ソニーが11日に発表したレンズ交換式デジタルカメラ「NEX-3」「NEX-5」は、コンパクトデジカメ並みのボディに、デジタル一眼レフと同等の撮像素子を搭載し、レンズ交換が可能な製品だ。同社の業務執行役員SVPパーソナルイメージング&サウンド事業本部本部長・今村昌志氏は、「大きな可能性を秘めた領域」をターゲットにした製品だと語る。
今村氏の言う領域とは、コンパクトデジカメ、デジタル一眼レフ、そしてビデオカメラという3つの領域で、これらを融合させた製品が実現する可能性を示す「答えの1つ」(今村氏)がNEXシリーズだという。
NEXシリーズは「一眼の高画質とコンパクトさをひとつに」というコンセプトを掲げる、コンパクトデジカメより約13倍、フォーサーズ規格のものより約1.6倍大きいAPS-Cサイズの撮像素子によって高画素化、高感度・低ノイズ化が可能で、さらに今村氏は、大判センサーでボケが出やすいというメリットもアピールする。
それにもかかわらず、ボディサイズを「極限まで絞り込んだ」(今村氏)。標準ズームレンズを装着しても従来のデジタル一眼レフαシリーズより薄く、単焦点レンズを装着すると「コンパクトカメラ並み」(パーソナルイメージング&サウンド事業本部統括部長・手代木英彦氏)のコンパクトさを実現した。
手代木氏は、「最も伝えたいのは、一眼レフの高画質を手軽に撮れるという点」として、「ソニーの技術を結集し、世界最小のコンパクトボディに大判の撮像素子を入れた」と強調する。サイバーショットシリーズやPCのVAIOシリーズでも、ソニーは薄型化、小型化に強く、NEXもソニーらしい技術がふんだんに盛り込まれている。
ボディサイズは、NEX-5の方が外装にマグネシウム合金を使ったことで薄型になっており、110(W)×58.8(H)×24.2~38.2(D)mm、約229g(ボディのみ)で、現時点のレンズ交換式デジカメのボディとしては世界最小・最軽量だという。パンケーキレンズを装着した撮影時の重量も354gと軽量だ。
コンパクトサイズを実現するために、従来のAマウントではなく、新たにEマウントを開発。マウント面からセンサーまでの距離であるフランジバックが6割ほど短い18mmになったほか、ミラーレス構造で部品点数が削減され、さらに基板の小型化や基板配置の最適化などの工夫を凝らしたことで、最薄部でNEX-5が24.2mm、NEX-3が25.4mmという薄型ボディを実現した。
ほかにも、ボディからせり出したマウント部とレンズのデザインやアルミ外装の素材を一致させたことで、マウント部とレンズが一体となっているように見え、ボディ自体を薄く見せるという配慮もしている。
コンパクト化に伴ってグリップも小さくなっており、構えると小指が余ってしまうが、グリップとボディの高さを変え、余った小指をグリップに巻き込むようにして持てるようなデザイン上の工夫も加えた。
NEXシリーズに採用されたAPS-CサイズのExmor APS HD CMOSセンサー、画像処理エンジンBIONZ、そしてEマウントレンズという3つのキーテクノロジーを自社開発しており、今村氏は「この技術を生かして、これまでにないカメラの付加価値を提案するのがソニーの使命」と話す。
小型化に加え、デジタル機能でもソニーらしい技術を投入。サイバーショットシリーズに搭載されたスイングパノラマ機能では、7月中旬のファームウェアバージョンアップで、3Dパノラマの撮影に対応。右目用と左目用それぞれを合成してつなぎ合わせることで、HDMI1.4aに対応した3Dテレビで3D映像を表示できる。3D合成した画像は、カメラ映像機器工業会(CIPA)の規格であるMPF(マルチピクチャーフォーマット)で記録され、3D対応ブラビア以外の他社3D対応テレビでも表示できる見込みだ。
ソニーによれば現状は独自の方式での3Dフォーマットということだが、今後Blu-ray Discへの書き込みにも対応を検討しており、BDA(Blu-ray Disc Association)が定めた3D規格に準拠する計画とのことだ。なお、3D画像の撮影はどのレンズでも撮影できるが、広角端での撮影を推奨している。
