『レオン』(1994)で脚光を浴びたナタリー・ポートマンや、『フィフス・エレメント』(1997)で一躍スターダムにのし上がったミラ・ジョヴォヴィッチなど、数々の新ミューズを発掘し、世に送り出してきたリュック・ベッソン監督が、最新作『アデル/ファラオと復活の秘薬』プロモーションのために来日。本作は、フランスの有料チャンネル『カナルプリュス』でお天気キャスターとして活躍していたルイーズ・ブルゴワンをヒロインに抜擢したことでも注目を集めている。マイコミジャーナルでは、7日に行われた来日会見の直後に、監督へのインタビュー取材を敢行。新ミューズ ルイーズ・ブルゴワンの魅力や、制作秘話、本作に込めた想いなどを語ってくれた。
――監督が女優を選ぶ際に、インスピレーションを感じるのはどういう時ですか?
監督「難しい質問だね。(女優を選ぶ際の)理由は色々あるけれど……。すごく有名なテニスコーチがまだ小さな子供のプレーを見て、『この子は可能性がある』と感じたりすることがあるでしょう? それと同じじゃないかな。普段、映画を見ていて気になった女優や、トライやテストで将来性を感じた時には、メモしておいたりしているよ。私が大切だと思うのは、人間性と感性、演技力のキャパシティ。それから、自分の才能にまだ気づいていない人が一番いいね。最初から"自分はスターになれる"と自信を持っている人は、私は使いたいと思わないんだ」
――本作のミューズ、ルイーズについてはどうですか? 『カナルプリュス』での彼女のお天気キャスターぶりを見て、ピンときたと伺っています。
監督「今回の場合、"アデル"という人物像は既に出来上がっていたので、私はアデルを探さなくてはならなかった。ルイーズは、女優としての経験は浅いけれど、シナリオの段階から気になっていて、かなり可能性の高い候補の1人だったんだ。彼女の体つきは現代的だけど、当時(20世紀初頭パリ)のレトロな衣装も似合うと思ったし、何より声が特徴的で、気に入っていたんだよ。それから、彼女は番組でいつも仮装してパフォーマンスをしたりしているからね。色々な変装をするアデルを演じるキャパシティがあることも分かっていた」
――アデルは気丈で自立的な女性で、ともすれば男性的な印象になってしまいそうですが、彼女が女性らしさを保っているポイントは?
監督「彼女は目的を持っていて、いつも突き進んでいくという面で男性的かもしれない。だけど私は、それ以外は結構女性らしいと思ってるんだ。自分の弱い部分を人に見せないように、いつも動き回っているところがあって、だけど、立ち止まってよく考えはじめると、感情が高まってワッと泣き出してしまう……そんな性格なんじゃないかな。感性が強くて、鎧を着て武装しているんだけど、中には壊れやすいハートがある。私はそこが彼女の女性らしさだと思うよ」
――では、アデルの魅力はどこだと思いますか?
監督「1912年という時代は、フランスでは女性に参政権はなかったし、一般的には、スポーツもせずコルセットをはめて家の中にいるという生活だった。だけど、アデルはそんな時代を自由に、活動的に生きている。そこが魅力だと思います。原作には、彼女がお風呂に浸かってタバコを吸うところがよく出てきて、ファンにとってアデルの象徴的なシーンになっているんだけど、私は、そのシーンが彼女の"自由"を表しているように思っていて、映画にも取り入れたんだ」
――劇中のアデルの冒険の中で、気に入っているシーンはどこですか?
