3. アプリケーション
AMRセンサの特性として、磁場の正確な角度の測定は、外部磁場の方向へ磁気抵抗パーマロイを磁化する磁力が働いている場合にのみ可能であるということはよく知られている[4]。KMA210では、必要とされる最小の磁力はHmin=35kA/mだ。
磁力が小さい場合の外部磁力と角度誤差の関係は図7の通りだ。見ての通り、磁力が小さくなると誤差が大きくなる。図8は、磁力に応じた予想最大角度誤差を示している。したがって磁石の配置を最適化することで、主にセンサで磁力が最大化されることになる。磁石が大きいほど磁場は強くなるが、磁石の寸法とともにコストも高くなる。磁石のコストは具体的な希少材料の量に直接左右されるので、問題の量に合わせて最適な寸法を判断する必要がある。この点について、有限要素法(FEM:finite element method)によって寸法が異なる磁石の磁力の強さのシミュレーションを実行した。図9は、ブロックマグネット間のエアギャップが2mm、センサと磁石の体積が250mm3のセンサ要素における磁力である。寸法が4.5mm×11mm×5mm(下線部の数字は磁化の方向)のSaCo磁石の磁力は最大100kA/mに達する。
体積および100kA/mの保磁力に合わせて平準化された磁力に応じた最適な磁石の寸法を示したのが図10だ。
角度測定システムの物理的セットアップの公差も誤差の一因となっている。ブロックマグネットとセンサ間のエアギャップを広くすると磁場が弱くなるが、磁力の大きさが指定の飽和磁力よりも大きい限り、角度誤差への影響は非常に小さいままである(図8参照)。
角度誤差の主な原因となっているのは、機械公差に起因する偏心誤差(回転軸からの偏差)である。回転軸の磁石の偏心とセンサの偏心は区別する必要がある。
機械公差に起因する角度誤差を計算するには、シミュレーションモデルをさらに調整する必要がある。磁場ベクトルおよび有限要素法シミュレーションからの磁力は、両方のホイートストンブリッジの8つの抵抗器それぞれで個別に求めた(図4)。
図11は磁石の偏心が0.5mmの場合に期待される角度誤差で、点線で示した曲線は等しい磁力の理想的な均一磁場における誤差を表している。最大角度誤差の増加は0.004°から0.0055°で、偏心による影響は事実上ほとんどないことが分かる。図12はセンサの偏心が0.5mmの場合に期待される角度誤差で、点線はやはり均一磁場における角度誤差を表している。この場合、期待される角度誤差はおよそ0.15°だ。さらに追加のシミュレーションにより、長さ(磁化の方向)はそのままで磁石の幅を増やすと角度誤差は減少し、一方で長さを増やしてもほとんど影響のないことが分かる。その理由は図9を見れば明らかだ。幅を増やして高さを減らしても磁力の減少は小さいが、センサ要素における磁場の均一性は高まる。これとは対照的に、磁石の長さを増やすと磁場の均一性は高まることなく磁力が大きく減少する。
図11 偏心(磁石)0.5mmの角度誤差(SaCo磁石、4.5mm×11mm×5mm、エアギャップ2mm) |
図12 偏心(センサ)0.5mmの角度誤差(SaCo磁石、4.5mm×11mm×5mm、エアギャップ2mm) |
4. まとめ
磁界の角度は、それ自体が角度的な性質を有する磁気抵抗効果を基盤にした磁気抵抗センサによって適切な測定が可能になる。本レポートでは、センサ自体とこれに関連する信号処理ASICで構成された角度測定システムを検証したが、この種のセンサは多くのアプリケーションでブロックマグネットと共に使用されている。
またシミュレーションによって、指定の体積における最適な磁石の寸法を導き出した。機械公差の観点から磁石の偏心誤差は無視できるレベルであり、同様にセンサの回転軸の偏心誤差による角度誤差も、磁石の寸法が適切である限り非常に小さいことが分かった。これらの結果から、磁気抵抗センサは多くのアプリケーションに理想的なソリューションであると言える。
参考資料
[1] P. Ripka, Magnetic Sensors and Magne-tometers, Arttech House, 2000
[2] U. Dibbern, Magnetoresistive Sensors, in: W. Gopel, J. Hesse, J.N. Zemel, (Eds.): Sensors - A Comprehensive Survey, Vol. 5, Magnetic Sensors, Ed.: R. Boll, K.J. Overshott, VCH 1989, 342-379
[3] S. Tumanski, Thin Film Magnetoresistive Sensors, IOP Publishing, 2001
[4] T. Stork, Electronic Compass Design using KMZ51 and KMZ52, Application Note AN00022, NXP Semiconductors, 1997
著者
Marcus Prochaska(マーカス・プロチャスカ)
NXP Semiconductors スマートセンサシステムグループ担当マネージャー
2006年より、NXP Semiconductors(German)のオートモーティブイノベーションセンターの開発エンジニアとしてNXPでのキャリアをスタート。2007年にシニアエンジニアに昇格し、2008年から現在まで、システム/アプリケーション部門スマートセンサシステムグループのグループリーダーを担当。
独ハノーバー大学、電気工学科卒業。工学博士 博士号取得