油脂はからだに悪いものと思われがちだが、必須栄養素。実は、現在、日本人に足りていない栄養素のひとつが必須脂肪酸だという。油脂の上手な摂り方を管理栄養士の大柳珠美氏に聞いた。
1.脂質=悪!?
高カロリー=太るというイメージからか、脂はとにかく減らせばいいという風潮がある。だが、ヒトにとって、生命維持のため食品から摂らなければならない必須栄養素のひとつが必須脂肪酸。脂質は生命の根幹をなす細胞膜の構成成分となり、ホルモン合成や脂溶性ビタミンの吸収を助けるなど大事な役割を担っている。最近では、脂肪酸のバランスが脳機能の低下やうつ病発症にも関与していることも言われている。脂質といってもいろいろな種類があり、現在の日本人に足りない傾向にあるもの、多すぎる傾向にあるものなどを正しく把握しておくことが肝腎だ。
2.摂り過ぎに注意したいリノール酸
リノール酸はn-6系列の多価不飽和脂肪酸で、食品から摂らなければならない必須脂肪酸である。しかし、現在の日本人は過剰摂取の傾向にあり、リノール酸を摂りすぎることによる害(心臓・脳血管系疾患、欧米型癌、アレルギー性疾患、その他炎症性疾患)が明らかにされている。リノール酸を多く含む食品は、主に植物性オイル。その他、米、スナック菓子、市販の揚げ物総菜、ドーナッツなどの揚げ菓子からも容易に摂れてしまう。毎食ごはんをどんぶりで食べ、おかずにとんかつやメンチカツなどの揚げ物を選び、サラダにたっぷりドレッシングをかけ、間食にはスナック菓子をつまみ……、という食生活は要注意だ。
3.積極的に摂りたいα-リノレン酸
α-リノレン酸はn-3系列の多価不飽和脂肪酸で、こちらも食品から摂らなければならない必須脂肪酸。α-リノレン酸はn-6系列のリノール酸と作用を抑制しあう関係にあり、バランスが大事となる。つまり、リノール酸を摂るなら、α-リノレン酸もしっかり摂っていくことが必要。現代人は、摂り過ぎの傾向にあるリノール酸を減らし、α-リノレン酸の摂取を増やすことが大事なのだ。α-リノレン酸はしそやえごまなど緑の濃い野菜に含まれる。しそ油やえごま油は液体のオイルとしても販売されている。n-3系列の多価不飽和脂肪酸にはα-リノレン酸の他、EPA、DHAもあり、魚油をしっかり摂ることも必要となる。
4.食べる>液体
例えばリノール酸はごはんを食べることで、αーリノレン酸は魚を食べて摂ることができる。油脂は、肉や魚、卵や大豆、ナッツや乳製品を食べることからも摂取できるという認識を持っておきたい。液体の油は「酸化」の心配があるし、また摂り過ぎてしまうことにもなる。米を食べるなら魚介類をしっかり食べること。サラダには液体オイルのかわりにくるみやアーモンどを散らすのもおすすめだ。おやつにはスナック菓子ではなく、食べる煮干しやチーズを1ピースつまむといい。
5.シチュエーションで使い分ける
外食で揚げ物を食べる機会の多い人はn-6系列の多価不飽和脂肪酸であるリノール酸を比較的、過剰摂取しやすいため、自宅での食事では極力、液体の「植物性オイル」の摂取と揚げ物、揚げ菓子などを控えたい。ごはんのどか食いも御法度。液体の油を使いたいときは、n-6系列の一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸を含む「オリーブオイル」を少量使うのが良いだろう。また、魚が苦手で小食であり、痩せぎみの人が、液体の油で手軽にエネルギーを補給したいときには、n-3系列の多価不飽和脂肪酸であるα-リノレン酸が豊富な「しそ油」や「えごま油」をサラダにかけたり、お味噌汁やスープなどに落とすのもいい。なお、「しそ油」や「えごま油」は引火しやすいので生食がおすすめ。また酸化しやすいので開封後は冷暗所に保存し、早めに使い切りたい。
PROFILE : 大柳珠美(おおやなぎたまみ)
管理栄養士。NPO法人糖質制限食ネット・リボーン理事。明星大学人文学部卒業。二葉栄養専門学校卒業。都内の3つのクリニックで、糖尿病、機能性低血糖症、脂質代謝異常、肥満等、生活習慣病の治療、予防のための食事指導を担当。講演会、レシピ提案、監修等を通し、広く情報を発信。著書に『糖尿病のための糖質オフごちそうごはん』(アスペクト社)をはじめ、『糖質オフのおいしいお菓子とパン』(アスペクト社)、『満腹ダイエット』(プレジデント社)の監修等がある。