監督「彼女が蘇ったミイラと会話するシーンが面白いね。ミイラが突然蘇って動き始めたら、ビックリして気絶してしまったりするのが普通でしょう? だけど、彼女はミイラを"妹を助けてくれる医者"としか見ていなくて、全く驚かずに受け入れてしまう。それから、プテロダクティルスも、彼女にとっては恐竜というよりは、ただの"ちょっと大きな鳥"程度のもの。神秘的なはずのことが、彼女が入ると神秘的ではなくなってしまう。"ちょっとしたことでは驚かないわよ"という、寛容さというか、ちょっと頭がおかしい部分がよく表れている場面だと思うよ(笑)」
――原作者のタルディ氏から映画化の許可が出るまで、交渉に苦労されたとか。
監督「構想には10年かかっていて、最初にタルディ氏にコンタクトをとったときは、ほかですでに映画化が決まっていて、断られたんだ。だけど、最初に映画化しようとしたのはアメリカの監督らしいんだけれど実現しなくて、次に、日本でも映画化の話が出たけれど頓挫してしまった。だからタルディ氏は、映画化するということに非常に懐疑的になってしまったみたいで、再度、映画化の交渉のために電話をしたときには、すぐに拒絶されて切られてしまったんだ。だから、ついに説得に応じてくれたときは嬉しかった。彼を裏切りたくなくて、彼に納得していただける映画を作りたかったから、彼に色々と協力してもらって一緒に映画を作ってきたんだよ。出来上がったものを見た彼は、すごく喜んでくれて……」
――一緒に本作を作ってこられたということですが、タルディ氏との印象深いエピソードはありますか?
監督「撮影では、彼が持っているアデルの時代に関する資料を見せてもらって参考にしたんだ。彼は私に、書庫で資料を見てもいいよ、って言ってくれたんだよ! 彼の書庫には本当に沢山の資料があって、なんと、1900年ごろの古い写真なんかもある。彼の漫画の人物画は、彼が創作しているというよりも、そういった写真を基に描いているんだそうだよ」
――劇中にはアデルが妹と優雅にテニスをしているシーンも出てきますが、当時のプレースタイルの演技指導は、どうやって行ったんですが?
監督「当時スーザン・ラングロワというテニスプレーヤーがいて、その映像が今も残っているんだ。その映像をお手本にして演技をしてもらった。もっとも、アデル達がラングロワみたいに優雅にプレーしているのは最初だけで、段々ウィリアムズ姉妹("パワーテニス"で知られる女子プロテニス選手・セリーナ・ウィリアムズとビーナス・ウィリアムズ)みたいになるんだけどね(笑)。それから、テニスの映像だけではなくて、街の様子が映った映像も残っているんだよ。当時の立ち振る舞いや歩き方は現代とは全く違って、皆ゆったりとしていて、前から人が来ると帽子を脱いで挨拶する。現代じゃ考えられないよね、東京のスクランブル交差点とかを見ていると、"絶対に事故になる! "と思ってしまう。車よりも人の方が怖いんじゃないかな? って思うくらいだよ」
また、これまでの作品に比べ、特に娯楽性が強いものに仕上がっていることについても触れ、監督は「今、厳しい世の中なので、アーティストとして、人々に優しさや柔らかさといったフワっとしたものを与える作品にしたかった。『ニキータ』や『レオン』を作った当時のフランス社会は、すごくブルジョワジーな感じで、まどろんでいるようなドロンとした雰囲気があったから、揺すり起こしてやりたいと思っていたけれど、今は不安や悲しみが多い社会なので、そういったものを作りたいとは思わない」と語った。「世の中が明るくなってきたら、『出演者皆殺し! 』みたいな映画を作るかもね。それで、最後のクレジットに『良き時代を思い出して』と入れるんだ」とも話し、ニヤリと笑いながら「まずは日本人から殺そうかな……」と、日本のファンへ向けてサービス(?)コメントも残してくれた。
なお、『アデル/ファラオと復活の秘薬』は、不慮の事故で死に瀕している妹の命を救うために、古代エジプト最高の秘宝といわれる「復活の秘薬」を追い求めている女性ジャーナリスト・アデル(ルイーズ・ブルゴワン)の冒険を描いたストーリー。秘薬につながるカギがエジプト第19王朝ファラオ ラムセス2世にあることを突き止め、エジプトの"王家の谷"へ向かったアデル。一方、同じ頃、パリではジュラ紀の卵の化石から孵化した翼竜・プテロダクティルスが空を飛びまわり、人々を脅かすという事件が起こっていた。秘薬とプテロダクティルスの孵化との関連性に思い至ったアデルは、孵化させた人物とのコンタクトを試みるが――。
『アデル / ファラオと復活の秘薬』は7月3日より丸の内ピカデリー1ほか全国ロードショー。
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Photos : Magali BRAGARD