デジタルカメラを持ち歩き、写真を撮る行為はすっかり普通になった。気軽に持ち歩いて撮影できるのがデジカメの良さだが、同じように気軽に撮影できるビデオカメラが登場した。それがソニーの"bloggie"「MHS-PM5K」だ。
気軽に360度の動画撮影
bloggieブランドの「MHS-PM5K」は、縦型のカメラでボディを握るようにして撮影するスタイル。本体上部には回転式のレンズを装備しており、これを回転させると電源がオンになり、収納すると電源が切れる仕組み。初期の「サイバーショット」シリーズで採用されていたスタイルだが、直感的に電源オン・オフができるとともに、撮影の自由度が高い。
その中でやはり一番に取り上げたいのが付属の「360ビデオレンズ」だ。これをレンズの先にはめ込むことで、360度の範囲を一度に撮影することができるのだ。これが面白い。
通常、カメラはレンズの向いた方向の一部しか撮影できないが、360ビデオレンズを装着したPM5Kは、同時にカメラの周囲360度すべてを撮影できてしまう。ぐるっと一周360度を余すことなく撮影したパノラマ動画は、見ていて楽しく、不思議な気持ちにさせてくれるのだ。
レンズ自体は軽くはめ込むだけで、動画設定が自動的に720p・30fpsになり、あとはそのままシャッターボタンを押すだけ。画面にはドーナツ状の景色が表示されており、これを見てもどんな風に撮れているのかはちょっと分かりづらい。撮ったものを再生してもこの状態なので、最終的にはPCに接続し、付属の画像管理ソフト「PMB(Picture Motion Browser)」を使って、ドーナツ状の映像を展開する必要がある。
1280×720ドットか640×480ドットの画像に変換でき、それを変換すると横長のパノラマ動画が生成される。普通に再生すると横長の映像にしか見えないが、PMBから「360ビデオプレーヤー」を起動すると、ドラッグ&ドロップで視点を360度切り替えながら動画を視聴できる。
これをさらに360ビデオプレーヤーで再生したところ |
360ビデオプレーヤーで動かしているところ。360ビデオプレーヤーでは、画質が犠牲になっており、詳細を確認するというより、雰囲気を楽しむといった印象になる |
たとえばテーブルに4人が座っている中心にカメラを置いて撮影すると、4人全員を同時に動画に収められる。今まではカメラが向いている方しか撮れずに、決定的瞬間を取り損ねるということもあり得るが、360ビデオレンズを使うと、同時に全員を収めているので、何が起きても常に記録できている、ということになる。
正面の2人がおもしろおかしく話している間、残りの2人がどんな反応をしていたか。今までだったら複数のカメラがないと撮れなかったような、こういう「同時進行の出来事」を一度に収められるわけで、これは空間と時間を超えた一瞬が記録できている、といっていい。
実のところ、使いどころは難しいのではあるが、はまれば本当に面白い。単に町歩きでも、Googleストリートビューを撮るようなイメージで街を全方位撮影して記録できるだけで面白いので、自分なりの使い方が見つけられれば手放せなくなりそうだ。
あとは、撮影時にはどんな映像になるかが分からないのと、再生時もドーナツ状でどういった映像が撮れたか分からないのが難点か。びっくり箱的な楽しさがあると言えなくもないが、簡単にでもカメラ内で変換できると良かった。PCでもHD変換するとそれなりの時間が必要なので、カメラ内で処理するのはちょっと難しそうではあるが。
あとは、変換した360度の映像を視聴するには付属の360ビデオプレーヤーを使うしかなく、YouTubeなどにアップロードしてもその真価を発揮できないのは残念だ。QuickTime VRやFlashを使うことで、ブラウザから360度の写真を表示することはできるが、同様に自由に視点を変えられる動画を動画共有できるとさらに楽しめそうだ。
ケータイ感覚で手軽に撮れるフルHD動画
PM5Kのボディは108(H)×54(W)×19(D)mmという縦型で、ちょっと幅広の携帯電話といった感じ。厚みはあるもののiPhoneなどのスマートフォンよりは細く、握りやすいサイズだ。
