育休取得パパのお財布を支援します―。父親の育児を応援するNPO法人「ファザーリング・ジャパン」(安藤哲也代表理事)が、産後8週間内に育児休暇を取得する父親に月5万円(最大10万円)を支給する「さんきゅーパパプロジェクト」をスタートさせた。低迷する男性の育休取得率アップが狙いだ。説明会に参加し、プロジェクトの内容やその意義などについて聞いてきた。
現金支給のほかホテル宿泊券やベビーカーも
厚生労働省の調査では2008年度の男性の育休取得者はわずか1.23%(女性は90.6%)。一方、国の調査などでは3割程度の男性が育休を取得したいと考えているとされている。ただ不況のあおりを受け、企業の子育て環境は悪化。キャリアロスを心配する声も多く、理想と現実には大きな隔たりが存在するのが現状だ。また、育休中は雇用保険から給付金が支給されるが、その額は休業前の月給の5割にとどまり経済的な不安もある。同プロジェクトではこの「経済的ロス」に着目。現金支給という形で育休取得を支援することとした。
対象となるのは、産後8週間以内に4~8週間の育休を取得する父親。申請書類や作文などを参考に毎月末に審査を行う。来年3月までの期間に計50人程度に支給する予定。支給額は月5万円(最大10万円)で、資金は企業、個人からの寄付金を充てる。協賛企業の協力で、ベビーカーや抱っこひもなどの子育てグッズ、ホテルの赤ちゃん連れ専用ルームの宿泊券、書籍といった"現物"も支給される予定。申請方法など詳しい情報についてはホームページ)上に掲載している。安藤代表は「5万円10万円ですべてが賄えるわけではもちろんないが、不況のなか、少しでも余裕を持って子育てをしてもらいたい」と話している。
なぜ産後8週間?
同プロジェクトもそうだが、6月に改正される育児・介護休業法(育介法)でも産後8週間以内の父親の育児休暇の重要性を認め、この期間に父親が育休を取得した場合、一度職場復帰しても再び育休を取得できるようになる。なぜ「産後8週間」なのだろうか?
労働基準法の規定では出産した女性は、産後8週間は働くことができない。理由は母体が回復していない時期だからだが、実際はこの時期に家庭内で育児と家事を強いられている母親も多い。
産後女性の心身回復プログラムを開発するNPO法人で同プロジェクトに協力している「マドレボニータ」の吉岡マコ代表は「特に産後1カ月の産じょく期は、体がボロボロ。食事やトイレ、授乳時以外は休んでいた方がいい時期。パートナーがそばにいることで母体が健康な状態に戻り、健康な状態で子育てをスタートすることができる」と話す。「うちは里帰り出産だから」という人も注意が必要だ。安藤代表は「母親だけの里帰り出産では、父子の愛着形成が阻害されるばかりか、そのあとの夫婦のパートナーシップにも深い影を落とすころが多い」と指摘した。
では、女性の本音はどうなのだろう? 「マドレボニータ」が出産女性やこれから子どもを持つかもしれない女性を対象に実施した調査では211人の女性のうち166人が「自分の出産直後にパートナーに育児休暇をとってもらいたい」と回答。希望の期間は1カ月がもっとも多く、夫が自分の意思で積極的に育休を取得してほしいという意見が多かったという。吉岡代表は「この時期を夫婦が"戦友"として一緒に乗り越えることができるかどうかは、その後の夫婦仲に大きく影響する。子どもの誕生を機に夫婦のパートナー関係を築き直すことはとても大事なことだ」と話している。
リアルなパパ友づくりの応援や、ウェブ講義も
とはいえ、育休取得パパは100人に1人の割合。育休をとっても女性のように地域でママネットワークを築くことは難しく、孤独になりやすいという。そこで同プロジェクトでは育休取得者が交流できる「育休パパSNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)」を構築(運用は4月1日から)。赤ちゃんの成長や育児の悩みを全国のパパ同士が交流できるようにした。プレパパ・プレママも参加でき、リアルな育児情報を得ることができる。産後カウンセラーや弁護士、産業カウンセラーなどからアドバイスを受けられるような仕組みもつくる予定だ。
e-learningも採り入れた。男性の育休の重要性や、主婦のパートナーシップ、改正法などについての専門家の講義(動画)もHP上で無料公開。実際に育休を取得したパパの座談会の様子もあり、職場の反応や妻の反応など、リアルな声が参考になりそうだ。2月末まで「育児休暇中」だったタレントのつるの剛士さんらの応援メッセージも視聴できる。
スタートしたばかりの「さんきゅーパパプロジェクト」だが、育休パパや最新の子育て情報などを配信するメルマガの登録者数は順調に伸びており「賛同共感です」「今年10月から育休取得予定です」といったメッセージも多いという。安藤代表は「これは社会変革プロジェクト。さんきゅーパパを増やすことで父親の育児参画を促す原動力にしていきたい」と話している。