米AppleがA4プロセッサに10億ドル規模の投資を行ったり、iPhone OSプラットフォームのさらなる拡大を計画していると報じられる昨今だが、この鍵を握るとみられるA4の概要はいまだ謎に包まれている。だが米Ars Technicaは2月28日(現地時間)、現在入手できた複数の情報筋からの話を総合して、このA4の姿の解明に挑んでいる。
A4の話題は以前にもVentureBeatがまとめた現場エンジニアらの声を参考にレポートとして紹介したが、ここでの主なサマリーは、A4がARMベースのCortex-A8のシングルコア構造であり、GPUにPowerVR SGX、その他I/Oやコントローラを内蔵したSoCであるということだった。Ars TechnicaのJon Stokes氏は「The A4 and the A8: secrets of the iPad's brain」という記事の中で、複数の異なるソースからの話として、A4はCortex-A8のシングルコアとPowerVR SGXを内蔵したSoCであるというスペックを紹介しており、VentureBeatでの話題を裏付けるものとなりそうだ。
またGPUコアがPowerVR SGXシリーズであることは、SlashgearがiPhone SDKの文章の一部を引用して確実であると報じている例もある。他の詳細は不明だが、iPhoneの現行アーキテクチャをほぼ踏襲した発展版ということは間違いないようだ。
こうなると他のCortex-A8コアのプロセッサと大差ないようにも感じるが、Stokes氏によればA4はそれらを幾分かスリムにしたハードウェア構造を採る可能性があるという。例えば同氏は同じCortex-A8を搭載したFreescaleのi.MX515を例に挙げ、通常のターゲットの定まっていないCortex-A8プロセッサでは、必要以上にI/Oを搭載する傾向があるという。i.MX515の例では、A4に必要ないと思われる機能としてFast IrDAの赤外線がそれにあたる。A4では外部インタフェースとして最低限ドックコネクタ用の30ピンインタフェースを装備すればよく、USBポートとシリアル通信用のUARTを搭載していれば対外通信的には問題ないというのが同氏の予測だ。つまりメモリインタフェース用のブロックさえ残っていれば、あとは多くのI/Oを削減できるため、かなりシンプルな構造にできる。Apple向けにアレンジされただけで何も特記事項がないプロセッサであり、ある意味で"秘密がないのが秘密"という可能性もある。
Freescale i.MX515のブロックダイアグラム。Freescale「i.MX515 Product Summary Page」より |
またスマートフォン用として提供されるi.MX515ではカメラ処理用のブロックが存在するが、iPadではカメラ機能を搭載しないため、Stokes氏はこれも省略されている可能性があるとする。だがA4をiPhoneや、今後登場する可能性のあるカメラ搭載iPod touchやiPadに適用しようと考えた場合、これは現実的ではないように思える。A4のターゲットは現時点で不明だが、残されている機能から逆に狙っている市場を推察することが可能かもしれない。このあたりは今後、本当のブロックダイアグラムが公開されることで明らかになるだろう。
最後にStokes氏は今回のA4におけるPA Semiの役割の分析しており、買収が行われたタイミングから考えて、ARM v7ベースの新コアを設計する時間はなかった可能性が高いと推察する。一方でPA Semiは、PWRficientのような省電力チップの設計に秀でており、これら技術がSoC全体の電力制御やクロックゲーティングなどに転用されている可能性を指摘している。
また同氏は、PA SemiのチームがiPad向けプロセッサではなく、iPhone用に注力している可能性があるとも指摘する。なぜならiPadの電力消費で最も問題となるのはプロセッサではなく、巨大なIPSパネルであり、ライバル製品のSnapdragonなどと比べて数%程度のプロセッサでの電力消費改善がアドバンテージにならないからだとしている。ゆえにiPhone側での消費電力改善に力を入れているのでは? というのが同氏の予測だ。前述のカメラ処理ブロック省略説を挙げているのも、同氏がiPad用とiPhone用で別々のプロセッサを開発していると予測しているからかもしれない。