間もなく正式発売の近付くAppleのiPadに、旧来メディア大手の1つが参加の狼煙を上げようとしている。英Financial Timesの26日(現地時間)付けの報道によれば、大手通信社の1つ米Associated PressがiPad向けアプリの提供と課金を実施する計画だという。
Associated Press(AP通信)は150年以上の歴史を持つ米国を拠点にした通信社。他の通信社の沿革と同じように、同国の複数の新聞社が効率的なニュース収集と配信を目指して非営利団体として組織したものだ。現在では同国内を含む1,700の新聞社、5,000のTV/ラジオ組織にニュース記事や素材の配信を行っている。一方で多くのメディアとは異なり、広告なしのメディアへの直接記事配信による対価という形で収益を得ているため、参加メディアの経営状況がそのまま同社の業績に反映されることになる。メディア企業数が減り続ける現状はAPにとって死活問題であり、新たな収益源の確保が急務となっている。
FTによれば、APプレジデント兼CEOのTom Curley氏は26日、参加メンバーの新聞社らが電子リーダー(eReader)やスマートフォンといった技術をキャッチアップできるよう支援するとともに、iPadをターゲットしたアプリを提供し、サブスクリプションベースの記事の有料配信を開始すると発表した。New York TimesはすでにWebニュースの2011年からの有料課金を表明しており、さらにiPad向け専用リーダーの提供とその課金方法の検討に入っている。またWebニュース配信に関しては、英Reutersも今年内のサービス有料化を表明している。
iPadなどを使った記事の有料配信についてはこれら新聞社/通信社だけでなく、雑誌出版社も計画進展が漏れ伝わってきている。代表的なのは米Conde NastのWiredで、Adobe AIRをベースにした専用リーダーの開発に加え、さらにAdobe CSのiPhone/iPadアプリ書き出し機能を使ってそのままiPad用アプリの提供も計画しているという。Conde Nastではこのほかにも傘下の雑誌ブランドのいくつかを同様の形で専用リーダーやアプリとして提供していく計画で、こうした形態での電子出版が一気に加速することになりそうだ。
またAPでは現在、「AP Mobile」というiPhoneアプリの提供を行っている。ニュース速報をプッシュ通知を通してユーザーに伝える機能の他、通常のニュース記事やヘッドラインが無料で閲覧できることもあり、非常に便利なアプリとなっている。だがFTの報道によれば、これも間もなく課金対象になるとのことで、無料で活用していたユーザーには残念なお知らせだ。
同種のアプリとしては、Web版ですでに課金を実施していたWall Street Journalがモバイル版アプリの有料化を2009年9月に実施した。モバイル版リリース直後は、本来であれば有料のアプリが無料で読めることがiPhoneユーザーにとっての特典だったが、現在はWeb版に加えて追加のモバイル版利用料金も払う必要があるという二重課金形式になっているため、わざわざiPhoneアプリを使うメリットはほぼなくなっている。
このほか、APはWeb配信先として新聞社やTVなどの各社サイトに加え、WebポータルとしてYahoo!とGoogle Newsへの記事提供も行っている。配信に対して料金を請求するスタイルだが、現在Googleとの金額交渉で紛糾しており、今のところAP経由の記事掲載が続いているものの、今後交渉の進展しだいではGoogleなどの無料サイトへの配信は少なくなっていく可能性もある。