先々週、米Googleは米サンフランシスコで開催した開発者カンファレンスGoogle I/OでTV向けソフトウエアプラットフォーム「Gogole TV」を発表した。
TVにインターネットを融合するというアイディアは決して新しいものではなく、これまでに何度も試みられ花開かずに終わっている。そのためGoogle TVに関しても、少なからず懐疑的な意見が見受けられる。だが筆者がGoogle I/Oの基調講演やQ&Aセッション、技術セッションに参加した感触では、過去のインターネットTVの取り組みと異なり「今度こそは……」と期待できるような点がいくつかあった。中でも気になったのは「フルWebアクセス」「Webアプリ/Androidアプリ」である。
そのようなところに、さらに気になるニュースが飛び込んできた。5月28日(米国時間)に米Engadgetがプロジェクトを知る人物からの情報として、米AppleがA4チップと16GBのメモリを装備したiPhone OSベースのApple TVを開発していると報じた。価格は99ドルからだという。100ドルを切る価格が大きな話題になっているが、注目したいのは"iPhone OS"の採用だ。Engadgetの報道が事実ならば、iPhone/ iPod touch、iPad向けのアプリをTVでも利用できるようになるかもしれないし、一方iPhone OSアプリ開発者に対してTVという新しいターゲットデバイスが用意されることになる。Googleが開発者カンファレンスのGoogle I/OでGoogle TVを発表したのも、Webアプリ開発者/ Androidアプリ開発者を巻き込んだスマートTVの波を起こすためであり、モバイルにおけるAndroidプラットフォームとiPhone OSプラットフォームのアプリを巡る競争がリビングルームのTVに飛び火しそうな雰囲気がただよってきた。
もちろんEngadgetの記事は噂の域を出ないもので、Google TVとApple TVの対立を語るのは時期尚早である。ただ、ここに来てTVで利用するアプリがにわかに注目され始めたのは事実であり、このタイミングであらためてGoogleがGoogle TVを投入する狙いをまとめてみた。
Androidプラットフォーム開花の手法をTVにも
Googleによると、TVには世界中に40億人の利用者が存在する。これはモバイルユーザーの倍、PCユーザーの4倍の規模だ。TVの視聴者が減少していると言われるが、今でも米国人は1日平均5時間をTVの前で過ごしているそうだ。TVに投じられる広告費は年間700億ドル。だが、広告の形式は数十年前からほとんど変わらず、Webの検索広告のような広告主と視聴者を効果的に結ぶ媒体が存在しないとRishi Chandra氏(グループプロダクトマネージャー)は基調講演で述べた。
巨大なTV市場で、なぜインターネットTVはこれまで成功できなかったのか? Chandra氏は3つの理由を挙げた。
まず、これまでインターネットTVからアクセスできるWebは「TV向けに一部が切り出されたWeb」だった。これは携帯電話市場で、WAP(Wireless Application Protocol: ディスプレイの小さな携帯電話でデータをやり取りするためのインターネット技術)が失敗したのと同じだとChandra氏は指摘した。Google TVでGoogleは、Web全体をTVにもたらそうとしている。
Google TVではYouTubeにもフルアクセス可能 |
「コンテンツ探しの時間を短縮、視聴時間を長く」。Quick Search BoxでGoogle TV、TVサービス、Webをまたがった効率的な検索を実現 |
2つめの理由は、これまでのインターネットTVは「すべてクローズド」だったから。Webユーザーのほとんどは、すでに"自由なWeb"を体験している。自由を知っているユーザーを制約のある世界に閉じ込めるのは不可能だとした。オープンというのはユーザーに対してだけではなく、開発者やコンテンツプロバイダに対しても同様だ。
3つめの理由は「TVまたはWebの選択を課すソリューション」が多かったから。TVかWebか? この両者の選択が求められるならば、「TVの視聴者は間違いなくTVを選ぶ」とChandra氏。GoogleはWebとTVをシームレスに統合するという。
フルWebアクセスを実現するためにGoogleは、AndroidとChromeブラウザの組み合わせでGoogle TVプラットフォームを構成し、さらに既存のWebの動画コンテンツにフルアクセスできるようにFlashをサポートする。
オープンネスと、WebとTVのシームレスな統合を実現するために同社は、Google TVのソフトウエアをオープンソース化する。モバイルにおいて、Androidプラットフォームを開花させた手法と同じだ。
Q&Aセッションで「インターネットTV市場が立ち上がると信じているのか?」という質問に対して、Vic Gundotra氏(エンジニアリング担当バイスプレジデント)は「それは1年半前に、われわれがAndroidに対して聞かれ続けた質問だ」と答えた。「『まともなハードウエアが出てくるのか』とか『オープンソース化は本当に重要なのか』、『エコシステムは成長するのか』と問われ続けたが、今のAndroidの成功を見てほしい。Androidはオープンソースで、パートナーがそれぞれユニークな製品を開発できるように自由であり、かつユーザーは共通のユーザーインターフェイスを利用できる」と同氏。
Androidでは、ハードウエアメーカー、ソフトウエア開発者、通信キャリアなどパートナー個々のアイディアや努力が、Androidプラットフォーム全体の前進にも寄与する仕組みが整っている。Android採用企業が増えエコシステムが大きくなるほどに、そのインパクトは大きくなる。T-Mobile G1の登場から1年半とかからずに、Android携帯は米国の全ての主要通信キャリアに浸透した。Android携帯同士の競争も激しく、早くも第4世代(4G)ネットワーク対応を謳う端末まで登場している。迅速な成長と幅広い展開がオープンなプラットフォームの持ち味であり、「スマートTV」でも同様に大きな波を起こせるとGoogleは信じている。