日本銀行の白川方明総裁は15日、日本銀行本店で記者会見を開いた。同日の政策委員会・金融政策決定会合において決定した、成長基盤強化を支援するための新たな資金供給の枠組みについては、「中央銀行としてはやはり異例の業務であり、ずっと続けるわけにはいかない」と述べた。

白川方明総裁の記者会見が開かれた、日本銀行本店

白川総裁は会見で、同日の政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.1%前後で推移するよう促す」ことを決定したと報告。

日本の景気については、海外経済の改善を起点として緩やかに回復しつつあり、新興国経済の高成長などを背景に、輸出や生産は増加を続けていると報告。そうした下で、設備投資は持ち直しに転じつつある、雇用・所得環境は引き続き厳しい状況にあるもののその程度は幾分和らいでいる、個人消費は各種対策の効果もあって耐久消費財を中心に持ち直している、などと説明した。

先行きの中心的な見通しとしては、日本経済が回復傾向をたどるとみられるとし、物価面では、中長期的な予想物価上昇率が安定的に推移するとの想定のもと、マクロ的な需給バランスが徐々に改善することなどから、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は下落幅が縮小していくと考えられるとした。

さらに、同日の政策委員会・金融政策決定会合において、"成長基盤強化"を支援するため、貸付総額の残高上限を3兆円とする資金供給の枠組みを導入することを全員一致で決定したことを報告。日本銀行では新たな資金供給について、2010年8月末をめどに開始できるよう準備を進めると説明した。

会見では、この新たな資金供給の枠組みについて、多くの質問があった。

新たな資金供給が、日銀が経済の構造的な問題に踏み込むことになるのではないかとの質問には、「現在日本経済は、リーマン破綻以降の世界的な景気の落ち込みの影響から脱し、物価安定の下での持続的成長経路に復帰するという循環的な課題と、人口の減少や生産性の低迷、成長率の趨勢的な低下という、中長期的な課題の両方に直面している」とし、「このような課題を踏まえて、中央銀行として自らの有する機能を使い、潜在成長率の低下といった構造的な課題への取組みという面で、できる限りの貢献を行うことが必要である、との結論に至った」と新たな決定に至った経緯を説明。

その目的について、「金融機関が成長基盤強化に向けた取組みを進める上での呼び水となること、また、金融機関が自らの判断で行う多種多様な取組みを幅広く後押ししていくことを狙いとしている」とし、「民間金融機関が、今回の日本銀行の制度をうまく活用してほしいと思っている」とも述べた。

新しい資金供給策を時限的な措置とした理由については、「現在の日本経済が直面している課題に取り組む上で、来るプレイヤーというか、役割を担うのはあくまで民間で、さまざまな競争環境を整備していくという意味では、政府の役割というのが大きい。ただ、日本銀行がこの面で全く果たす役割がないのかと言うと、(日銀が)持っている流動性の供給という機能を通じて、この面で貢献する余地はないのかと(考え)、こういう措置にいたった。だが、措置自体は、やはり中央銀行として異例の業務であり、ずっと続けるわけにはいかない」と、今回の措置が、あくまで限定的なものであることを説明。

その上で、「今回、この制度をつかってもらうためには、ある程度時限を区切って約2年の期間に金融機関は集中的に取組むことによって、時限を区切ったほうが効果があるという風に考えている」と述べた。

また、新たな資金供給についての情報公開のあり方についての質問には、「今回の措置については、8月末をめどに実行に移していく。実行した後、適切な形で情報公開をし、透明性を確保したいと思っている。具体的にどういう風な情報公開のあり方が適切なのかは、これから検討していく」と述べた。

ギリシャ・ショックを発端としてソブリン・リスク(財政リスク)が指摘される欧州の金融・経済については、「新興国に牽引された海外経済の回復やユーロ安を背景に輸出が増加しており、全体として持ち直しの動きを続けている。もっとも、国別に見ると、好調な輸出に支えられたドイツなど主要国と、ソブリン・リスクやバランスシート調整に直面した周辺国との間で、景況感の格差が大きくなっている」と、同じ欧州でも、国別によって状況が異なることを指摘。

その上で、「金融市場は、周辺国全般のソブリン・リスクの高まりを受けて、不安定な状態が続いているという風に認識している。注意深く見ていきたい」と述べ、懸念する点を明らかにした。

菅直人新政権の経済政策に関しては、「日本経済が抱えるさまざまな問題の克服に向けて、適切な政策を進めることを期待している」と述べた。また、鳩山由紀夫政権で数回行われたという総理大臣との協議については、「可能な範囲でこうした機会が持たれるとよいと思っている」とし、菅総理とも協議を行いたい意向を示していた。