Webスケールとクラウド
Java EE / Webアプリケーション、Webサービス、XML、SOA、REST……丸山教授は、これらの技術すべてが「インターネットの影響の中から生まれてきている」とし、C/S(クライアント・サーバ)モデルからWebブラウザの存在を前提とした汎用モデルに移行するなど、エンタープライズシステムがインターネットの影響を受け続けていることに触れ、Java EE / Webアプリケーション(汎用クライアントとしてのWebブラウザ)とWebサービス(汎用サーバとしてのWebサーバ)が、その中核技術として位置付けられていると指摘した。
そして2004年ごろから「Web 2.0」という言葉が登場。その中心的な存在としてGoogleが一躍脚光を浴び、ブログやSNSといったサービス、マッシュアップといったAPI関連技術などについても語られることが多くなったが、これが現在の「クラウド」へとつながる流れとなっている。丸山教授はこの時期について「技術的な中核が明確ではなく、"変化の予感"にすぎなかった」と指摘。「2006年に開催された『Web 2.0 Summit』でアマゾンのEC2がローンチされたことで、初めて"クラウド"という概念が登場した」としている。
さらに同氏は、「個人」の登場によって膨大になったデータ量を処理するための「Webスケール」という概念の重要性を指摘。Googleがこれを世界で初めてビジネス化した企業であることに触れながら、「Scale-outアーキテクチャ」「Key/Value」「MapReduce」といった技術が生まれてきた背景と、エンタープライズ領域でも(とりわけデータベースにおける)分散技術に関する取り組みが主流となっている実情を説明した。
クラウドとクラウドデバイス
丸山教授はこれまでのクラウドの流れについて、2004年: Googleの上場を画期とする「インターネット・クラウド」が成立した時期→2006年: Amazon EC2/S2のサービス開始を画期とする「エンタープライズ・クラウド」が派生し概念が登場した時期→2008年: Windows Azureの登場を画期とする「自立型エンタープライズ・クラウド」が登場した時期……としている。この流れを踏まえながら、今後は50億を超えようとしている携帯電話の存在を前提とした「新しいネットワーク・メディアの時代」が到来するという。
ここで丸山教授が引き合いに出したのは、ITU事務総長のハマドゥーン・トゥーレ氏が今年2月にバルセロナで開催されたMobile World Congress 2010で語ったとされる「モバイルからのWebアクセスが5年以内にデスクトップPCからのWebアクセスを追い越す」という発言。米国では実際にiPhoneの登場によってAT&Tのトラフィックが、わずか3年で50倍に増加したり、国内ではミクシィにおいて半数以上(グリーでは99%)がすでに携帯電話からのアクセスとなったりしている事実を踏まえながら、丸山教授はこの流れが急速に到来していることを示唆。そして、「実は金融システムなどのエンタープライズ分野よりも、このようなコンシューマ系サービスがクラウド技術を牽引している側面がある」と語った。
コミュニケーションと情報共有がIT技術を動かす
丸山教授は、このような流れを踏まえた上でのクラウドに関する注目要素として、(PCとの同期が前提とならない)新しいアーキテクチャを採用したiPhoneとアップルのデータセンターに関する動きや、既存の通信事業を単なる「土管」ビジネス化してしまう可能性を持つGoogleのVoIP技術(Google Voice)、コンテンツ配信事業者であるSKYを買収したマイクロソフトの動向とWindows Phone 7、先般Androidを搭載した「Sony Internet TV」を発売すると発表したソニーの動向、そしてAmazon KindleやiPadによって脚光を浴びる電子書籍の存在を挙げた。
丸山教授は「21世紀はパーソナルメディアの時代」と位置付けている。同氏はその中でも「クラウドとクラウドデバイスが今後のIT技術の中核的な存在になると」とし、最後に「コミュニケーションと情報共有がIT技術を動かす"ドライビング・フォース"になる」と強調して講演を締めくくった。