少子化や若年層の"自動車離れ"という逆風を受ける自動車保険業界の中で、外資でありながら、IT・ネットを活用して業績を伸ばしているのが、チューリッヒ保険だ。2007年3月に始めた携帯電話のGPSサービスも、事故の際の対応などに威力を発揮している。今回は、チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー ・リミテッド(以下チューリッヒ保険) 日本支店 ダイレクト事業本部 代理店開発部 統括部長の並木哲也氏に、その好調の理由を聞いた。

チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー ・リミテッド 日本支店の並木哲也氏

日本の自動車保険業界で初めて、ネットでの販売を開始

――現在の自動車保険業界の現状についてお聞かせください。

ベースとして、「少子化」「若年層の自動車離れ」による自動車販売台数の落ち込みが、恒常的に進んでいる状況です。損害保険会社では、自動車保険の売り上げの占める割合が大きく、苦労しています。自動車保険を含む損害保険業界では、例えば3メガ損保グループが市場の約85%を占めており寡占状態と言えますが、こうした逆風により、例えば3メガ損保の2009年4-12月の保険料収入(売上高に相当)は、前年同期比で約1%の減少となっています。

――かなり厳しい状況と分かりましたが、御社を含む、インターネットで直販を行っているダイレクト損保の状況はどのような状況にあるのでしょうか?

ダイレクト損保8社の2009年4-12月の保険料収入は、対前年比で約8%伸びています。

――自動車離れなどの逆風の中でも、ダイレクト損保が伸びている理由は何なのでしょうか?

まず、インターネットを活用したコスト減により、合理的な保険料を提供できることが挙げられます。メガ損保とは、支店網とかコスト構造が異なっており、保険料が2~3割安い場合もあります。現在のような給料がなかなか上がらないといった経済的状況では、例えば、年10万円の自動車保険料が2~3万下がると、家計へのメリットが大きいのです。家計を企業の財務に例えると、収入が伸びないなら、コストを圧縮するしかないのは、当然の行動といえます。

――なるほど。確かに、この時代にあって、保険料が安いというのは魅力的ですね。ネットによるコスト減が保険料を安くできる大きな要因ということですが、チューリッヒ保険の自動車保険業界における位置づけを、あらためてお聞かせください。

保険の自由化のタイミングに合わせ、日本に進出したのが1998年です。当初は、電話による通信販売でしたが、我々が他社と異なった点は、日本の自動車保険業界で初めて、1999年にインターネットでの通信販売を始めた点にあります。

――業界で最初にネット販売を始めたわけですね。ダイレクト損保の「先駆け」とも言えますね。

今でこそインターネットで保険を一括見積もりするようなことは普通にできますが、当時のネット環境はダイヤルアップ回線で、当時最高速がADSLでした。そうした意味では、非常に先進的だったと思います。

「ケア」と「イノベーション」がチューリッヒ保険の社是

――日本に進出後、なぜ最初にネットに目をつけたのでしょうか?

チューリッヒ保険の社是として、「ケア」と「イノベーション」があります。通信販売では、お客様が見えないので、お客様の「ケア」を実現するために、「イノベーション」として、ネットというテクノロジーを駆使しました。顔の見えないお客様に対しても、ケアを行うためです。

――ネット活用で、どのようなメリットがあったのでしょうか?

保険を申込む時は、申込書を始めとした紙がつき物ですが、我々は10年前からコールセンターのすべてのデスクにPCを導入することにより「ペーパーレス」を実現しました。大きな投資でしたが、全てお客様への「ケア」のためです。さらに、ネット活用によるインターネット割引を行うことで、お客様に、より加入しやすいリーズナブルな保険料を提供できたのです。

――コスト削減以外の、ネット活用のメリットはありますか?

