SBI証券は3月19日、中国企業の株式への投資をテーマとしたセミナー『2010年、巨大バブルがやって来る!?』を開催した。セミナー第1部の講師を務めた経済アナリストの木下晃伸氏は、「中国を分析する場合は、『バブル』というものへの分析が重要」などと述べた。
木下氏「必ず米国と中国を同時に考えるべき」
木下氏は、三菱UFJ投信などでアナリスト、ファンドマネージャー業務に従事。1,000社以上の国内上場企業を訪問し、現在は、きのしたてるのぶ事務所の代表取締役となっている。近著に『巨大バブルがやってくる!』(小学館)、『会社は倒産体質』(角川書店)がある。 今回のセミナーは、東京都新宿区のSBI証券新宿支店で開催され、約100人が参加した。
木下氏はセミナーの冒頭、「本日お話しさせていただくこと」として、以下の5点を挙げた。
いまや、海外株投資は、必須になりつつある
理由はシンプル、リターンを極大化できる可能性があるから
では、具体的に何を見ればいいのか。また判断基準は?
複雑かつ複合的に見える経済事象を解きほぐす
見えてくるのは、「巨大バブルの再来」
その上で、(リーマン・ショックのあった)2008年を省みた時気づいたこととして、「"バブル"についての洞察が甘かった」と述懐。また、株式市場を分析するために見なければならないこととして、「債券市場」「外国為替市場」「国際商品市場」の3つの「視座」を挙げ、「すべてが同時に動き出すと知ることが大切」と述べた。
さらに、市場の動きを見る上で、米国の動きを見ることの大切さを強調し、その理由として、「米国が覇権国家で米国中心に世界が動いている」「経済規模が世界最大で、インドの10%成長より米国の1%成長のほうが大きい」などと述べた。さらに、米国を見る際、「金利」と「株価」を見るべきと説明。
金利と株価の関係については、「経済の教科書には書いてないが、『金利が上がるときに株価が上がる』」とし、その理由として、「利上げが行われるときは、企業業績が本当に良くなるときだから」と説明。利上げにより一時的に株価が下がっても、その後継続的に株価が上がる現象をグラフで示しながら述べ、「これから起こることは利上げであり、(金融緩和からの)出口戦略は、株価が(その時点から)上がるということを前提として持っていなければいけない」と話した。
また、米国のバラク・オバマ大統領の金融規制発言で、ホンコンハンセン指数が下がったことを示し、「必ず米国と中国を同時に考えるべきだ」と述べた。その上で、中国の現状をどう考えるかについては、「(言う人によって)極端な取り扱いを受けている」とマスメディアなどによる毀誉褒貶の現実を指摘。「自分なりの仮説を構築していないと、情報がとりづらい」と話した。
「中国の利上げ」と「人民元の切り上げ」に着目
中国の出口戦略として考えなければならないものとして、「元の切り上げ」を指摘。通貨切り上げが起こるとどうかなるかについては、日本のプラザ合意後のバブルを例にしながら、「投資対象国の通貨が上がると儲かるため、通貨が上がるということは、外国人にとってはポジティブなものである」とし、「人民元の切り上げがあると、リスクマネーがどっと流れ込みバブルを引き起こす」と説明。「中国の利上げと人民元の切り上げは、バブルを招来しやすい」と述べた。「中国でバブルが起きると、世界的にもバブルが起こる可能性がある」とも予測した。
また、中国への投資を考える上で、細かい情報も見ていかなければならないとし、セミマクロの情報として、中国の自動車産業の状況に関して述べた。その1例として、2009年末時点での天津市100世帯当たりの自家用車保有率が11.7台になったという報道を挙げ、「これから急激なモータリゼーションが中国で起こる」と予測。
ゴールドマン・サックスが「BRICs」のレポートを発表した2003年から始まった中国での自動車普及が、2010年から成長期に入り、2017年までに急激な成長を遂げるのではないかと話した。その上で、注目する企業として、ボルボを買収した中国自動車メーカー「吉利」を挙げ、同社の利益規模と収益の関係性について、「攻めることがリターンという状況になりつつある」と説明した。
最後に木下氏は、中国を分析する際には、「バブルというものへの分析が必要」と強調。また、「海外株投資は誰もやっていないだけに、リターンは大きくなる。だが、(バブル崩壊前に)逃げ出すことも考えなければいけない。いい会社だから株価が上がるわけではなく、さまざまな情報を見て投資してほしい」と述べて、セミナー第1部の講演を締めくくった。
カントリーリスク前提に、「現地の情報が大切」
セミナー第2部では、SBI証券投資調査部の森永康平氏が、中国(上海・北京・広州)での現地視察の報告をし、視察結果をふまえて木下氏と対談した。
森永氏は、上海の街中が上海万博のマスコット「海宝」で一杯となっている様子などを、現地の写真を交えて紹介し、現在の万博ムードを臨場感をもたせながら説明。しかし、巷で流れる「上海万博による株価上昇」には懐疑的であるという見方を示した。一方で、上海万博により恩恵を受けるセクター(産業分野)があることは事実だと話した。例としてオフィスビルやホテル、地下鉄などの建設が進んでいる様子を現地の写真をもとに紹介し、建設産業や不動産産業が恩恵を受けている状況を説明した。
また、日本のメディアの中国に関する報道について、事実よりもネガティブなものが多いことも指摘。日本において「中国の自動車市場では生産過剰が懸念される」と報道されていても、実際に中国の自動車生産基地である広東省・広州の自動車ディーラーに聞いたところ、「1日に4~5台、多い日は1日10台も売れる」というコメントを聞いたと紹介。さらに、「買う際はローンで買う人より、現金で買っていく人のほうが多い」というコメントも紹介した。
その上で森永氏は、「日本のメディアで伝えられている中国の情報と、実際に現地で取材をしたことで取得した情報は違うことが多い。中国株へ投資をする際に、日本で報じられた情報だけを鵜呑みにすると、痛い目に遭うかもしれないという感覚は持つべきだ。なるべく現地の情報を取ってくることが重要である。だが、すべての人が現地取材できるわけではない。そこで、皆さんの代わりに私がレポートやセミナーを通して、できるだけ多くの現地情報を紹介していきたい」と語った。
木下氏も、「新興国にはカントリーリスクがあることを前提とし、現地に行くことが大切。我々アナリストは、経済予測を当てないと仕事がなくなるので、現地の情報をとっている」などと話した。