プレミアムなアイスクリームバー

「おそろしくよくできたアイスバー」というキャッチコピーで自らハードルをグンッと上げながらも、2008年度は発売初年度の約2.5倍となる売上を記録。そんな超ヒット商品となったのが森永乳業のアイスクリームバー「PARM (パルム)」だ。ここからは、同商品が先端技術の結晶と納得できる開発ストーリーや、綿密に考え込まれた戦略面でのお話をお届けしていこう。お話を伺うのは森永乳業冷菓事業部マーケティンググループ主任の木下孝史さん、同社食品総合研究所第3開発部副主任研究員の岩井大さんだ。

まず「PARM」について簡単に説明しておこう。ブランド誕生は2005年春。毎日をちょっと贅沢にしてくれる「大人のためのアイスクリームバー」として登場した。「なめらかな口どけ」が商品特徴と謳った。

発売以来、順調にファンを増やし、2008年度には発売初年度の約2.5倍の売上げを記録。あまりの評判ぶりに、一時は品薄状態にも陥ったが、2009年9月からは生産量が約2倍になるよう生産体制を増強した。現在展開するフレーバーは「チョコレート」「バニラホワイトチョコ」「ストロベリー」「アーモンド & チョコレート」の4種となっている。

「PARM チョコレート」

「PARM アーモンド & チョコレート」

「PARM バニラホワイトチョコ」

「PARM ストロベリー」

商品名は、"手のひら"という意味のイタリア語「palma」(パルマ)に由来。商品形状は手のひらのように丸みがあり、なめらかな楕円形フォルムとなっている。価格は1本55mlが6本の箱入りタイプで市場予想価格→希望小売価格は399円。他の商品と比較すると、若干高めの設定となっている。また、俳優の寺尾聰さんが「これ、好きなんだよな~」とつぶやき、至福の表情で「PARM」を味わうCMも印象的だ。

CMには俳優の寺尾聰さんが出演

口どけのよさの理由は"溶ける温度"にあり

――キャッチコピーに"なめらかな口どけ"とありますが、これまでの商品とどのような点が異なるのでしょうか。

岩井さん「チョコレートでコーティングしているアイスクリームバーは、従来品の中にはコーティング部分がパリパリとしていて、食べる時にポロッとはがれ落ちることもあったと思います。その理由はチョコレートの溶ける温度が高いからです。こういった商品では、アイスとチョコが別々に口の中で溶けていくため、アイスの味を感じる事が出来ず、コーティングをしているチョコレートの後口が残ります。それは、チョコレートの溶ける温度が高く、アイスが溶けた後からチョコレートが溶け出してくるからです」

――「PARM」はそれよりチョコレートの溶ける温度が低いと?

森永乳業食品総合研究所第3開発部副主任研究員の岩井大さん

岩井さん「はい。『PARM』は従来品のおいしさとは異なる、"アイスクリームとチョコレートの一体感"を大切にしました。チョコレートの溶ける温度を下げ、体温と同じ温度でチョコレートが溶けるようにしたことで、口に入れた瞬間、アイスとチョコが一緒に溶け出し、独特の"なめらかな口どけ"を堪能できるというわけです。アイスクリームに生チョコをコーティングしたようなイメージです」

――確かにチョコレートの口どけの具合は、他の商品とかなり違いますね。

岩井さん「アイス用のチョコレートには、一般的にヤシやパームの種子の油を使うことが多いのですが、どうしても後口に油っぽさが残ってしまいます。そこで、パルムでは口どけがよく、かつ後味に油っぽさの残らないように、色々な油の種類と配合割合を検討しました」

――アイスクリームのほうはいかがでしょう。

岩井さん「もちろん、アイスクリームにも工夫を凝らしました。アイスは製造過程で凍結に時間がかかるほど氷の結晶が大きくなり、なめらかさが失われてしまうのですが、『PARM』はアイスを"急速凍結"させることで、緻密な氷の組織をつくり出しました。なので、アイスも口当たりがなめらかなのです」

――口どけだけではなく、風味やコクも十分に感じられますね。

岩井さん「チョコレートの原料であるカカオマスはカカオ感の強いガーナ産を主体に使用しています。また、チョコレートのトップ感と全体の強さを出すためにココアも配合しています。アイスにはプレミアムアイスに使われているのと同様の新鮮なクリームや脱脂濃縮乳等を使用し、乳固形分を15%、乳脂肪分を8%以上含むアイスクリームグレードに仕上げました。濃厚な味わいにするためにマスカルポーネチーズもプラスしているんですよ。実はこのような新タイプのアイスクリームを製造するため、新たに海外から製造機械を導入しています。設備投資のコストはかかりましたが、その分、商品がヒットしてくれて本当に良かったと、胸をなで下ろしているところなのです(笑)」