ティーンエイジャーをターゲットとした「ソーシャルフォン」のキャッチコピーで登場した米Microsoftの携帯電話「Kin」だが、デビューから2カ月ほどで退場することとなったようだ。米Wall Street Journalなどの6月30日の報道によれば、予定されていた欧州での販売は取り止められ、ローンチパートナーの米Verizon Wirelessでは販売を継続するものの、端末価格を100ドル以上大幅値下げしている。これは、AppleのiOSデバイスやGoogleのAndroidなど、スマートフォン市場でのライバルに苦戦するMicrosoftの姿を改めて示す形となった。

Kinはもともと"Pink"の開発コード名で呼ばれていたZuneのメディアプレイヤー機能を統合した携帯電話として知られていた。Kinが注目を集めていた理由の1つは、Microsoftが2008年に買収したDangerのチームが開発に携わっていたことにある。Dangerは現在GoogleでAndroid部門のトップにいるAndy Rubin氏らによって設立された企業で、T-Mobile Sidekickなどのユニークなデバイス開発で知られる。「Zuneフォン」とも呼ばれていたこのKinだが、実際にデビューしてみると中身はメディアプレイヤー携帯というよりも、キーボードを内蔵したソーシャルサービスを利用するためのガジェットとしての色合いが濃かった。ターゲットはティーンエイジャーとしており、こうした層が普段の生活の中でソーシャルサービスや音楽プレイヤーとして活用することを想定していたようだ。

だが蓋を開けてみれば、Kinの販売状況に関してはあまり芳しくない噂のほうが多かった。例えばBusiness Insiderでは、発売開始から1カ月半ほどが経過した6月中旬時点で、わずか500台の販売実績しかないという噂を紹介しているCNETではある筋の情報として1000~1万台という数字を報じているが、MicrosoftとVerizon自身は販売台数に関するデータを明かしておらず、販売があまり好調ではないということしか現時点ではわからない。

KIN ONE

KIN TWO

こうした経緯もあり、Kinは今週になり大幅な値下げが行われている。Kinは小型版のKin Oneと大型キーボードを搭載したKin Twoの2種類で構成されているが、デビュー時の販売価格はVerizon Wirelessとの2年契約時でそれぞれ130ドルと150ドルだった(Mail-in Rebateを使うとそれぞれ50ドルと100ドル)。それが今週時点では30ドルと50ドルまで、100ドル近く一気に値下げされている。前述のように海外での販売が中止されている状況を見る限り、これは販売テコ入れというよりも、在庫処分に近い状態のようだ。

Kin失敗の理由はいくつか分析されているが、まず指摘されているのは価格が高かったこと。ティーンエイジャーをターゲットにしているにも関わらず、iPhoneやBlackBerryなどのデバイスと月額料金や本体価格がたいして変わらず、しかも旧モデルなどとの比較ではKinのほうが高くなるケースさえあるという状態だった。またKinはシンプルさを重視したことで、スマートフォンが標準で備えているような各種機能がすべて割愛されていた。iPhoneなどではアプリでの拡張が容易で、しかも話題のアプリやサービスなどにいち早く触れることができる。これではあえてKinを選択する理由がない。まずは価格の問題、そしてKinの登場が遅すぎたというのが大方の意見で一致している。

WSJによれば、Kinを開発していたDangerのチームは今秋にリリースが予定されているWindows Phone 7のチームへと編入され、新OSと新デバイスの支援にまわされる予定という。だがWindows Phone 7自体がすでにiPhoneやAndroidなどと比較して周回遅れでのデビューに近い状態であり、Kin同様にデビュー時からの苦戦が予想されている。こうした劣勢をどのように挽回するのかがMicrosoftの力が試される場面だ。