スウェーデンの首都ストックホルムの郊外にあるEricssonの本社

--日本では従業員のうつや職場のストレスがよく話題になります。

うつは聞きませんが、従業員の中にはストレスを抱えている人もいます。通信業界は需要が強く、技術の進化も速く、人によってはそれがストレスになることもあります。従業員には子どもや家族があり、社会生活もあります。

そこで、Ericssonでは、ワークライフバランスを改善してもらうよう努めています。たとえば、女性も男性も有給産休/育児休暇を取ります。出産後は1年半の休みがとれますが、最後の6カ月は分けてとることもできるし、一度に1年半とることもできます。

スウェーデンでは育児休暇中の給与は社会保障から出ます。ですが、社会保障では100%にならない社員もいるので、Ericssonがこれを補完します。これなら父と母のどちらが育児をするのかを(収入に頼らず)平等に決めることが出来ます。

その後の保育所ですが、スウェーデンでは誰もが保育所に入れると国が認めており、保育所の心配はありません。カナダでは、Ericssonの中に従業員の子ども向けの保育所を作りました。

ちなみに、Ericsson社員の女性比率は約22%です。管理職レベルでも女性のバランスを反映させており、250人のうち約50%が女性です。スウェーデンではほとんどの女性が働いており、キャリアを作っています。男女に関係なく、家族を持ち、働くことができるようにしたいと思っています。このための予算は、景気の影響を受けないようにしています。

--日本では有給休暇が取りにくく、実際に消化しない人も多いといわれています。

スウェーデンでは7月に4週間ほどの休暇を取る伝統があります。残りは一生懸命働くので、ここで充電をするのです。

休暇が取れないというプレッシャーを感じている従業員はいません。正反対で、休暇は働くために重要と考えています。会社としても、従業員にしっかり働いてもらうために休暇をとるようプッシュします。

--優秀な社員を維持するリテンション対策を講じていますか?

報酬では、固定給に上乗せする利益配分(Valuable Pay)があります。これは、年単位または3年単位で評価されます。優秀な従業員を維持するための策として、われわれはそのような社員を「キーコントリビュータ」と評価します。比率は従業員の約10%で、長期的なインセンティブ(株ベースのプログラム)を与えます。

金銭的報酬はこの2種類です。上司や仕事内容が楽しくなかったり、キャリアを発展できなければ、報酬に関係なく人は会社を辞めます。Ericssonでは、金銭的モチベーション以外のリテンションの取り組みを進めています。具体的には、ロイヤリティ、インスピレーション、エンパワーメントの構築にフォーカスしています。

中でも重視しているのがエンパワーメントで、従業員に常にキャリアチャンスを与えたいと思っています。自分の能力に挑戦する機会が与えられれば、職場はダイナミックでチャレンジングになります。社員はインスピレーションを得て、退屈しません。ずっとEricssonにいたいと思うはずです。

私個人もEricssonに30年勤務した後、一度辞めました。ですが、Ericssonから誘われて戻りました。Ericssonでは、スウェーデン以外の国でも働いたし、他の部署も経験しています。現在の部署は2003年からです。

Ericssonにはいくつかの取り組みがありますが、その1つが「IPM (Indivudual Performance Management)」で、マネージャとスタッフが話をして、目標を設定して経過をフォローします。長期的/短期的なコンピテンス開発計画を立て、キャリアプランを盛り込みます。これにより、必要な開発プランが見えてきます。

先述のAcademyはバーチャルな空間でトレーニングを受けられるプログラムです。テレコム業界の動きは速く、モバイルインフラ技術のリーダーという地位を維持するには、従業員にすばらしいトレーニングを提供することが重要と考えています。Academyでは、教室だけでなく、OJT、ナレッジマネジメントツール、専門家、eラーニング、ホワイトペーパーなど、さまざまな手段と資料を提供します。主要な大学や研究機関とも協力しています。

Ericssonの歴史は電話の歴史と同じ。本社内には電話業界の発達が時系列でわかる展示がある

--組織が大きいと動きがとりにくくなり、トップの方向性がボトムの従業員に見えにくくなるとよくいわれます。「大企業病」に陥らないようにするために、どのような取り組みを進めていますか?

組織が巨大化することのデメリットは常に心配しており、予防対策を積極的に実践しています。たとえば年に1度、全従業員にモチベーション調査を行い、意見や見解を聞いています。これは戦略立案の土台となるもので、全員が社の方向性付けに関与していることになります。

Ericssonには、事業、マーケットなどさまざまな部署があり、チームベースで働くことが多くあります。企業は大きいのですが、構造としては階層的ではないと思っています。透明性のあるコミュニケーションと情報公開により、一部だけに情報が届くようなことがないようにしています。

もう1つの価値はスピードです。組織の層ごとに情報が伝わっていくのでは遅すぎます。社員を信頼し、意見を吸収していけば、指示や許可を待つのではなく、進んで仕事をし、イノベーションが生まれる -- このような文化を目指しています。