先物取引、FX、日経225先物、円キャリー取引、リスクヘッジ、ポートフォリオ。これらの金融、証券用語は、ビジネスパーソンなら多くの人が知っているが、多くの人が知っているだけに、実はよく分かっていなくても人に聞きづらい。勇気を出して聞いてみても「そんなことも知らないの?」と恥をかいてしまいそうな気がするという人も多いはずだ。

そこで今回は、証券業界のプロフェッショナルである、ひまわり証券営業企画グループに属し、認定テクニカルアナリストの資格も持つ小山みちる氏と、同社取締役 経営企画グループ ゼネラルマネージャーの鈴木伸夫氏のお二人に、「先物取引」について、基本のABCから教えていただいた。中学生にも分かるように教えていただいたので、「本当はよく分かっていなかった」という人は、これが正しい知識を身につける"最後のチャンス"かもしれないので、ぜひ読んでいただきたい。

「怖い、危ない」「ぬれ手に粟」どちらも間違い

「先物」というと、未来にならないと分らない価格を売買するギャンブルだと思っている人も多いだろう。

ひまわり証券の小山みちる氏

「弊社で扱っている先物取引は日経225先物とTOPIX先物といった指数先物です。これは将来の日経平均やTOPIXといった株価指数を取引するものです」(小山)。数字遊びのギャンブルだから、「怖い」「危ない」と考える人と、「数字遊ぶのギャンブルだから、ぬれ手に粟で儲けられる」と考える人もいる。どちらの考え方も間違いだ。

例えば、商品先物の場合、その商品を扱っている人たちの経営を安定化するという特徴がある。例えば、あなたが牧場を経営していて、家畜の餌にトウモロコシが必要だ。しかし、トウモロコシの価格が1kg=3万円以上に高騰すると、赤字になってしまうとする。あなたは先物市場をウォッチして、1kg=2万5,000円のときに「将来トウモロコシを2万5,000円で買うことができる権利」を買う。

秋になって、天候不順でトウモロコシが4万円に急騰してしまったが、先物を買っていたあなたは2万5,000円でトウモロコシを手に入れることができる(実際の先物取引は、売り買い両方の権利を取引するので、こう単純ではないが、今は置いておく)。もちろん、トウモロコシが豊作で実際の価格が1万5,000円に急落してしまった場合は、あなたは相場よりも高いトウモロコシを買う羽目になり損をすることになるが、トウモロコシが高騰した年にも安定した経営ができるための代価でもある。このような利点があるために、本格的な先物取引は、18世紀の大坂、堂島米会所で始まったといわれている。

あらゆる情報が「先物価格」という数字に集約

では、日経225のような指数を先物取引することの意味はどこにあるのだろうか。

ひまわり証券 ゼネラルマネージャーの鈴木伸夫氏

「先物取引の意義は3つあります。そのひとつは、専門用語で『価格発見性』があるという言い方をします」(鈴木)。この価格発見性というのは難しい言葉だが、鈴木氏は面白い話をしてくれた。「アメリカでは"テロ先物"という実験の構想があるんですよ。どこでテロが起きるかを商品化して売買するものです」。

「人の生き死にがかかった事件で金儲けをするとは」と、憤慨する人もいるかもしれないが、これはあくまで実験の構想であることを断っておきたい。例えば、ある人が、ある場所でテロが起きるかもしれないという情報を持っていたとする。しかし、通報するかどうかは分からない。その情報がどの程度確かかどうかも分からないし、立場上通報できないという人もいるだろう。しかし、これが先物商品だったらどうだろう。

確かな情報ではなくても、小額だったらテロ先物を買ってみようと考える人もいるかもしれない。あるいはテロの実行犯グループ内部の人間が、自分たちが攻撃しようとしている場所の先物をこっそり買うかもしれない。そういうさまざまな思惑が働くことによって、危険な場所のテロ先物は価格が上がっていき、相場を見ることによって、事前にテロの起きる場所を予測できる可能性があるのだ。

