日本は重要な国
同社は2010年2月にWeb of Scienceと文献管理・論文執筆支援ツール「EndNote Web」を含む総合プラットフォーム「Web of Knowledge」の日本語化を行ったほか、同5月18日(米国時間:日本でのリリースは5月27日)にオンライン論文投稿・査読ツール「ScholarOne Manuscripts」の日本語インタフェースの提供を開始した。
日本語化は、もともとの英語、そして中国語に次いで3番目となる。その他にも言語は沢山あるが、同社が日本語を3番目のサポート言語として選別し、対応を図ったことについてMacGregor氏は、「日本は重要な国」と言い表す。同社のビジネスにおいて日本が締める割合は収益、ユーザー数ともに五指に入るレベル(ほかは米国、英国、中国、ドイツ)であり、そうした意味では、日本語化対応を進めることで、より多くのユーザー、例えば一般学生や中堅以下の大学などへの裾野の拡大を狙いたいとの思惑があったという。なお、中国語への対応については、「躍進が著しい地域で、採択論文数についても急上昇している」ことから、今後の対応も含めた対応だったとし、「日本も中国も成長分野としては重要であり、なにより顧客の数が多い地域だ」とユーザーに使ってもらうことが一番だとする。
その中国の伸びについて同氏は、「中国は研究開発に対し、大きな投資を行ってきたことが、過去10年で論文件数が劇的に増加したことにつながった」との見方を示す。一方、日本はというと、研究開発費用の伸びはほとんどないが、論文件数もほぼ横ばい状態となっている。ただし、「日本の論文の重要性は高まっている」ことを強調する。それは、「引用件数が上昇している」ためであり、より多くの人の論文に活用されている高い質のものへと向上していることを理由に述べる。
研究者が求めるのはインタフェースの進化
論文件数のみならず、引用件数の情報などを含む同社のデータベースだが、まだまだ研究者達には満足のいくものになっていないようだ。
「さまざまな研究者達からさまざまなコンテンツを入れてもらいたいとの要求を貰っている」とのことで、次々と改良が施されている。例えば、各国の政府機関などからの資金の流入などの情報も2008年より盛り込み、資金の出所が企業なのか国家なのかなどを見極められるようになった。また、学会などの内容、議事録などを盛り込んでもらいたいといった要望や論文に関連した書籍情報も取り入れてもらいたいという要望もあり、電子化された書籍への対応を進めたりしているという。
こうした背景には、リサーチアドミニストレータ(研究の評価を行う側の人間)が、Web of Scienceを活用してデータを整理するときに、他の大学や国とどの程度パフォーマンスの差が生じているのかを知るために活用したいという要求があるという。
こうしたベンチマークとしては、カスタムデータ製品として特定の大学や地域だけに対応したものも用意しているほか、元々のデータをカスタマの要求を聞き、どういった答えを欲しいのかを判断した上で、インデックスを形成してそうしたカスタマの戦略決定などの補助として活用してもらうサービスも行っている。「特に日本の大学は国からの助成金が減らされる傾向にあり、研究を進めていくためには企業などから資金を獲得してくる必要がある。しかし、そうするためには自分達がどの分野、事象に対して強いのかを理解しないといけない」と、客観的なデータを活用することで、自身の強み/弱みを理解することにつながることを強調する。
「大学だけでなく官公庁もこうしたデータを活用すれば、自分達の研究が重要なものである証拠として出せるようになり、最終的には日本のビジネスの強化にもつながるはず」と、数値に含まれる意味を読み取る重要性を語り、「何が強みになるか分からない世の中にあって、自分達が進むべき道を示す手助けを我々が出来れば幸いだ」とした。
強い大学は投資をしている
同社のデータベースは、毎年、年間世界大学ランキング(World University Rankings)を発表している高等教育専門週刊誌「The Times Higher Education」に2010年より採用され、今後の同ランキング付けなどに活用されていく予定となっている。
こうしたランキングに登場する大学を見てみると、「HARVARD University」「University of CAMBRIDGE」「YALE University」「Massachusetts Institute of Technology(MIT)」など日本でも名の知れた大学が上位を占めている。いわゆる常連だが、同氏は「投資を行っている大学がやはり強い」と指摘する。ただし、1つに投じられる金額が桁が何桁も違えば別だが、限られた資金でやみくもに全方位で投資を行っても成果は乏しいこととなる。「例えばグリーンやナノといった1つのことに集中して投資を行っている大学もあります。また、その地域のニーズに合わせた研究に投資をしている大学もあります。そういった分野ごとに集中した方が成果が出やすいというのが客観的な数値を見た結果」であり、大学でも研究機関でも何でも、「我々としては、全世界の大学や研究機関などに関する情報を活用し、自分達が何に強いのかを見極め、投資を行い、そしてそれをリターンに結び付けてもらえればと考えている」と、データベースを活用することで、新たな方針付けの指針として役立ててもらえればとする。
最後に同氏に日本が今後も先端の研究を続けていくためにはどういったことを考えていく必要があるかを聞いてみたところ、「政府も大学も同じだが、学術の方針を決めて、そこで強化点を見つけたら投資対効果を見極めながらそれを進めていくことが重要。Web of Scienceだけでなく入手できるあらゆる情報、例えばその大学がその分野で助成金を受け取れているかどうか、研究機関や大学の教員のプロフィールはどうか、そういったものも含めて比較検討することで、本当の意味での投資対効果がでてくる」と語ってくれ、そして「我々としては、日本の研究コミュニティと我々が協力していくことで、日本のイノベーションを将来にわたって生み出していくことができることを願っている」と、今後も日本を重要地域の1つとして取り組んでいくとした。