270度回転するレンズは、前方の撮影だけでなく、上向きでの撮影や自分撮りでも使いやすい。デジカメとは違って、動画の場合はあまり縦持ちをしないので、液晶が回転する一般的なビデオカメラよりも自由度が高く、回転レンズの良さが生きると思う。
背面には2.4型23万ドットの液晶があり、その下に十字キーや再生・メニューボタンが配置されている。液晶は縦長なので、撮影時には上半分に被写体が表示され、下半分には時計や撮影情報が表示される。再生時には本体を横にして、画面全体を使って映像を表示する。
撮影時には、実質的に半分のサイズをファインダーとして利用することになり、被写体を細かい部分まで確認するのは難しい。また、視野角が狭いため、液晶を真正面から見ないと被写体はまず確認できないので、レンズを回転させてなるべく液晶が顔の正面に来るようにして撮影する方がいい。
メニュー画面は、ソニーのデジカメで一般的なもの。下部のスティック型の十字キーを押し込むかMENUボタンを押す |
動画サイズの変更画面。なめらかさを優先したい場合は720・60pを、手ブレ補正を使いたい場合は720・30pを選択する |
レンズは35mm判換算時の焦点距離が47mm(16:9動画撮影時)、42mm(4:3静止画撮影時)の単焦点レンズで、F値はF3.6。高画質よりも手軽さを重視している分、コストのかかる液晶やレンズ回りは割り切るべきだろう。
撮像素子は1/2.5型CMOSセンサー。有効画素数は動画で207万画素(16:9)、69万画素(4:3)、静止画は16:9で207万画素、4:3の場合は503万画素となっている。
記録できる映像は640×480・30fps、1280×720・30fps、1280×720・60fpsに加え、1920×1080・30fpsのフルHD動画の撮影も可能。ファイルフォーマットはMPEG4 AVC/H.264で、フルHDの場合8GBのメモリースティックPROデュオで1時間20分、720p・60fpsで2時間40分、同30fpsで約4時間。2GBのファイル制限があるので、連続撮影できるのは2GB・約29分まで。
顔検出機能に加えて、手ブレ補正も搭載。ただし電子式で、720p・30fps時でしか使えない。光学ズームはなく、720p時のみ4倍のデジタルズームが利用できる。
「モバイルHDスナップカメラ」という売り文句にあるとおり、気軽に撮影できるというのがPM5Kの真骨頂であり、レンズを回してシャッターボタンを押すだけで撮れる手軽さがキモだ。
画質や設定で細かいことは考えない方がいい。とにかく、持ち歩いて、気になったらすぐにレンズを回転させて撮影する。撮りまくって、ひたすら記録に残すのが楽しい使い方だ。
撮ってすぐにインターネットで共有
もう1つのキモが、インターネットとの親和性の高さ。本体下部にUSB端子を内蔵していて、PCに直結できるのがポイントだ。
USB端子をPCに接続し、本体に含まれている「PMBポータブル」を使うことで、撮影した画像や動画をすぐに動画共有サイトなどにアップロードできるのだ。撮った動画をいちいち編集したりせず、撮って出しでアップロードするのは、ケータイの使い方に近い。
PMBポータブルでは、本体をPCに接続すると撮影動画のサムネイルが表示されるので、そこからアップロードしたい動画を選び、アップロード先を選ぶだけという手軽さで、すぐに動画を共有できる。アップロードできるのはYouTubeやmixiフォトアルバムなど。最近はPCでの定額通信も高速化しており、それなりに実用的なレベルでアップロードができる。
ケータイより高機能で高画質だし、PCさえあればすぐに動画をアップロードできるので気軽に動画アップロードができる。USB接続していると充電も行われるため、使い勝手はよい。
最近はiPhoneなどでリアルタイムに動画を共有するサービスも出てきているが、リアルタイム性よりも、もうちょっと動画自体を楽しんで共有するためのカメラと考えればいいだろう。
常に持ち歩き、頻繁に撮影することがMHS-PM5Kの存在意義だ。360ビデオレンズによる360度の動画も面白く、思わず使いたくなるカメラに仕上がっている。気軽に楽しく動画を撮影したいユーザーにお勧めしたい。