3月に開催された世界時計博こと「BASELWORLD」で発表された多数の新作の中から、2010年注目ウォッチを、国内を代表する正規時計専門店「BEST新宿」、「ISHIDA青山表参道」を運営するベスト販売の代表取締役社長 石田憲孝氏にきいた。

2010年は本当の"実力時計"が求められている

今回のバーゼルは日本人に会う機会が少なくて、やはり中国アジア圏のパワーを感じるところでした。ただ、SIHHと違い、中国向けと思われるものはサイズ的な提案だけで、あまり高額なものやきらびやかなものが多かった印象ではありません。 むしろ、日本にとってはお求め安い、わかりやすいコンセプトが多くて好感が持てました。

BASELWORLDは40mmサイズを中心として、36mmのサイズダウンしたモデルなどが特徴的なコレクションでした。また、価格帯では30万円より上か下かでテーマ・方向性が変わって提案されていました。

ブライトリング「スーパーオーシャン」。1,500mという高い防水性能をもつ

価格帯30万円未満では「品質を落とさず、より魅力的なもの」というコンセプトで多くのブランドが展開。とくにブライトリングの「スーパーオーシャン」はサイズも抜群で、メタルブレスで29万8,000円。1,500m防水で黒フェイスだけで4種類展開(内リングの色が4色ある)。高額品ではないがかなりハードユースに耐える本格的なものです。

30万円以上では、ウブロやオメガなどのレディースを想定したカラフルなものやダイヤセッティングがよかったです。買いやすいモデルが多く、店頭でも単価が落ちる予想です。

ハミルトンの新作「パルソマティック」。オートマティックでデジタル

ハミルトン新作3つは受注生産。いずれも魅力的

今回、奇抜で面白かったのは、カシオとハミルトン。カシオは「G-SHOCK」などでアナログをテーマにしたコレクションが充実。そのほかでも大きい5600系、90年代を思わせるカプセルタイプの「ジェイソン」などのプロトタイプがありました。

ハミルトンでは昨年発売されなかったコンセプトモデルが受注生産で発売されるなど話題も多く、特にデジタルながらオートマティックという60年代テイストモデル「パルソマティック」は注目です。

G-SHOCK「ジェイソン」復活か?

プロトタイプとして特大G-SHOCKも

高額ではブレゲから、空前の人気が予想されるスポーツウォッチが登場。なんと20振動、シリシウム採用。モデルは「タイプXXI」。価格的にもかなりお得な150万円くらい。またオルゴールが備わったコレクションも発売されるが、見た目2,000万円だが、800万円くらいで発売されます。これは驚愕としか言いようがありません。

ブレゲからはオルゴールが備わった時計も。箱にセットすると共鳴する

ブレゲ「タイプXXI」。20振動

タグ・ホイヤーからはマニュファクチュールムーブメント「キャリバー1887」による150周年記念モデルがカレラより登場します。価格が39万9,000円という絶妙な設定で、これも空前の人気となることは間違いないでしょう。カレラでは、36mm~38mmサイズのエレガントなモデルも発売。価格帯は30万円以下で、間違いなくペア需要、結納需要に応える時計です。

タグ・ホイヤー「カレラ」の新作。右が「キャリバー1887」搭載モデル

全般的にどのブランドも傑出したものはないものの、実用的で現実的なコレクションとなった感じです。ゼニスなどはその好例で、30万円台からマニュファクチュールが手に入ることになり、憧れのエル・プリメロでも60万円台からとなっています。

SIHH、BASELWORLDで感じることはやはり「サイズが見直されている」という点。パネライも42mmの薄い時計を提案してきているし、ブライトリングも42mmのスーパーオーシャンなど40mmを中心に展開。38mm径のものなども多くあり、大型化への方向に少しストップがかかったといえるでしょう。

オメガ「シーマスター」(左)。オメガ「プロプロフ」に白が。ベゼルはほんのり青くひかる

これ見よがしに大きく迫力で見せていた時計業界ですが、もちろんそれでよい時計もありますが、なんでもかんでも巨大化ではなくて、2010年は「実用的」な中にある洗練された美しさがキーポイントだと思います。

スーツなどに合わせたり、大切な人と使ったり、と時計が目立つよりも本人が主役であるような時計のあり方が表現されていたといえるでしょう。

ここ数年の高額化も落ち着いて、ブランドとしてどのステージにいるべきなのかということも真面目に検討したんだろうなと感じました。

最近、個人的には車も小さなものが欲しくて仕方ありません。たとえばミニ クーパーやSLKなどです。高くて気を遣うものよりも街乗りに適している、気軽に使えるもの。時計も同じように気軽に使える本当の"実力時計"が求められているのかもしれません。

要するに今まで背伸びしてきた時計業界ですが、高級な一流時計はそれなりに適正価格になり(高いですが)、中級は中級なりに、と各ステージ、ポジションで最善の品質を追求し、数年前のような区分けが形成されたのが今回のコレクションです。

私は、これを「正常化」に向かっていると感じています。その点でも今回のBASELWORLDは意義のあるものだったといえるでしょう。

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さて今回、バーゼルでは、ハンティングワールドのバッグが大活躍。
懐かしいですよね。最近、昔のアドベンチャーのテイストが戻ってきて、かなりお気に入りなんです。

しかも、みんなが褒めてくれるし、持っている人も、注目している人もまだ少ないので、古くで新しい。なんだか先取りしている感覚です。
価格も高くなく、自分も大人になったんで、背伸びしないで購入できました。

バーゼルの新作は、そんなコレクションです。
懐かしい匂いがします。