スタンダード&プアーズ(S&P)は2日、『日本の地方銀行-2010年3月期決算--基礎的な収益力の低下がリスク要因』と題するリポートを発表した。「仮に収益力の低下が深刻化・長期化すれば格付けにマイナス影響が及ぶ可能性があることから、信用力評価上のリスク要因として引き続き注目する」としている。
S&Pによると、格付け先地方銀行16行の2010年3月期決算は、本業の利益を示す「コア業務純益」(※)の合計が6,130億円と、資金利益の減少を主因に前の期比9%減少した(計数は16行の合計、比率は16行の加重平均、以下同様)。コア業務純益の減少は3期連続で、3年前の2007年3月期との比較では14%減少している。
※ 業務純益に一般貸倒引当金繰入額を加え、国債等債券関連損益を除いた額
リポートによると、コア業務純益の減少の主因は、日銀の政策金利引き下げなどによる預貸利鞘の縮小や、有価証券利息配当金の減少により、業務粗利益の8割超を占める資金利益が前の期比3%減少したことにある。
役務取引等利益も、格付け先地銀では1%減少。一方、経費は2%増と3期連続で増加し、コア業務純益の減少幅を広げる形となっている。対照的に、大手行6グループは、資金利益が5%増、役務取引等利益が3%増となり、経費も業務粗利益の伸びの範囲内に増加幅がどどまった結果、コア業務純益は8%増加した。
前の期との比較では、与信関係費用が減少し、株式・債券関係損益が改善したことから、格付け先地銀の純利益は2,375億円と前の期の2.4倍の水準となった。しかし、与信関係費用は、(1)欧州のソブリン危機の影響などで国内景気の先行き不透明感が増している、(2)中小企業向けの臨時金融政策により、地銀の収益の柱である中小企業向け貸し出しの与信関係費用が一時的に抑制されている可能性がある、ことなどを考慮し、「今期以降も減少傾向が継続するかは不透明である」(S&P)としている。
S&Pによると、格付け先地銀の長期カウンターパーティ格付けの現在のアウトルックは、現格付け水準における想定を上回るペースで財務状況が改善している北陸銀行が「ポジティブ」、その他の15行が「安定的」。
「損失吸収の第一のバッファーである収益の水準低下は、景況悪化や株価下落により資本を毀損するリスクを高めることから、各行の信用力に影響を与える重要な要因の一つとして引き続き注目する」(S&P)。
また、「仮に今後、収益力がさらに低下した場合には、格下げとなる可能性がある。一方、業務粗利益の増加や経費の削減などの面で進展がみられ、収益力が向上する可能性が高まったと判断した場合には、格上げを検討する」(同)としている。