたか?
増田「『撮るの?』って驚いてましたよ(笑)。ただ、撮ろうと僕が話した数日後が、矢沢永吉100回目の武道館公演のリハーサルだったんです。だから、とにかくカメラを回そうということになった。それで、あとで永ちゃんが納得しないなら、撮影した素材を全部棄ててもいいという覚悟で撮影を開始したんです」
――30年前と現在の姿がバランスよく編集されたドキュメンタリーでした。おかしな感じなんですが、30年の距離があるはずなのに、ずっと撮影していたかのように30年前と現在が地続きというか。
増田「実は、過去の作品で使わなかった素材テープが、まったく傷みもないまま保存されていたんです。30年前のフィルムだったのですが、『これは、今回の作品で使うべきだ』と思い使いました。矢沢永吉という被写体に関しては、『変わらないけど、変わった。これって何なんだろう』という部分を撮影しまがら、僕自身が探っていたような気もします」
――今回は、どのぐらいの時間、撮影を行ったのでしょうか?
増田「2年間で、トータル100時間くらいは撮影していますね。実は、撮影当初は1年間撮影するはずだったんです。でも、永ちゃんのほうから、『もう1年撮影してくれないか』と申し入れてきたんです。それは、まだ自分をさらけ出し切っていないし、YAZAWAを追い切れていないから、と。僕自身、プロデューサーとしては、制作費や映画の公開時期を考えると、1年の延長は厳しかったのですが、監督の立場としては、とても嬉しい話です。僕の中で、プロデューサーと監督というふたつの立場で葛藤があったのですが、『もう1年撮影してくれ』という永ちゃんの本気を感じたので、1年間撮影を延長しました。撮影当初は、『60歳を迎えた矢沢永吉』というテーマだったが、1年延長したことで、東京ドームライブの映像も入り、『次のステージに向かう矢沢永吉』を映すという作品になったと思います」
――ボーナスディスクの中に収録されている未公開映像『Inside of him』も完全にひとつのドキュメンタリー作品として成立していますね。ドライマティーニを呑んでガチで酔う矢沢さんの姿まで収録されています。ドライマティーニのオーダーの仕方ひとつでも、こんなに面白いのに、特典映像なんてもったいない気もします。
増田「あれはふたりでお酒を2時間飲んで、ずっと撮影しっ放しで撮れた映像なんですよ。でも、ドキュメンタリー映画といっても、作為的に創る部分というのはどうしても出てきます。映画本編が"料理術を駆使して調理した最高の料理"なら、特典映像の『Inside of him』は"素晴らしい食材の良さをそのまま活かした料理"という感じなんです。あそこには、"生"というより以上の"純生"の矢沢永吉の姿があります。酒を飲んでいる姿、勿論格好良いけれどそれだけじゃない。妙に可愛いんだよね」
――オーストラリアでの金銭トラブル(巨額詐欺事件に巻き込まれ35億円もの借金を背負った)などにご本人が言及していたのも驚きました。
増田「矢沢はスターだからと言って、普通は覆いかぶせてしまいたいことでもそうしない。例えば、小学生の頃の貧乏エピソードにしてもそう。すべてさらけだす。そしてそれは格好悪いことのようだけど、本当はその方が格好いいんだということ理屈じゃなくて感覚で分っている。そういう意味では、自分自身が最高のプロデューサーなんです」
――本人や音楽に興味がなくても、その人が格好良く見えて楽しめる。そして、興味を持たせるという意味で、エンタテイメントとしても、ドキュメンタリーとして優れています。
増田「嬉しいですね。実は、撮影中に作品のテーマを永ちゃん本人にも訊かれて、こう答えたんですよ。矢沢永吉を知っている人には、『ヤザワはやはり格好良い』と思わせる。知らない人には、『食わず嫌いだったけどヤザワって格好良いんだね』と言わせる映画にする、と。それは表現を変えれば、今おっしゃってくれた『優れている』に通ずると思うからです」
――ほかのアーティストでは、こういう作品は難しいかもしれませんね。
増田「そうですね。ほかに誰ならこういうドキュメンタリー映画が成立するかと仮定したとき、永ちゃん以外あり得なかった。あの独得のしゃべり言葉や仕草、表情から生まれる表現力は、芝居じゃないだけに凄い。もともとドキュメンタリーという形式を借りて、『矢沢永吉物語』という劇映画を作ろう、という意識はあったのだけれど、それは成功したかな、という気がする。それよりも何よりも、30年前に永ちゃんの映画作って、30年を経て再び作るという事が奇跡だと思う。また、30歳、60歳という節目の年齢の矢沢永吉を撮ったというのも、なんか出来過ぎてる感じだけど、やっぱり、これ、もしかしたら、映画の神様のプレゼントなのかなあ……」
――矢沢さんご本人は、作品にどんな感想をお持ちなんでしょうか?
増田「あっ、その話し、まだしてないんですよ。出来上がってから、永ちゃんは完成品を見ないまま東京国際映画祭で一緒になったのが最後で、その後会っていない。永ちゃんは『ひとりの観客として、どこかの劇場で観るよ』とは言ってたのですが、結局あの時が最後でした、でもそうしてみると、俺たちの関係って、結構クールだよね」
『E.YAZAWA ROCK』
7月21日発売(Blu-ray 初回生産限定プレミアムエディション 7,140円、DVD 初回生産限定プレミアムエディション 6,090円、Blu-ray 通常版 5,040円、DVD 通常版 3,990円) |
インタビュー撮影:石井健