お客様が24時間都合がいい時にお申し込み手続きができます。また、ネットで申込まれるお客様は、自分で情報を集めて、自分で決めるという特徴があり、そうしたお客様にとって、大変利便性があるといえます。一方で、当社は、お客様との接点である、コールセンターにも注力しています。

――例えば、他のコールセンターと、どこが違うのでしょうか。

インターネットは、あくまで保険の入り口であり、加入後お客様のケアをどうするかが、コールセンターの役割です。従いまして、当社では、「コールセンター」と呼ばず、「カスタマー・ケア・センター」と呼んでいます。

――「カスタマー・ケア・センター」ですか。ここでも「ケア」が出てくるのですね。

私から言うのもなんですが、設備とか教育とか、「よくぞここまで」と思わせるような体制で、外部委託は一切行っていません。東京と大阪の2箇所に、約350人が勤務していますが、パート社員も全て直接面接した上で採用しています。チューリッヒ保険のマインドを持った社員を純粋養成しているのです。いわば、ネットと電話による"ハイブリッド"サービスにより、お客様の「ケア」を実現しているわけです。

チューリッヒ保険の「カスタマー・ケア・センター」

「将来の顧客」がターゲット、モバイルサービスに注力

――ネットでの契約以外のITを活用したサービスとして、今後どのよう取組みをされる予定でしょうか?

「20代も当社のこれからの顧客になっていく世代」と語る並木氏

モバイルには注力していきたいと思っています。自動車の購入者は減っているとはいえ、まだまだ新しい購入者は出てきます。現在30代前半の世代は家庭や職場に普通にPCがあった世代、20代は高校時代から携帯電話を使っている世代です。この20代の世代が、当社のこれからの顧客になっていく可能性が高い世代ですので、当社のサービスも、徐々にPC・モバイルに注力しています。

2007年3月には、モバイルで「GPS緊急通報サービス」を開始しました。同サービスでは、旅先など土地勘のない場所での万一の事故やカートラブルの際にも、携帯電話のGPS(位置情報機能)を利用して、お客様の現在位置を高い精度でチューリッヒ保険に送ることができます。見知らぬ場所での事故は、お客様も焦っていることが多く、ロードサービスが来るまでの時間が長ければ長いほど、保険会社への不信感が募るものです。

「GPS緊急通報サービス」では、現在位置を高い精度でチューリッヒ保険に送ることができる

GPS緊急通報サービスでは、トラブルの際に駆けつける時間を短縮することで、また一つサービス向上が図れるのです。

お客様にお渡しした緊急用の受付カードには、QRコードも記載していますので、これを読み込むことで、携帯電話にアプリが立ち上がり、データを送信できるのです。位置情報は、緯度と経度で、正確に伝えることが可能です。

――このサービスも、他の保険会社に先駆けて導入したのでしょうか?

はい、日本初です。実は、世界のチューリッヒグループの中でも初めてとなるサービスで、各国のCEOが集まった2007年の米国・マイアミで開かれたカンファレンスでは、成功事例としてベストプラクティスに選ばれ、GW期間中だったにもかかわらず、ディズニーランドに行く暇もありませんでした(笑)。

チューリッヒ保険の日本支店は、いい意味で大きすぎず、意志決定のプロセスが早いのが特徴で、お客様の利便性向上には役立っていると思います。チューリッヒグループ全体での、日本支店の存在感は大きいと言えます。

――「日本初」に加え、「日本発」のサービスも提供しているわけですね。最近では、どのようなサービスを開始されましたか?

2008年12月には、携帯電話でネットと同じように自動車保険の新規契約の締結及び継続手続きができるサービスを開始しました。2002年から携帯電話での継続手続きができるサービスはあったのですが、前の契約と同じ内容での継続しかできないなどの制約がありました。2008年からは、携帯での継続についても、PCと同じようにプランを変えたりすることができるようにしたほか、インターネット割引も適用されるようにしました。

このサービスの提供以降、携帯で継続したお客様は、2008年度中を100とすると、2009年度には600~700と、6~7倍に増えました。

――今後は、どのようなサービスを提供する予定でしょうか?

Xperiaもすごい勢いで伸びてますし、iPhoneも含めて、スマートフォン向けのサービスも検討しています。

――ありがとうございました。