チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー・リミテッド(以下チューリッヒ保険) 日本支店が5月26日に提供を開始した、自動車保険の見積りと契約手続きができるiPhone/iPadユーザー向けアプリケーション『Z-Gate』。その開発の経緯と狙いについて、ダイレクト事業本部 代理店開発部 統括部長の並木哲也氏に聞いた。
並木氏には前回、チューリッヒ保険がネット・モバイルを活用して業績を伸ばしていることについて聞いた。同社は特にモバイルに注力しており、その背景には、モバイルでの新規契約件数が、対前年同月比で毎月40~50%増という急速なスピードで伸びていることなどが挙げられる。並木氏は前回のインタビューの最後、スマートフォン向けのサービスも検討していることを明かしていたが、その言葉通り、インタビュー記事掲載後まもない5月26日、iPhone/iPadユーザー向けアプリケーション「Z-Gate」がリリースされた。ここでその概要をまず紹介したい。
「Z-Gate」は、自動車保険の見積りと契約手続きができる、iPhone/iPadユーザー向けアプリケーション。iPhone/iPadの特性を生かし、スムーズな画面遷移とタッチパネルにより、簡単に情報を入力することができる。さらに、iPhoneの高画質カメラにより、車検証や保険証券の詳細な情報を撮影することが可能。これを送信することにより、見積りに必要な情報入力の一連の手続きが簡略化されるアプリケーションになっている。
以下では、「Z-Gate」投入の狙いについて、並木氏にインタビューした内容を紹介する。
――前回のインタビューで、モバイル向けサービスに注力している理由などについてお話いただきましたが、今回、「Z-Gate」を、iPhone/iPadユーザー向けに提供した狙いについて、あらためてお聞かせください。
スマートフォン対応はどこかで考えなければいけないマーケットだと思っていました。前回もお話しましたが、会社の方針として、テクノロジーを駆使してお客様のケアをしていくという方向性がありますが、今回も、ただ単に既存のサイトをリサイズしてiPhone対応しましたというのではなく、お客様の使い勝手は本当にどうなんだろうか、というところから、アプリで何かできないかということを考えました。
アプリにするのであれば、それなりの、お客様へのメリットというか、我々としても新しい取組みをしなければならないと、いろいろ考えていたのです。
そこで、お客様が車検証や保険証券を見ながら手入力をしなければいけないところを、iPhoneのカメラがかなり優れているので、それを写真で撮影して我々に送信していただく、いわばバーチャルなファクス見積りみたいな形で、アプリを提供できないかと考えました。
――まず、顧客の利便性を考えて、とういうことですね。
そうです。やはり、見積りをする場合、乗っている車の型式などは覚えるのも大変で、入力するのも面倒くさいというのが現実です。入力する場合は、キーボードに慣れていないお客様にとって、全角と半角の問題とか、「1」と「I」の問題とか、入力するとしてもエラーが生じる可能性があります。
顧客目線、ユーザー目線で考えると、保険料がもう少し安くなるとか、いいサービスが提供されるとかを頭で理解いただいていても、ご自身での入力が面倒くさいがゆえに逡巡されてしまうというハードルがあったとすれば、このアプリを使うことで、その壁を超えられないかと思いました。
もちろん、まだまだ最初のバージョンなので、アプリの構成であったり、カメラの機能などももっと進化させるという思いはありますが、(サービス提供開始から2週間という)今の段階で、日々多くの問い合わせや見積りが来ていますので、現在のところ、特に問題がないものに仕上がっているのではないでしょうか。
もちろん、見積りをいただいたお客様からは、電話番号とメールアドレスはいただいていますので、何かあればこちらからすぐにお電話を差し上げることも可能です。
まとめると、「Z-Gate」は、ダイレクト系・ネット系の自動車保険に加入する際の、心のハードルを下げる一助になればいいなと思っています。
――サービス内容については、すでに弊誌でも紹介させていただいたのですが、具体的にその良さを教えてくださいますか。
まずお客様情報と車の使用情報を入力する際、iPhone/iPadに個人情報を登録している場合は、「連絡先」から取り込むことができ、入力を省略することができます。また、車の使用状況は、車検証や保険証券の写真をiPhoneのカメラで撮影することで、こちらも入力の手間を省くことができます。必要な情報がそろったことを確認できたら、データを送信すれば完了です。
こうした一連の作業は、PCでやると通常10分程度かかってしまいますが、「Z-Gate」を使えば、スムーズにいくと2分くらいで完了します。
――なるほど、かなり時間が短縮されることが分かりました。ところで、「Z-Gate」はiPhoneだけでなく、iPad向けにも開発されていますが、iPadの日本発売が5月28日で、「Z-Gate」のサービス開始が5月26日だったことを考えると、まさにジャスト・タイミングです。このタイミングでサービス提供というのは、最初から意図されていたものなのでしょうか?
