DAISYコンソーシアム、日本障害者リハビリテーション協会、マイクロソフトは6日、視覚障害者や読字障害のある子供などに向けた電子書籍フォーマット「DAISY」用コンバーター『DAISY Translator』の提供開始を発表した。Microsoft Wordのアドインソフトとして動作し、音声読み上げ機能付き電子書籍を簡単に作成できる。日本障害者リハビリテーション協会のWebサイトから無償でダウンロード可能。

DAISY Translatorをインストールすると、WordのUIからDAISYファイルが作成できる

作成されたファイルを、DAISYリーダーのAMISで表示したところ。黄色のハイライトが読み上げている個所

DAISY(Digital Accessible Information System)フォーマットは、文章読み上げ、読み上げ個所のハイライト表示などの機能を備えた電子書籍の標準規格として策定されており、視覚障害者や読字障害の子供の学習などに利用されている。今回のコンバーターは、Word文書をDAISYフォーマットに変換するためのもので、Wordの書式などを保ったままDAISYファイルを作成できる。DAISYフォーマットはXMLをベースとしており、テキストと書式、音声ファイルをひとまとめにしたファイルとして生成される。

DAISYファイルの拡張子を.zipに変更して解凍すると、各種ファイルが入っているのが分かる。音声はMP3形式で保存されており、リーダー側に音声読み上げ機能は不要

これまでも、DAISYファイル作成ツールは存在していたが、テキストと音声の同期などの設定でXHTMLの知識が必要となり、誰でも作成できるものではなかった。このコンバーターでは、書式などの設定はWordの機能を使って作成できるので、より簡単に作成できるというのがメリットだ。

コンバーターはWord XP/ 2003/ 2007に対応。Wordに統合した形で利用できる。現在ベータテスト中の最新版Word 2010には対応せず、今後対応していく計画だ。対応するファイルフォーマットは「.docx」のみなので、既存の「.doc」ファイルを変換する場合は、まずdocファイルをdocxファイルに変換してから、コンバーターを利用する形になる。

作成されたDAISYファイルは、DAISYリーダーで表示、読み上げなどが可能だ。DAISYリーダーはWindows用のほかiPhone用もあり、「Android用、Windows Mobile用のリーダーの登場も時間の問題」(DAISYコンソーシアム河村宏会長)だという。

教育現場にもDAISYリーダーを普及

会見でDAISYコンソーシアムの河村宏会長は、Wordで作成したデータをDAISYファイル化できることで「(Wordで作成した)プリントを配るような先生には朗報」と話す。河村会長は「1つの教室に、少なくとも2、3人は(教科書や配布プリントなどを)読めない子がいる」と指摘し、DAISYリーダーがあれば、そうした子供でも電子ファイルで読めるようになるという。そのため、教室にDAISYリーダーが普及することを目指しており、国の後押しにも期待を寄せている。

河村会長によれば、「DAISYコンソーシアムは世界の図書館の集まりのようなもの」であり、「従来の図書館の機能では知識を届けられなかった人々に知識を届ける」ことを目的としている。米国では幼稚園から高校までの教科書はDAISYの電子書籍化が法律で義務づけられているほか、韓国では国立図書館が全図書をDAISY化するといった動きが始まっているという。河村会長は、「すべての書籍に電子書籍のオプションが付き、すべての人々が書籍にアクセスできるようになれば」と期待する。

日本では、2008年9月から施行されている「教科用特定図書普及促進法(教科書バリアフリー法)」によって、発達障害や視覚障害などの子供向けのDAISY教科書を製作できるようになり、さらに4月から視覚障害者などに対して書籍の複製・自動公衆送信が可能になったことで、日本障害者リハビリテーション協会では、DAISY図書の製作、配布を強化していきたい考え。こうした背景においても、WordによるDAISYファイル作成機能には期待を寄せる。

EPUBフォーマットとの関連性

ちなみにDAISYフォーマットは、電子書籍の標準規格であるEPUBと関連性が高い。今後登場するDAISYのバージョン4では電子書籍出版用のプロファイルが策定されるが、次のEPUBのバージョン3の仕様と一致させることが検討されているそうだ。河村会長は、「DAISYフォーマットが使う音声同期のためのSMILなどの機能を省いたサブセットがEPUB」という認識を示し、今後共通した仕様を定めていきたい考えだ。

EPUBでは、現在日本電子出版協会(JEPA)が日本語要求仕様案を策定して公開しており、縦書きや禁則、ルビといった仕様を定めている。今後中国や韓国とも連携して、EPUBの仕様を定めるIDPFとともに日本語対応を進めていく。DAISY4でも各国語対応が定められることになっており、同様に日本語対応を進めていくという。

なお、今回はDAISY対応のみで、WordでEPUBファイルを作成することはできない。マイクロソフトCTO(最高技術責任者)の加治佐俊一氏は、「現時点で公開できる話はない」としているが、EPUBへの対応については検討されているようだ。

会見に参加した(写真左から)マイクロソフトCTOの加治佐俊一氏、プロップ・ステーションの竹中ナミ理事長、日本障害者リハビリテーション協会情報センター長野村美佐子氏、DAISYコンソーシアム河村宏会長