「日経平均やTOPIXというのは総合株価指数ですね。ですから、いろいろな人がいろいろな思惑で指数先物を取引します。そこにはありとあらゆる情報が含まれていて、その結果が先物価格という数字に集約されているんですね。ですから、日経225先物価格は、これから日経平均がどう推移していくのかをかなり正確に示しているといえるんです」(鈴木)。

指数先物は「損をしないための安全弁」

もう一つが『ヘッジ機能』だ。指数先物は、いわゆる損をしないための安全弁となる。「日経225先物市場ができた経緯を見ると、機関投資家がヘッジするためという意味合いが強かったのです」(鈴木)。機関投資家というのは、いわゆる証券会社、銀行、生保、ファンドなどで、何千種類もの株を売り買いしている。バブル崩壊やリーマン・ショックのような市場全体が急落するようなことがあったら、機関投資家は資産が激減して立ち往生してしまう。それが嫌なら、A社の株を持っていて、株価が下がり始めたら、A社株を空売りをしてヘッジするしかない。自分の持っている株は安くなるが、空売りして下落後に買い戻せば利益が出るので、株価が下がって資産は減るが、利益も得られ、被害を最小限に食い止めることができる。

「しかし、何千種類もの株をもっている機関投資家が、それぞれの株について、こういうヘッジをしていくのは、大変な作業になってしまいます。企業の株価を決めているのは、6割が市場全体の動向、4割がその企業の業績といわれますから、それだったら市場全体の株価、つまり日経平均でヘッジすればいいんです。ですから、機関投資家は保有している株式の量に見合った量の日経先物を取引して、ヘッジをしています」(鈴木)。

小山氏(左)と鈴木氏から、先物取引について丁寧に教えていただいた

最後の一つが『平準化』だ。例えば、上場はしているが、世間はあまり注目していないような企業の場合、出来高は少なく、株価の変動は激しい。少数の人の思惑で、株価が変動していくからだ。極端な話、小さな企業の株価の場合、どうしてもその会社の株がほしいという大金持ちが現れれば、業績とは無関係に株価があがっていくことになる。ところが、日経平均やTOPIXのような指数は、一部の人の思惑で上下することは少ない。長期間で見れば、社会的な指数として利用できるのだ。「FXに個人投資家が多く参加するようになって、円高圧力が緩和されたともいわれています」(鈴木)。

日経225は「機関投資家も個人投資家も同じ公平な市場」

先物市場が、『価格発見性』『ヘッジ機能』『平準化』の3つの側面で"世の中のため"になっていることは以上で分かった。しかし、同じ機能は、先物でなくても、株市場にも持たせられるのではないだろうか。なぜ、先物でないとだめなのだろう。

「現株というのは、やはり"買い"が中心なんですね。株というのは保有するものですから。ところが、指数先物は売りと買いがフィフティ・フィフティです。フィフティ・フィフティですから、あるべき価格に落ち着くのです」(鈴木)。

大株主が経営もやっているオーナー経営者の場合、自社株を大量に売るということはそう多くはないはずだ。また、個人投資家だって、損得ではなく、気に入った企業の株を長期保有していることだってある。一方で、指数先物は「保有する」という概念がない。売りも買いも同等。だからこそ、人々の思惑が鋭敏に価格に反映されるのだ。

「それに日経225などの場合、情報面では機関投資家も個人投資家も同じ、実に公平な市場なのです」(鈴木)。いわれて見れば、株のインサイダー取引という"ずる"が報道されるが、「日経225のインサイダー情報」などというものは聞いたことがないし、ありえない。確かに"公平"な市場だ。

つまり、指数先物は数字遊びのギャンブルではない。リスクのある投資だ。だから、必要以上に毛嫌いすることは意味がないし、また逆に、ぬれ手に粟で儲けられると考えるのも間違いだ。「日経225ミニは、5万円から参加できる一番参加しやすい市場です。株式を5万円でというと、購入できる株がかなり限られてしまいますよね。それに、市場をきちんと勉強すれば必ず利益がだせる投資でもあるんです」(小山)。

次回は、どうやったら、サラリーマンでも5万円から先物投資が始められるか、その辺りをお伺いする。

"美人アナリスト"小山みちる氏へのインタビュー記事はこちら!!