Windows 7がリリースされて以来、マルチタッチ対応のディスプレイが増えているが、ワコムは17日、富士通のタブレットPC向けに提供しているペン&タッチセンサーの取り組みについて説明会を開催した。
富士通では、おもに海外(北米/欧州)を中心に、1993年からタブレットPCを提供しているが、キーボードとペン入力のコンパーチブルタイプが主流になりつつある2003年から、ワコムよりペン&タッチセンサーユニットのOEM提供を受け、製品に搭載している。そして、マルチタッチ機能を搭載するWindows 7がリリースされた2009年からは、従来のペン入力に指入力をプラスしたワコムのマルチタッチ技術を採用している。
市場としては、教育分野や医療分野での採用が多く、富士通では米サウスダコタ大学やスイス連邦鉄道などへの導入実績がある。
米サウスダコタ大学の事例。入学すると大学から学生すべてにタブレットPCが貸与され、講義ノートやレポートの提出など、学校でのほとんどの手続きに利用しているという |
スイス連邦鉄道での事例。運行管理以外にも、勤怠管理など事務処理にも利用しているという。富士通ではスイス連邦鉄道に4,000~5,000台を納入しているという |
タブレットPCへの実装では、液晶ディスプレイの最前面に指タッチ向けの静電タッチパネル、液晶パネルをはさんで裏面に電子ペンセンサー板を配置する。両センサー間では排他制御が行われており、ペンを感知している場合は、指センサーは動作しないようになっているという。
マルチタッチ対応の指センサーは、指をタッチすると静電結合が起き、これによる静電容量の変化を捉えてタッチポイントを特定する。したがって、静電結合がおきにくい手袋などをしていると、検知がしづらくなる。そして、静電容量の変化を捉える方法としては、ワコムでは投影方式を採用しているという。投影方式とは、タッチポイントの中心は静電容量の変化が大きく、周りにいくにしたがって変化が小さくなるという特性を利用し、より精密に判別するしくみだ。
マルチタッチ対応タッチパネルには、X軸方向とY軸方向にグリッド状に静電容量の変化を感知するITO(Indium Thin Oxide)パターンが配置されており(X軸方向とY軸方向は別々の層の2層構造)、これらITOパターンのどの部分にタッチされたのかをスキャンする方式には、ラインスキャン方式と、クロスポイントスキャン方式がある。
ラインスキャン方式は、X軸とY軸をITOパターンの線単位で1列ずつ順番にスキャンしていく方式。そして、静電容量の変化があったラインを検知する。ラインスキャン方式では、指2本をタッチした場合、X軸2本、Y軸2本の変化を感知でき、それぞれが交差する合計4カ所のポイントを検出できる。実際に触れたのは2カ所なので、2カ所が実像、2カ所が虚像ということになるが、ワコムでは独自技術により、2カ所の実像を判別しているという。ただし、ラインスキャン方式ではタッチポイントの数が増えるにしたがって虚像の数が増えていくため、2本指までの検出が限界だという。
この欠点を補うのがクロスポイントスキャン方式だ。クロスポイントスキャンでは、一方の軸を固定し、もう一方の軸をずらしながらスキャンする、交点ごとにスキャンする方式。固定軸は順番にずらしていき、線の数だけ繰り返す。この方法であれば、3本以上のタッチポイントを虚像を考えずに検知できる。ただし、この方式は、ITOパターンの数が増えるにしたがってスキャン時間も増えるという欠点があるため、現在小型の液晶にしか利用できないという。そのためワコムでは、大型ディスプレイにも利用できるタッチセンサーを研究中だ。ただ、現在3本指以上の検知のメリットを活かす有力な分野もないため、応用分野の開拓も課題だという。
なお、現在開発中の第6世代のペン&タッチセンサーでは、基板の小型化が図られている。これは、電力消費量を抑えることと、PCの小型化への対応が目的だ。小型化は、ラインスキャンという方式が似ているペンと指センサーのユニットを共通化することによって実現しているという。