スイス・バーゼルにて、3月中旬から催された「BASELWORLD 2010」。数千にも及ぶ世界中のウォッチメーカー、ジュエラーが年に一度、ニューモデルを発表する、この世界時計博ともいえる祭典に今年もカシオはブースを構えた。そこで今回は、そのブースに伺い、カシオ・ヨーロッパのジェネラルマネージャーであるハロルド・シュローダー氏から、欧州におけるカシオの戦略について話を伺ってきた。

――まずは2009年のヨーロッパにおける取り組みと成果について教えてください。

カシオ ヨーロッパ ジェネラルマネージャー ハロルド・シュローダー氏

シュローダー「基本戦略としてG-SHOCK、Baby-G、EDIFICE、PROTREKという、4シリーズに絞ってPRを展開していました。その中でもやはり、G-SHOCKを重点的にアピールするため、音楽やアート、ファッション、スポーツとコラボレートするG-SHOCKツアーを開催しました。ツアーでは、北米などのほかの開催エリアからの影響も強く、プレスやユーザーを刺激することができ、商品の魅力を口コミで広げることにも成功しています。

一例ではHIPHOPシーンを強力に牽引するカニエ・ウェストのNYでの出演が作用し、多くの若者が支持するトレンドショップなども巻き込み、イベントの翌日にはブログなどを通じて盛り上がりをみせました。

ドイツ・ベルリンのツアーでも、各界のオピニオンリーダー600人の参加があったほか、ファッション分野のメディアを呼ぶことができ、G-SHOCKの魅力を確実に伝えることができました」

――2010年もG-SHOCKワールドツアーを続けるそうですね。

シュローダー「規模を拡大させ、今年は世界29都市で展開します。2009年に開催したスペイン、イギリス、フランス、ドイツといった国々に加えて、『ぜひ、我々のエリアでも』と率先して手を挙げてくれているモスクワ、ミラノ、ワルシャワ、アブダビでも開催する予定です。それにG-SHOCKだけでなく、Baby-Gも含めた新しい展開も検討しているところです」

スペインでは、世界遺産である「カーサ・バトリョ」を会場に開催されたG-SHOCKワールドツアー

――G-SHOCKは、エアレースのオフィシャルチームサポーターとしての顔ももっていますが。

シュローダー「世界各地で行われる『Red Bull Air Race World Championship』に我々はジャーナリストを送り込むことで、世界中に"タフネス・ウォッチ"としてのG-SHOCKの世界観を発信してもらうわけです。今年は、8月にドイツにてユーザーに飛行体験してもらうイベントも行う予定ですよ」

――さらに、EDIFICEではF1との提携もありますね。

シュローダー「2010年もひき続き、F1チーム『Red Bull Racing team』とオフィシャルパートナー契約を結びました。今年はさらに、カシオのロゴの露出なども目立つことでしょう。7月にドイツで行うイベントには、トップレーサーのセバスチャン・ベッテル(独)を呼ぶ予定です。Red Bull Racing teamのファクトリーがロンドンにあり、そこにメディアを招き強固なパートナーシップについて説明したり、ドイツのオッペンハイムで行われるF1決勝戦でもイベントを開催する予定です」

――ほかにも今年、欧州ローカルの取り組みとして注力するものはありますか。

シュローダー「ロンドンでスタートした『シークレット・ウォーズ』と題するイベントのスポンサードを予定しています。グラフィック・アーティストたちが腕を競い、お客さんの拍手の大きさによって勝敗を決める催しです。

また、トレンドショップを舞台に、G-SHOCKのデザインコンテストを予定しています。各ショップに参加してもらい、デザインをWEBにアップロードしてもらうのです。投票形式にして、すぐれた作品をG-SHOCK限定モデルとしてトレンドストアで販売するので、どんな製品が誕生するのか楽しみですよね」

2010年は「イタリア」の市場拡大を目指す

――日本や北米では高級ウォッチを扱ってきた正規時計専門店がG-SHOCKを取り扱う動きもありますが、ヨーロッパでの状況はいかがでしょうか。

シュローダー「欧州でも同じです。高級ジュエラーでは、Gハイブリッド(メタルとプラスティックのコンポジットモデル)といった高級ラインを中心にプロモーションをかけています。既に高級店50店舗の開拓ができています」

――今後、欧州にて強化していきたいエリアなどはありますか。

シュローダー「今年は、とりわけイタリアでの市場拡大を意識しています。4月にカシオ・イタリアにて時計事業が本格的にスタートしますからね。このほか、パリでの売り上げも今より拡大していきたいと思います。ハイファッション性の面をもっとアピールすれば、そう難しいことではないでしょう。G-SHOCKは日本のブランドです。1960年代、欧州で日本の工業製品というと、安かろう悪かろうといったイメージを持つ人も多かったのですが、現在ではご存じのとおり、日本製品=高品質の証。製品自体の魅力も強力なのです」

――最後に、カシオ・ヨーロッパの拠点でもあるドイツといえばカメラ、時計など精密で高品質な製品を志向する国民性というイメージがあります。機械式クロノグラフがよく売れる国のひとつとして知られるドイツでG-SHOCK及びカシオ製品が受け入れられる理由はどこにあるのでしょうか。

シュローダー「おっしゃる通り、ドイツ人はメカ(機械式)好きです。しかしメルセデス・ベンツの最高級車や高価な機械式時計は、誰もが買うことができる商品ではありません。それに富裕層であっても、所有する腕時計はひとつだけとは限りません。

ビジネスやパーティーシーンなら高価な機械式腕時計でもいいでしょう。しかしフィッシングやトレッキングなど、目的別に腕時計を選ぶ傾向も増えてきています。そこにライフスタイルを提案するユニークなブランドをもつ、カシオ製品が選ばれる理由があるのです。

さらに、物を買うときに人は、ブランドイメージを気にするものです。そこでカシオは、音楽、アート、ファッション、スポーツとコラボレートする先に挙げたイベントなどを通して、独自の世界観を表現することで顧客満足度を高める努力を行っているのです」