実を言うと、意図はしていませんでした(笑)。当初iPadの開発までは手が回らず、iPhone向けのサービス提供の準備をしていたところ、iPadの日本発売が5月28日からと決まって、これはちょうど同じタイミングでiPad向けにも提供できるのかなと。
そこで修正を行い、iPadでも利用できるようにして、Appleに再度申請をし直して承認をいただいたという経緯です。
――修正のためにすぐに対応できる御社の開発陣がすごいともいえますね。では、前回のインタビューでは「日本初」のサービスを提供し続けてきたとのことでしたが、今回の「Z-Gate」も、日本初なのでしょうか?
はい、iPhoneアプリでの見積りを通して、契約まで一連の流れの手続きができるという意味では、国内の保険業界で初となります。一連の手続きでは、iPhoneアプリで見積もりを行っていただいた後、こちらからお客様にメールを送らせていただき、メールに記載のURLからiPhone専用のサイトにアクセスしていただき、契約が行えるようになっています。
――なるほど。それでは、世界のチューリヒ保険の中で、「Z-Gate」は"日本発"でもあったのでしょうか?
米国や欧州では事故の報告やGPSを使った位置情報を送信できるサービスをiPhoneアプリで提供していますが、見積りをiPhoneアプリで行えるようにしたのは、チューリッヒ保険グループの中で、日本支店が初めてとなります。
――「日本初」であり、「日本発」でもある、ということですね。開発は、いつから開始したのでしょうか。
今年の2月からです。私自身が昨年末ぐらいにiPhoneを手に入れて、周りにもiPhoneを使っている人達もいたので、皆で使っているうちにこれはいけるんじゃないかと。大体のスペックを固めて、開発に着手したのが今年2月でした。
私個人の経験ですが、電車に乗ってパッと車内を見ると、昨年末ぐらいからiPhoneを持っている人が多くなってきたと感じました。「これはやらないといけないんじゃないか」と私の動物的勘で決めてしまった部分もあります。
iPhoneユーザーがあまり無視できない人数になってきて、iPadも出てiPhone 4も今度出るということになると、ここ数年は、顧客が増えることはあっても減ることはないことは明らかです。インタフェースとしても、文字の部分の対応であったりとか、非常に見やすい。今後もっと当社アプリのユーザビリティとか、性能を上げていかなければいけないと思っていますが、まず(iPhoneアプリを)出すことに意義がある、ということで開発、サービス提供開始に至りました。
――「Z-Gate」の保険業界での反応はいかがでしょう。
注目されているといいのですが。実は今回のアプリは、表は非常にシンプルですが、セキュリティ対策に力を注いでいます。見積りに必要なデータは個人情報なので、情報を暗号化するアプリの開発や、別のサーバを立てることにより、セキュアな環境で個人情報を保護できるようにしたのです。
チューリッヒグループのセキュリティのポリシーが厳しいので、それにマッチするアーキテクトを作るほうが、実はお金も時間もかかりました。つまり、表はシンプルですが、裏側がしっかりしているのです。そこのところは、ビジネスモデル特許の申請もしました。
我々としては、チューリッヒ保険への心のハードルを下げるタッチポイントを開発しつつ、入り口はハイテクでも、それ以降は弊社の強みでもある「カスタマー・ケア・センター」において、ヒューマンタッチなサービスを提供して、お客様のケアを行っていきたいと考えています。
――具体的には、「Z-Gate」を、どういうユーザー層に使ってもらいたいとお考えですか?
「ネットリテラシーが高い」「30代~50代」「都心に近いところに居住」といった特徴を持つiPhoneのユーザー層と当社が対象にしているターゲットがマッチしています。
すでに予想を上回る相当数の方に、「Z-Gate」をダウンロードしていただいており、広告・宣伝を積極的にまだ展開していない現状では、いい滑り出しといえると思います。
――今後は、iPhoneアプリなどでどういう展開を考えていらっしゃいますか?
サービスそのものというよりも、お客様を少しでも楽しくするためにゲーム的なものがあったほうがいいと思っています。また、そもそもこの「Z-Gate」をダウンロードする人は、自動車好きな人が多いと思いますので、そういう方が楽しめるようなゲームなのか、お役立ちアプリなのか、そういったことも考えています。
――ありがとうございました。