iPadでの電子書籍販売サービス「iBookstore」提供やオリジナルコンテンツ拡充に向けて米Appleが現在でもコンテンツ企業各社との交渉を続けていると、米Wall Street Journalが19日(現地時間)に関係者からの情報を紹介している。4月3日の発売まであと3週間を切ったiPadだが、Appleとの提携が既存のコンテンツビジネスに及ぼす影響を恐れる事業者もおり、交渉が難航している様子が散見される。

WSJによれば、Appleが積極的に交渉を進めているのはTV、新聞、雑誌、教科書などの出版社が中心とみられる。特にTVは番組コンテンツの価格引き下げ交渉をいまだ続けているなど、発売ギリギリまで調整を行うようだ。現在、TV番組1エピソードあたりの単価は1.99~2.99ドル程度とされているが、これを99セントまで引き下げるのがAppleの目標だ。この件については、以前にもNew York Timesが交渉経過を報じている(【レポート】Apple、iPadリリース前に99セント番組配信を大手TV会社に迫る)。だが、既存ビジネスへの悪影響を恐れるTVネットワーク側ではこの価格引き下げに難色を示すなど交渉が進んでおらず、このあたりもNYTが報じた1カ月前の状況から大きく変化していない。

また技術的ハードルも指摘されている。TVネットワークらはiTunesが提供するコンテンツ売り切り型のビジネスよりも、ストリーミングで適時コンテンツを放送するスタイルを好むとされているが、iPadではこうした配信によく利用されているAdobeのFlashをサポートしておらず、またオンライン広告の配信方法も考えなければならず、代替となるアプリの開発が必要となる。またストリーミング自体、コンテンツ制作者とTVネットワーク間での複雑なライセンス条項の縛りもあり、その配信方法に制限が加わる可能性も指摘される。

同様の問題は出版社にもあり、一部出版社では雑誌などのコンテンツ配信のためにiPad向けの専用リーダー開発を進めている(【レポート】Apple iPadアプリ開発環境の最新事情 - Adobe CS/MonoTouch)が、これが4月3日のiPad発売に間に合わないとも言われている。

Appleのコンテンツ提携交渉の中で、いまだ提携パートナーの発表されていない後者の新聞社や雑誌出版社はどちらかといえば後回しとなっている傾向があるが、一方で提携パートナーがすでに発表されている大手書籍出版社においても状況が特別進んでいるわけではない。WSJによれば、iPadで提供されるiBookstoreのラインナップのほとんどは、Amazon.comのKindleやBarnes & Nobleのnookといったライバルの電子ブック販売サービスのそれと同じものになるようだ。

上記のようなコンテンツ拡充交渉の難航と製造上のトラブルによる供給遅れがささやかれるiPadだが、ユーザーの潜在需要は非常に高いようだ。Appleは12日から米国でiPadの事前注文とApple Retail Storeでの取り置き予約を受け始めたが、あるアナリストによれば事前注文だけで受付開始から3日で15万台を突破した可能性があるという分析を出している。WSJではこの注文台数についても触れており、関係者からの証言としてすでに記事執筆時点で数十万台のオーダーが入っていることを紹介している。関係者の1人の話によれば、Appleは発売開始3カ月でiPhone以上の台数でiPadを売り切る計画だという。

現時点で事前注文だけで数十万台に達していること、これには店舗予約分が含まれていないこと、発売後にさらに伸びる可能性があること、iPhoneのときとは異なり米国以外の国でも最初からリリースされること、そしてiPhoneやiPod touchですでに多くのユーザーが製品の性質を理解していることを考えれば、決して不可能な目標ではない。