成人の80%以上がかかっているといわれる歯周病。歯間ブラシなどを使ってセルフケアできるというが、「習慣化」するのは難しいものだ。ところが1年後の歯間ブラシ継続率が約9割という「歯周病予防プログラム」があるという。開発した(財)ライオン歯科衛生研究所を訪ね、プログラムの内容について伺った。
取材に応じてくれたのは、このプログラム開発に携わった同研究所研究部研究員で歯学博士の山崎洋治氏と同部主任歯科衛生士の武井典子氏。
公衆衛生的なアプローチから始まった「歯周病予防プログラム」
山崎氏 |
歯周病の原因となる歯垢は、歯磨きだけでは落としきれず、歯と歯の間や歯と歯肉の間の歯垢が残ってしまう。そこで必要となるのが歯間ブラシやデンタルフロスなどの歯間清掃用具によるケアだが、厚労省が「健康日本21」(※)のなかで目標としている「40歳、および50歳の歯間清掃用具の使用率50%以上」には到達していないという。
※厚生労働省が提唱する、「21世紀における国民健康づくり運動」のこと。
「歯間ブラシの使用を促進するにはもっと公衆衛生的なアプローチが必要」と考えていた同研究所では、静岡県浜松市健康医療部健康増進課口腔保健医療センター石川昭所長と共同で、継続的な歯間ブラシ使用に重点を置いた住民向けの「歯周病予防プログラム」を開発。通常1回で終わるプログラムが多いなか、継続へのモチベーションを高めるのに効果的とされる2カ月間で3回の指導としたのが特徴だ。
「自覚」を促すのは客観的な指標
実際にプログラムが実施されたのは2007年5月~2008年9月。静岡県浜松市雄踏町(現・同市西区雄踏町)の地域住民56人(男性15人、女性41人、30~70歳)が参加した。計3回の指導ではまず最初は、歯周病とは何かを全身健康との関連なども含めて講義。セルフケアの重要性を確認するとともに、歯間ブラシの選び方や使い方をアドバイスした。生活リズムや食生活、嗜好などから歯周病への危険度などもチェックしたという。
次の段階(1カ月後)では、自分の歯グキの健康状態を調べ、歯間ブラシの効果を確認した。歯垢を染めだす液を使って歯ブラシだけで落とせない歯垢があること、さらにその部位が歯肉の炎症部と一致することなどを確認。歯間ブラシでその歯垢が落ちることも体験した。また、だ液中の潜血を調べる試験紙を使い歯グキからの出血の有無を検査したり、口腔内を撮影し、自分の歯グキの状態を確認したりもした。「客観的な指標を使うことで、参加者は歯の問題を『自分のこと』としてしっかり捉えることができる」と武井氏。これらの情報は本人と歯科衛生士が共有し、2カ月後には歯間ブラシの使用で歯グキがどう改善していくかを、参加者と確認したという。
「歯周ポケット有」が35.7%から10.7%に減少
武井氏 |
もともと歯に関心が高い人が参加に応募したこともあってか、歯間ブラシ使用率はプログラム開始前で55.4%と比較的高めだったが、2回目には96.5%、3回目には100%に到達した。さらに、「通常は何も介入しないと元に戻ることが多い」(山崎氏)使用率だが、同プログラム開始1年後の歯間ブラシ使用率(継続率)は、10カ月間介入がなかったにもかかわらず87.5%。これには同研究所のメンバーも驚いたという。同氏は「これだけの使用率をキープしたということは『歯間ブラシを継続して使いたい』と思わせる内容だったのだと思う」とプログラムを評価した。
歯周病予防への効果も実証された。歯と歯グキの間の溝である「歯周ポケット」の深さを測り、歯周病の進行をチェックする検査(CPI測定※)をしたところ、「歯周ポケット有」の人の割合は、初回の35.7%から1年後には10.7%に減少。また、歯周ポケットの部位数や歯グキからの出血部位数も「有意に減少」し、歯グキの状態が改善しており、「歯間ブラシの継続的な使用は歯周病の改善に有効であること」も確認されたのだ。
※CPI(community periodontal index)は、歯周疾患状態を示す指標。「歯周ポケット有」は、CPIの診査基準で、代表歯(10歯)において歯周ポケット4mm以上が1本以上。
次回はいよいよ、歯間ブラシの"実力"と効果的な使用法について伺います。