一般的な3Dは、2つのレンズを使って少しずらして撮影した画像を、両目の視差を利用して3Dに見せるというもので、システムとしては大型化してしまう。NEXではスイングパノラマ機能を応用したことで、「(3D撮影が)少ないリソースで実現でき、ボディサイズでも有利」(手代木氏)だという。
動画機能では、両モデルともHD動画の撮影に対応し、NEX-5ではAVCHDでのフルHD動画にも対応する。動画撮影機能としてはサイバーショットのDSC-TX7やHX5と同等といってもよく、基本的にはフルオートでの撮影となり、顔検出やマニュアル撮影などの機能はないが、大判のセンサーによってボケを生かした動画撮影が可能だ。ボディ本体に手ブレ補正はないが、標準ズームレンズに手ブレ補正を内蔵し、今秋発売予定の高倍率ズームレンズでは、ワイド端で手ブレ補正効果が高いアクティブモードも搭載している。NEXの動画撮影機能は、手代木氏は、ソニーのビデオカメラ「ハンディカム」の動画技術を「惜しみなくつぎ込んだ」という。
キーテクノロジーを含めてNEXのために商品を作り上げたと手代木氏は強調。「ありもののデバイスを組み合わせたのではなく、まさにソニーだからできる製品」と胸を張る。
デジタル一眼レフ、コンパクトデジカメ、ビデオカメラの3つの領域を融合させるのがNEXシリーズだが、さらに同社ではビデオカメラでも新たな製品の開発を進めていることを明らかにしている。
開発発表されたのは、NEXシリーズに搭載されたExmor APS HD CMOSセンサーを搭載し、Eマウントを採用したことで、レンズ交換が可能なビデオカメラで、AVCHD対応の動画撮影が可能だ。マウントアダプターを使い、α用のAマウントレンズも装着できる。大判のセンサーと交換レンズによって、新しい位置づけのビデオカメラを実現したい考えだ。
今年秋の商品化を目指して開発中で、具体的なスペックに関しては現時点では公開されていない。
ソニーがNEXで狙うのは、コンパクトデジカメの買い換え・買い増し層だ。ソニーマーケティングのデジタルイメージングマーケティング部統括部長の下野裕氏は、国内のデジカメ出荷台数が07年度をピークに前年割れが続いていると指摘。その中で、コンパクトデジカメの購入者の32%が一眼レフの購入を検討したものの、大きさや重さ、価格の高さ、操作の難しさの4点の障壁で購入を見送ったという。
前年割れが続くデジカメ市場。デジタル一眼レフは伸びているが、コンパクトデジカメが縮小している |
コンパクトデジカメユーザーは、1997年1月は新規が92%だったのに、09年8月には買い換え・買い増しが8割に達した |
NEXは、こうした課題をすべて解消した製品でありながら、一眼レフと同等の画質や動画撮影機能を備え、「新しい楽しみを提案する」(下野氏)製品と位置づけ、「新しいマーケットを創造する」(同)のが狙いだ。
この領域は、オリンパスとパナソニックのマイクロフォーサーズ機が先行する市場だが、大判のセンサー、AVCHD動画、そして「従来から精力的に取り組んできた領域をフルに活用した圧倒的な小型化」(今村氏)の3点を特徴として差別化を狙う。
さらにソニーではデジカメ市場全体が縮小傾向にある中で、NEXシリーズによってコンパクトデジカメからのステップアップユーザーを取り込み、従来の一眼レフユーザーを加えて市場の拡大を目指したい考えだ。市場を伸張させた上で、NEXシリーズでは15%のシェアをまずは狙う。
それに伴い、同社では「α史上最大」(下野氏)というプロモーションを展開する。3カ所のソニーストアでは発売前の体験イベントも開催。5月15~16日はソニーストア銀座、22~23日はソニーストア名古屋、29~30日はソニーストア大阪で、NEXシリーズを発売前に触れることができる。
広告キャラクターとして、NEX-3には女優の北川景子さん、NEX-5では俳優の浅野忠信さんを起用。積極的なプロモーションを展開していく。
今村氏は、「写真も動画も、目に見える以上のものになる感動をすべての人に届けたい」と話し、「カメラはソニーと思ってもらえるような製品を届けていきたい」と意気込みを語っている。