米Googleが動画コーデックのVP8を「WebM」としてオープンソース化したことは既報の通りだが、ここにきて状況が少し進展してきている。まずサポートについて唯一沈黙を守っていたSafariを抱えるApple CEOのSteve Jobs氏がVP8についてコメントを出したほか、H.264などの動画標準でパテントプールを形成するMPEG LAが特許問題に対して懸念を表明している。現時点で出ているニュースを一通り整理して、WebMの今後について考えてみよう。
SafariにおけるVP8サポートは? - Jobs氏の回答
まず「米GoogleがVP8を「WebM」としてOSS化、主要ブラウザが一斉サポート」で、主要ブラウザ5つ(IE、Firefox、Chrome、Safari、Opera)のうちSafariのみがVP8サポートに言及していないと報じたが、これについて米Apple CEOのSteve Jobs氏がコメントを出している。報じているのは英Registerで、同紙の読者が例によってJobs氏にメールでVP8サポートについて問い合わせたところ、下記のような1行メッセージのみを返信してきたという。
http://x264dev.multimedia.cx/?p=377
Sent from my iPhone
このURLにあるのは、x264プロジェクトの主力開発メンバーの1人であるJason Garrett-Glaser氏のBlogで、GoogleのWebM発表を受けてVP8の解析を進め、その論評を記したものだ。x264はMPEG-4 AVC/H.264用のエンコーダライブラリを開発するオープンソースプロジェクトであり、H.264エンコードを行ったことがある人ならば一度は利用したことがあるだろう。
WebM公開直後の19日に投稿された内容のため、まだ初期段階での解析にとどまるが、Garrett-Glaser氏の論評を総合すれば「Theoraよりは優れているものの、H.264と比べれば圧縮方法においてはるかに劣っている」とかなり辛口のものとなっている。しかも「特許問題に必ず引っかかると思われるにも関わらず、なぜGoogleがその点を認識していないのか不可解」と特許問題を提起している。
以上を踏まえ、Garrett-Glaser氏の言葉を借りてJobs氏の意図を説明するとすれば、「H.264よりも劣るものをなぜ採用する必要がある?」「特許問題があるのに誰がこの技術を使うのか?」ということになる。少なくとも、これを読むだけでSafariでVP8をサポートする気がないのは明らかだ。またこれが意味するのは、Mac OS X上のSafariだけでなく、iPhone/iPod touchやiPadでもVP8はサポートされないということだ。しかもこれらモバイル機器ではFlashも利用できないため、直接コーデックを呼び出す手段がない。
VP8とH.264の能力比較、否定意見と肯定意見
Garrett-Glaser氏はVP8について「H.264の圧縮手法と比較して明らかに劣っており、その問題は、それぞれ"適切化された量子化(Quantization)"、"B-Frames"、"8x8 Transform"が不足していること、そして不適切なループフィルタだ。VP8はH.264よりも、むしろVC-1やH.264 Baseline Profileと比較されるべきだろう。もっとも、(オープンソースにおける数少ない選択肢である)TheoraやDiracよりは優れているのだが」としている。オープンソースプロジェクトとしては期待の新星となるが、H.264とは比べるまでもないというのだ。
これについてはOSNewsが同氏への反対意見をまとめた論評を掲載している。Gregory Maxwell氏は、Garrett-Glaser氏の論評が「不公平」だと偏りを指摘するものの、一方で「現存するコーダーとしては最も洗練され、成熟したx.264プロジェクトの開発を率いる者の率直な意見として、理解すべき問題だ」と一定の評価を与えている。
同氏はx.264には純粋なエンコーダとしての技術が凝縮されており、これがVP8にも同様に改良に役立つはずだという見解を示しており、その例として最近Theoraに加えられた改良点を紹介している。またVP8がエンコーダなしでH.264 Baseline Profileのレベルと論評されたことは、好意的に解釈すべきだとしている。この意見にはOperaのHaavard氏も同意している。
だがMaxwell氏は、Garrett-Glaser氏のVP8特許に関する意見には反対している。Garrett-Glaser氏はVP8とH.264の酷似性を理由に「私は法律家ではないが、このご時世に訴訟好きな連中が放っておくとは思わない」とVP8が訴訟に巻き込まれる可能性を指摘しているが、Maxwell氏は「似ていることと特許を侵害しているかは別の話」と見解を述べている。また「Garrett-Glaser氏は特許に関するプロでもないうえ、H.264における特許も把握していないだろう。x264プロジェクト自体がそれを見過ごしている」とコメントし、素人判断で論じるべきではないともしている。