YouTube」には世界中から無数の映像が集まってくる。サービス開始から5周年を迎えた2010年現在、投稿される動画は毎分24時間分、すべてを観るには四千年はかかる量に達しているという。そんな膨大な動画の中で、日本発の作品が存在感を示している。

YouTubeには日本発の人気動画を生み出すクリエイターが数多くいる。写真は、説明会にも登場した世界的な人気動画の制作者たち

グーグルは23日、設立5周年を迎えたYouTubeに関する説明会を開催した。2005年2月のサービス開始以来、日本語版の登場(2007年6月)を待つまでもなく、多くの日本人がYouTubeで動画を発信してきた。そして投稿数が増えるにつれ、内容の傾向も徐々に変化してきた。徳生裕人 シニアプロダクトマネージャーはYouTube事業を振り返り、ペットを撮った作品などが多かった頃から、2009年になるとクリエイター自身の顔も見えるような作品が増えてきたと話す。説明会では、そうしたクリエイターの中から、世界中のユーザを楽しませ、多くのファンを抱える3名が紹介された。

世界に日本文化を発信し続ける『Cooking With Dog』

世界中の日本料理好きを魅了する動画シリーズがある。その名も『Cooking With Dog - How To Make Japanese Dishes』。トイプードルの"フランシス"がホスト役となり、女性シェフが日本料理の作り方をレクチャーする動画シリーズだ。カメラ目線を続けるフランシスの隣でシェフが調理に勤しむ様子はシュールなものがあるが、英語音声での解説も好評で世界中から視聴されている。

「Cooking With Dog」の初回投稿は2007年9月。徐々に人気を集め、いまや総再生回数が900万回を超える人気シリーズとなっている

制作者の男性と、女性シェフ&フランシス。1台のカメラで撮影するため、引きとアップ、両方の構図を撮るには2回調理する必要があるという。普通の台所を使っており、たまに近所の音声が入って撮影が中断することも

海外で番組制作などの経験を持つという制作者の男性は、YouTubeを利用するメリットは「日本文化を海外の大勢の人に直接伝えられること」。海外での日本食人気や類を見ない"犬の出演"という要素も加わったことで、制作者が抱いていた"モノづくり"への想いは日本を飛び出し、多くの海外ユーザに届くこととなった。いまやコミュニティ登録者は6万5千人を超え、日々レシピのリクエストや料理への反応が世界中から寄せられるとのことだ。

最新作はナポリタン。紹介すると即座にイタリア人などから、スパゲティにトマトケチャップを入れる料理に「けしからん!」と反応があったという。「イタリア人を敵に回す料理」とするコメントも出る中、ナポリタンが日本では一般的なレシピである、と説明してくれたのもまた海外ユーザだったそうだ。

新表現手法で作者の世界も広がった『オオカミとブタ。』

竹内泰人氏。「オオカミとブタ。」の制作時は大学4年生、完成までに約8カ月間を要した

独自の写真ストップモーション手法で制作された『オオカミとブタ。』は、YouTube上で公開されて以降、世界中のクリエイターを刺激し続けている。作者であり、斬新な手法の考案者は竹内泰人氏。コマ撮りした写真を重ねずに横に並べていくことで、動きに広がりのあるストップモーション映像を作り上げた。投稿後、10日間で100万回以上再生され、この手法を模倣した広告映像も登場するほどの人気を集めた。


現在、プロの映像クリエイターとして活躍する竹内氏は、YouTubeのグローバル感を実感しているという。作品を見た世界中の人々から多くの反応が寄せられ、最近では韓国のミュージシャンからの要請でPVを制作するなど、仕事につながるケースも増えてきたという。「YouTubeの恩恵を受けていて、アップして本当によかったなと思っている」。YouTubeに投稿したことで、手法を真似するユーザが登場したこともプラスに考えている。「写真ストップモーションが1ジャンルとして確立したらうれしい。パクられるということは、この手法がおもしろいと思われた証」。この手法を世界に広めるためにも、YouTubeは最良のプラットフォームだったと言えるだろう。


言語の壁を越えて共感を呼ぶ『日々の音色』

別記事でも紹介しているが、ユーザ支持のみならず各賞で高い評価を得ているのが、ニューヨーク在住の川村真司氏が制作した『日々の音色』。YouTubeでの再生回数が200万回を超える人気作品だ。まずは映像を見てほしい。


この動画は、川村氏の友人である3ピースバンド「SOUR」の楽曲「日々の音色」のミュージックビデオとして制作された。歌詞から伝わる「一人ひとりの個性やつながり」を表現するため、ウェブカメラがネット上のコミュニケーションに使われている点に目を付けた。ファンなどの参加者からウェブカメラで自身を撮った動画を集め、それぞれが"つながり"を持つような映像作品に仕上げた。

ビデオレターでYouTubeについて語った川村真司氏。現在は広告代理店BBH NewYorkでアートディレクターとして活動している。「日々の音色」は個人プロジェクトとして制作した

作品は最初からYouTubeに限定で公開され、言葉の壁を越えて世界中の人々を惹き付けた。「賞をとることよりもうれしいのは、日本語の歌にも関わらず、世界中の人が共感して楽しんでくれたこと。ネットの力や表現の力をすごく実感して、クリエイターとして勇気をもらった」(川村氏)。川村氏にとって、そうした体験を享受できるYouTubeは、単なる動画共有サービスにとどまらない。さまざまな表現やカルチャーを生む場であり、これからも「(YouTubeは)自由な、クリエイティブなプラットフォームであり続けてほしい」と語った。

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なお、この説明会ではYouTubeの今後の展開として、リアルタイム動画配信に関するテストを繰り返していることにも触れられた。ライブ中継サービスとしては「Ustream」が人気を集めているが、YouTubeから同様のサービスが登場する可能性は十分にあるだろう。

また、上記3名による動画以外にも、数々の"日本発人気動画"が紹介された。次ページにまとめたので、未見の方はぜひ一度その動画に触れてみてほしい。