ニコニコ動画には、「描いてみた」と呼ばれるジャンルが存在する。
多数の実力派クリエイターがひしめくこのカテゴリの中でひときわ存在感を放っているのが、「5月病マリオ」と呼ばれるイラストレーターだ。
筆ペンとクレヨンを用いたゆるい雰囲気のタッチを得意としており、かわいげがあるのに、どこかアンニュイな雰囲気で、放たれる言葉は毒気を帯びる──そんなキャラクタが登場するユーモアあふれる作品を発表し続けている。
昨年には初の単行本となる『赤ずきんちゃんがずきんを脱いだようです』(マイクロマガジン社)が発売され、先日(6月18日)にはユーザーからリクエストされた絵を描く『5月病マリオがみんなのムチャぶりに応えて絵を描くよ』というイベントを「ニコニコ静画」を利用して開催するなど、精力的に活動を続けている。そんな彼に、ニコニコ動画との関わりやこれまでの活動についての話を伺った。
──ニコニコ動画に作品を投稿される前は、「2ちゃんねる」のニュース速報(VIP)板(以下、VIP)で活動されていたと伺っています
5月病マリオ そもそもはVIPでイラストを描いていたのですが、それがブログでまとめられて、さらに動画としてまとめてニコニコ動画に投稿してくださった方がいたんです。その動画が(ニコニコ動画の)ランキングに入っているのを見て、「このチャンスはものにしないと」と思いました。それで自分でも動画を作って(ニコニコ動画に)アップを始めたんです。
──ニコニコ動画という新たなフィールドに挑戦されて、いかがでしたか?
5月病マリオ VIPに(イラストを)投稿していた頃は、「馴れ合いうざい」みたいな感じで叩かれることが多かったんですよ。ブログではそうしたやりとりはすごく美化されて載っているんですけどね……。でも、ニコニコ動画に作品をアップすると案外評価していただくコメントが多くて、嬉しかったですね。
──動画にも挑戦されていますが、イラストとは違う苦労などはありましたか?
5月病マリオ 当然ですが、絵の枚数が多かった点ですね。あとは動画が自然に動かなかったりして戸惑いました。動画編集もニコニコ動画に投稿するようになってから始めたので、かなり手探りでした。「Windowsムービーメーカー」(Windows付属の動画編集ソフト)からスタートして、「ニコニコムービーメーカー」を使ったりFlashでやってみたり。実は作品によって使っているツールがぜんぜん違うんですよ。
──代表的な癒し系の画風以外にもさまざまなタッチの絵を描かれていますよね。そうした絵の技術はどうやって身につけられたのでしょう
好きな漫画家は荒木飛呂彦。手慣れた感じであっという間に絵を描き上げた |
5月病マリオ 小さい頃から絵は好きで描いていたんですが、漫画の模写が好きでいろいろな漫画家の絵を模写していたんです。とくに(『ジョジョの奇妙な冒険』の)荒木(飛呂彦)先生ですね。ほかには『ワンピース』『NARUTO』『HUNTER×HUNTER』『ドラゴンボール』……(週刊少年)ジャンプの王道の少年漫画が多いですね。そこから今の絵に落ち着いたのは、手抜きを突き詰めていった結果なんです(笑)。極力少ない線で描いていたらああいう感じになりまして、色塗りに関してもクレヨンでがーっと塗っていたら雑でもそれっぽくなるんですよね。下書きもしないんですよ。
──どうして手抜きを突き詰めようと?
5月病マリオ VIPではリクエストを受けて絵を描いていたんですが、とにかくスピードが要求されると思ったからです。見ている側としても、リクエストしてから描き上がるまでは早いほうが楽しいじゃないですか。そこから手抜きを突き詰めていくようになりましたね。
──そもそもなぜ2ちゃんねるを活動の場に選ばれたのでしょう
5月病マリオ たくさんの人に作品を見てほしいという気持ちがありました。それで、2ちゃんねるはすごく人が多いので、自分の絵を見てもらうのに一番手っ取り早いと思ったんです。いまネットで活動するつもりなら、2ちゃんねるとニコニコ動画を押さえておけば、だいたいネットユーザーの客層はつかまえられるのかなと。あとは……Twitterですかね。
──Twitterをどのように活用されているのでしょう?
5月病マリオ 新作動画を上げたときなどにTwitterで告知すると、そのときに皆さん見てくれるじゃないですか。それで何とか毎時ランキングに食い込むかなと思いまして。
──「多くの人に作品を見てもらう」という部分に関して、かなり戦略的に考えておられるんですね
5月病マリオ そうですね、たとえばマリオやトトロをモチーフに絵を描いたのも、これならどんな年齢層の方でも知っているだろうと思ったからなんです。ただこのままだと(諸問題があって)ここから先は展開できないなと思いまして、(これから描くものは)著作権が切れているものにしようと。それで「赤ずきんちゃん」を選んだんです。これならどこかから(単行本化の)声がかかるだろうと。
──なるほど。その赤ずきんちゃんの動画では、さまざまなニコニコ動画のうp主(動画投稿者)とコラボされていますよね
5月病マリオ コラボでは実は僕のほうから声をかけているんですよ。たとえば赤ずきんちゃんの動画では、声あてを依頼したのですが、こっちから頼んでばかりでも悪いので、その方々が歌った曲にPVを付けたりもしています。といっても直接会って作っていくわけではなく、音源だけが送られてきて、それを切り貼りして作るんです。実際にお会いするのはその後のイベントか何かで、そこで「あのときはどうも」とか「ああ、あの声の人だ!」と(笑)。何か不思議な感じでしたね。
──そうしたコラボを通して刺激を受けたりすることもあるのでしょうか
5月病マリオ そうですね、やはり絵を描く方とお話すると面白いですね。自分とは絵の描き方がぜんぜん違っていたりして参考になります。あとはDTMもやっているのですが、それも音楽関連の方とコラボしたことに影響を受けています。
(DTMでは、iPhoneアプリ「Music Studio」を使って音楽を作り、PCに取り込んでいるという。最近は多忙につき電車での移動時間などを制作に当てている)
──ニコニコ動画でクリエイターとして活動したいと思っている方に何かアドバイスはありますか?
5月病マリオ チャンスがあったら全部食いついていくといいと思いますね。面白そうなことには何でも挑戦していくこと。とくにコラボはとても良いと思います。コラボすることで相手のファンの方も見てくれますし、そこからファンが増える可能性があります。クリエイターとして刺激にもなりますしね。
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画風からモチーフの選択に至るまで、かなり戦略的に練って活動を続けた結果、現在の人気を勝ち得るに至った5月病マリオ氏。彼の活躍は、クリエイター育成の場としてのニコニコ動画における、ひとつのモデルケースとなっていくのかもしれない。
ニコニコ動画の人気絵師・5月病マリオの直筆イラストを1名様に
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(ご提供 : 5月病マリオ様/ニコニコ動画様)
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