ワコムの「Intuos」シリーズがどのように開発され、進化してきたかという秘話が明かされるこの連載。初代「Intuos」誕生エピソードに続き、今回は「Intuos2」誕生の秘密が明かされる。
「Intuos」シリーズの開発秘話を披露してくれたワコム 営業本部プロダクトマーティング部プロダクトマーケティングGr.マネージャー 田中尚文氏(写真左)、ワコム プロダクト統括開発部ジェネラルマネージャー 福島康幸氏(写真右)。両者共に、「Intuos」シリーズ開発当初から製品開発に深い関わりを持つ |
初代の問題点を踏まえ改良を加えた「Intuos2」
既存の「UD」の機能を遥かに凌駕したプロ用ペンタブレットとして登場した初代「Intuos」。しかし、初代Intuosが完成したことで、様々な問題点や、さらなる改良点が生まれたのも事実だった。ワコムの開発陣は、初代Intuosをベースに、Intuos2開発に取り組むことになるのだった。
Intuos2は初代Intuosの3年後の2001年に発売された。Intuos2でワコム開発陣が目指したのは、「描く」という行為の中心となる電子ペンの更なる進化だった。その改良は初代Intuos発売直後からスタートしていたようだ。
「初代IntuosとIntuos2のタブレット本体は、実は同じ金型を流用して作られていて、形状自体はほぼ同じなんです」(福島氏)
確かに形状的には、あまり初代Intuosとの変化が感じられないIntuos2だが、ペンは大きく進化した。
長時間保持しても疲れにくい電子ペンを開発
「初代Intuosでは直径が9mmの電子ペンだったのです。ただ、発売直後から長時間作業していると、疲れてしまいペンの保持力が落ちるという意見がありました。プロユーザーはペンを長時間使うので、自分で最適な太さのペンを求めて、グリップにゴムなどを巻いて太さを調整して、疲労を軽減しているという話もあったんです。そこで、プロユーザーにとってもっと使い易いペンを開発しようという意見が出たんです」(田中氏)
こうして、さらに使い易い、長時間保持しても疲れにくい電子ペンの開発がスタートした。疲れにくい電子ペンの開発には、既存の優れた文房具が参考にされた。
「PILOTのドクターグリップというペンが、新しい電子ペンのヒントになりました。あのペンは直径が13.6mmで、それが使う人間の手の疲労を軽減するというデータがあったのです。他にも様々な文房具を検証しながら、新しいペンの試作品を作ったのです」(福島)
こうして開発された、ラバーグリップを採用し直径の太い電子ペンはIntuos2用でなく、初代Intuosのオプションとして発売された。
「完成した電子ペンを初代Intuosのオプションデバイスとして発売したんです。それが『プロフェッショナルペン』なのですが、初代Intuosユーザーの方々に大変好評だったので、Intuos2の標準のペンとなったのです」(田中)
こうしてオプションデバイスであった新しい電子ペンの基本的な機構は、後継製品の標準デバイスとして採用されることとなった。新しい電子ペンには、他にもプロクリエイター向けに様々な配慮がなされている。
「工夫した部分といえば、ペンのサイドスイッチの部分ですね。クリエイターにはMacユーザーが多いんですが、ペンのサイドスイッチは必要ないと言う方が相当数いらっしゃいました。そこで、グリップ部分を付け替えることによってサイドスイッチがないタイプのペンとして使えるようにしたのです。人の好みや使い方はそれぞれ違っていて、一人ひとりの方に満足して使っていただくには、最大公約数的な仕様にまとめるだけでなく、さまざまなカスタマイズの選択肢を提供することが必要と考えています」(福島)
誰もわからないような部分にまで、改良を加える
ペンの改良点は、持ちやすさの改善だけではない。ペンの周囲にも、細かな配慮が施されている。
「Intuos2のペンスタンドは、初代Intuosと同じように見えるのですが、実は細かな改良が加えられています。初代Intuosが発売されたとき、『デスクでの作業中、ペンスタンドが倒れやすい』というユーザーの声がありました。それに応えて、倒れにくいデザインにペンスタンドも変更されています。ペンの台座の部分の切れ込みの角度を変更し、安定感があるものになっているのです。実は初代Intuosの時、ペンスタンドの金型が複雑で抜きにくいという問題点があったのですが、ペンスタンドのデザインを改良した事で、金型がシンプルになったという、エピソードもあるのですよ」(福島氏)
ペンの太さや、ペンスタンドの改良のように、Intuos2では、ユーザーの声に応えて、様々な試みがなされている。カラーバリエーションもそのひとつだ。
「ペンタブレットはクリエイターの皆さんが机に常設して毎日使うものという事を改めて考えました。そうすると、デスクには他のツールもありますし、各自、色なども好みが違ってきます。そこで、Intuos2ではカラーバリエーションも2色用意しました」(福島氏)
「初代Intuosと比較すると、スペックとしては大きな変化はなかったIntuos2ですが、売り上げはかなり伸びました。私達はプロクリエイター向けにこの商品を開発しているのですが、プロの方だけでなく、いわゆるハイアマチュアの方の層まで商品が受け入れられて来たという実感がありましたね」(田中氏)
こうして徐々に改良されプロクリエイターやハイアアマチュアに認知されていったワコムの「Intuos」シリーズは、「Intuos3」でさらに大きな進化を遂げることになるのだった。
撮影:岩松喜平